地域医療日誌

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地域医療日誌

変化しつづける地域でともに悩み、考える医療

ASIAはHPVワクチンで多く発生していた

4. 医療の負の側面に関すること 2. 予防についての疑問
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質問

 ASIAって何ですか?

 

 ぼくはワクチンの専門家はありません。日常的に予防接種業務に関わる一医者として、この問題を考えてみたいと思います *1

HPVワクチン提訴へ *2

 ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンを接種したあと、原因不明の体の痛みなどを訴えた63人の患者が、安全性や有効性が十分に確認されていないのに、ワクチンの接種を勧めたのは違法だなどとして、国と製薬会社に治療費や慰謝料などを求める訴えを、2016年7月27日に全国4つの裁判所に起こした、との報道がなされています。

 訴えを起こしたのはHPVワクチンを接種したあと、体の痛みや記憶力の低下などの副反応が出たと訴えている全国の15歳から22歳までの女性合わせて63人です。

 

 この提訴に対して、利害関係者がそれぞれコメントを出しています。ここで整理しておきましょう。

厚生労働省

 「訴訟については現時点では報道されている内容以上のことは承知しておらず、コメントは差し控えたい」としたうえで「接種との因果関係は必ずしも明らかでないなか、長期に苦しんでいる方々がいることには非常に心を痛めており、寄り添いながら支援を行っていくことが何よりも重要と考えている」とコメントしています。

製薬会社

 ワクチンを製造しているグラクソ・スミスクラインは「訴状を受け取っていないので裁判についてのコメントは差し控えます。症状によって苦しんでいる方々の、一日も早い回復をお祈りしています」などとするコメントを発表しました。

 またMSDも「HPVワクチンは世界各国で承認を受けています。訴状を受け取りましたら、MSDは法廷で証拠を提出する考えです。原告の主張の内容に根拠はないと信じています」などとするコメントを発表しました。

日本産科婦人科学会 

 厚生労働省によりますと、子宮頸がんワクチンの接種を受けた人の割合は、定期接種化された平成25年は対象年齢の女性の15%に上りましたが、翌年は1%にまで下がり、その後も同じような状況が続いています。

 ワクチン接種の積極的な呼びかけが3年以上にわたって中止されていることについて、日本産科婦人科学会の藤井知行理事長は「ワクチンを打たないことでヒトパピローマウイルスに感染し、先進国で日本のみ子宮頸がんの患者が減らない事態となることを懸念している。子宮頸がんの患者は今、30代がピークとなっていて、これから子育てを行う母親の世代に影響が出ることは非常に残念だと感じている」と話しています。

 そのうえで「一連の症状とワクチンの成分との関係を科学的に肯定するデータは今のところない。学会としては症状の出た方に対応できる医療体制を継続して取っていくとともに、積極的な接種の呼びかけを再開すべきと考えていて、接種を呼びかけるポスターを配布するなど働きかけていきたい」と話しています。

 

エビデンスがない?

 今のところHPVワクチンがただちに危険であるという根拠がいまだ不足しており、認めがたいといったスタンスでしょうか。

 この報道を見聞きした限りでは、なんだ、ここ数年でHPV周辺では大きな動きがなかったのか *3 、といった印象でした。

 

 一応確認しておこうかとPubMed検索したところ、つい最近、興味深い論文 *4 が発表されていました *5

 このワクチン問題と関わる論文と思われますので、よんでみることにしました。

 

ASIAとは何か?

 この論文の内容に入る前に、ASIAという聞き慣れない新しい概念について、論文の導入部分を確認しておきましょう。

Autoimmune/inflammatory syndrome induced by adjuvants (ASIA) was proposed on 2011 by Shoenfeld et al. [1] and encompasses five conditions linked to previous exposure to an adjuvant substance: siliconosis (silicone), Gulf War syndrome (squalene), macrophagic myofasciitis syndrome (aluminum hydroxide) and post-vaccination phenomena (aluminum hydroxide). In addition, other substances and heavy metals, such as mineral oil, guaiacol, iodine gadital, mercury and titanium among others, are also associated with ASIA. The proposal of Shoenfeld stimulated the interest in the interaction among environmental factors, induction of autoimmunity and lost of tolerance [2–5]. The syndrome is characterized by non-specific and specific manifestations of autoimmune disease including muscle, joint, nervous system involvement and fever. [1, 3].

After the description of ASIA, until now, more than 4000 ASIA cases and case series have been described. The clinical picture is very heterogeneous, and these ASIA patients may have from mild to severe manifestations, including death. 

