地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

さらにググられる医療

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ググられる医者

 2010年のNew England Journal of Medicine誌になりますが、医師のレーティングサイトに関するひとつの見解がperspectiveに掲載されました *1

 当時、ぼくはいよいよこういう時代になって来たかあ、といった感想は持ちましたが *2、それほど実感というか切実感はありませんでした。

 

 あれから6年。情報はどんどん拡散していく時代となり、インターネット環境は混沌としています。

 

 レストランや本などのレーティングサイトが問題となったこともあるようですが、医療機関の情報についても同じことでしょう。

 便利だったはずのインターネットに信頼性の低い情報が蔓延るようになり、何を信じてよいのかよくわからなくなっています。

 

 近年の専門領域では、どのような議論がなされているのでしょうか?

 さきほどの論文の関連論文を検索してみたところ、過去5年で16件がヒットしました。この中から最近のものをかいつまんでご紹介したいと思います。

 

まとめ

  • 医者もレーティングを気にするもの。
  • レーティングを受診の参考にする人はまだ一部であり、評価はごく少数の人によってなされている。 
  • 患者が評価できることは医療のごく一面にすぎず、レーティングは公平ではない。
  • 短期的な願望をかなえることが、将来のアウトカム改善につながるとは限らない。
  • レーティングを重視することは、医者と患者双方のためにならない。

 

低い評価を気にして萎縮する医者

抗菌薬出してくれない?(Sabin, 2013年) *3

 倫理的事例の検討コーナーのようですが、レーティングが低くショックを受ける医師に対して、どう考えるかという、まるでお悩み相談やヤフー知恵袋のようです。詳しくは原文をご覧ください。

 まあ、気になりますよね。

 低いレーティングを見てしまった後で、不必要な抗菌薬の処方をしてほしい、という患者が来院。わかります。

 医者も人ですから、いろいろな体験に影響を受けているわけです。

 

 この事例の倫理的問題について検討されていますが、ここで着目したいのはこちら。

One site, RateMDs, grew from rating 2,475 physicians in January 2005 to rating 112,024 in January 2010, representing approximately 16 percent of all practicing U.S. physicians [1]. Another site, HealthGrades, claims 7 million visits per month. A recent study of 500 randomly chosen urologists found that 80 percent had at least one online rating [2]. And Medicare’s Physician Compare website will start to include physician quality reports in 2014.

 

 ひとつのサイトでは、全米の16%の医者がすでにレーティングされ、泌尿器科医への調査では、80%が1回以上の評価を受けていた、とあります。この時点ですでに広く活用されているようです。

Further expansion is inevitable. According to the Pew Internet project, 85 percent of U.S. adults use the Internet. Of this group, 72 percent reported that they had looked for health information online during the past year [3]. But, while 8 in 10 Internet users have researched a product or service online, to date only about 20 percent have consulted patient reviews of clinicians and medical treatments. And while 32 percent have posted a review of a non-health-related product or service, only 3 to 4 percent have reviewed a clinician, hospital, or treatment. From the perspective of digital entrepreneurs, online physician rating is a market with substantial growth potential.

 

 利用状況については、米国の成人のうち85%がインターネットを活用し、過去1年間で72%が健康情報について調べています。そのうち、医者や治療について、患者の投稿したレビューを参照したことがある人は約20%とあります。

 また、自分が体験記としてレビューを投稿したことがある人は32%ですが、医者・医療機関や治療を評価したことがある人は3-4%にすぎなかった、ということです。

レーティング利用者は少数派だった

 2013年当時の米国の調査ですが、レーティングを投稿する人や参照する人は、まだ少数派だった、ということです。 

 今の日本では、果たしてどのようになっているのでしょうか。

 

レーティングは誰のためにもならない

 次は、レーティングに対する専門的見地からの意見です。

5つ星ドクター?(Ma, 2015年) *4

we consider the current online patient rating of doctors as neither fair nor beneficial to physicians or patients.

 

 現状の医師レーティングサイトは公平ではなく、医師や患者のためにならない、という主張となっています。

 

 主観的に患者が評価できることは、時間や対応のていねいさ、希望に応じてくれたかなど、限定的な項目にすぎません。

 たとえば、ここで例に挙げられているのは、検査をたくさんオーダーすることや医療用麻薬を処方することは、もっと効果のある体重減少のカウンセリングや禁煙指導に比べて満足度が高くなるでしょう。

 そもそも不必要なルーチンのMRI検査や医療用麻薬の処方に「ノー」と言えば、患者は怒ってしまうかもしれません。

 

 希望に応えてくれるかどうかで医者が評価されてしまうとしたら、適正な医療ができなくなるおそれもあります。

言う通りにしてくれる医者がいい医者か? 

 ここで、以前書いたこちらの記事 医者を選ぶための5つのポイント - 地域医療日誌 を思い出しました。

 

 所詮、患者側からは、医療のある一面でしか評価をなしえないのです。そして、患者のためになる治療を施そうとすると、評価が下がることがある、ということでしょう。

 不要な検査はしない、不要な治療はしない、という方針では、検査をしたい、治療をしたい、という願いはかなえられません。近くの願望を叶えてあげることが医療の目的ではない、というところが、レストランのレーティングとの決定的な違いです。

 

 将来の生活(アウトカムと呼んでいます)を目標にすると、短期の願望とトレードオフになりかねませんが、そこを何とか、ということが医療の役割でしょう。

「あの先生が痛み止めをくれなかった、だから星1つ!」という評価をされると、いったい何の評価をしているのか、わからなくなります。

 でも、レーティングはそれが実情でしょう。

5つ星ドクターには警戒を 

 裏を返せば、レーティングで評価が高い医者には注意が必要、ということかもしれません。

 評価が低くて上等! と言い切りたいところですが、なかなかそんなに強くなれないですよね。

*1:Jain S. Googling ourselves--what physicians can learn from online rating sites. N Engl J Med. 2010 Jan 7;362(1):6-7. doi: 10.1056/NEJMp0903473. PubMed PMID: 20054044.

*2:当時の気持ちはよく思い出せませんが、ブログ記事にもしていますので、ある程度のインパクトがあったのでしょう。
医師もGoogleされている - 地域医療日誌 by COMET

*3:Sabin JE. Physician-rating websites. Virtual Mentor. 2013 Nov 1;15(11):932-6. doi: 10.1001/virtualmentor.2013.15.11.ecas2-1311. PubMed PMID: 24257083.

*4:Ma L, Kaye AD, Bean M, Vo N, Ruan X. A five-star doctor? Online rating of physicians by patients in an internet driven world. Pain Physician. 2015 Jan-Feb;18(1):E15-8. PubMed PMID: 25675065.

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