 

 Shoenfeldさんが2011年に提唱した、新しい症候群です。ASIAはAutoimmune/ inflammatory syndrome induced by adjuvants の略で、アジュバントによる自己免疫炎症症候群、といった意味になるでしょうか。

 アジュバントとは、薬物の作用を増強する目的で併用される物質・成分の総称のことです。

 ASIAに関与するとされる5つのアジュバントについて、触れられています。

  • シリコノーシス(シリコン)
  • 湾岸戦争症候群(炭疽菌ワクチンのアジュバントであるスクアレン)
  • マクロファージ筋筋膜炎症候群(水酸化アルミニウム)
  • ワクチン後現象(水酸化アルミニウム)
  • その他の物質や重金属

 臨床症状については、筋、関節、神経系をおかし、発熱を伴う、自己免疫疾患様の特異的・非特異的症状がみられることが特徴となっています。

 ASIAが提唱されてから現在までに4,000例以上の報告があるとのことですが、症状や重症度にはばらつきがあり、死亡例の報告もあります。

 原因としては、アジュバントによる抗原特異的免疫反応だけではなく、他にも外部のトリガーとなる環境要因が関与しているのではないかとされています。

 

 ASIAは4,000例以上の報告がありながら、いまだシステマティックレビューがなかった、とのことで、今回の論文となっているようです。

システマティックレビュー(Jara, 2016年) *6

研究の概要

 2011年(ASIA提唱後)から2016年までにASIAとして報告された症例報告、症例シリーズ、コホート研究のシステマティックレビュー。対象症例の選択は以下の基準に基づいた。

  • Shoenfeldの診断基準(2つの大基準または1つの大基準と2つの小基準)を満たしていること。
  • 重症ASIAは以下の基準による:主要臓器障害、生存危機状態、集中治療、永続的な後遺症、入院、死亡などのアウトカム。
  • 情報が不十分な症例や2011年以前の症例は含まない。

 

主な結果

 ASIAは4,479例の報告があり、そのうち305例が重症ASIAの基準を満たしていた。うち11例が死亡。

 重症例305例のうち、女性283人(92.78%)、男性は22人(7.2%)。年齢は平均29歳。暴露を受けてから重症化までは2日から23年。

 アジュバントとの関連は以下の表 *7 の通り。

f:id:cometlog:20160729021908p:plain

 

ASIA発症も重症例もHPVワクチンで多い

 過去5年の報告では、HPVワクチンによる発症の報告が最も多く、重症例も死亡例も際立っていました。(この中には日本人の40例の報告も含まれています。)

 他のワクチンにもASIAはみられますが、接種数を考えるとおそらくHPVワクチンのものが目立っているでしょう。

 ワクチン以外では、乳房へのシリコン注入でも多いようです。

 

 この論文の導入部分には、美容目的で両側臀部にミネラルオイル20mLを皮下注射したことによってASIAを発症し、最終的には亡くなってしまった49歳女性の症例が紹介されています。

 ワクチンも美容も、健康な人に対して行われることもあり、起きてしまうと問題は深刻です。

 

 HPVワクチンについて、そしてアジュバントについては、今後さらに話題となることでしょう。発生機序や予防方法についても、 研究を進めなければならないでしょう。

 この論文を機に、ワクチンのアジュバント問題についても注目していきたいと思います。

 

(つづく)ASIAの診断基準について - 地域医療日誌

 

 関連記事もどうぞ。

 

*1:このご時世、火に油を注ぐようなタイミングでは、このような前置きは必須と感じます。

*2:NHK NEWS WEB 記事から一部引用させていただきました。

*3:もちろん、ここでは新たな知見が得られた学術論文という意味です。常にこの分野の最新論文を情報収集しているわけではありませんので・・・。

*4:Jara LJ, García-Collinot G, Medina G, Cruz-Dominguez MD, Vera-Lastra O, Carranza-Muleiro RA, Saavedra MA. Severe manifestations of autoimmune syndrome induced by adjuvants (Shoenfeld's syndrome). Immunol Res. 2016 Jul 13. [Epub ahead of print] PubMed PMID: 27412294.

*5:ぼく的には緊急リリースのレベル。2016年7月13日号となっていますが、国内ではほとんど話題になっていませんね。

*6:Jara LJ, García-Collinot G, Medina G, Cruz-Dominguez MD, Vera-Lastra O, Carranza-Muleiro RA, Saavedra MA. Severe manifestations of autoimmune syndrome induced by adjuvants (Shoenfeld's syndrome). Immunol Res. 2016 Jul 13. [Epub ahead of print] PubMed PMID: 27412294.

*7:論文から作図して引用

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