地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

地域医療の専門医には何が求められていますか?

2017年度開始予定

 

 国は、専門医の質を高め、良質な医療が提供されるよう、新たな専門医の仕組みを再構築しようと準備をしています。新たな専門医の養成は、2017度開始を目標にしています。

 新しい専門医のあり方については、2011年10月より厚生労働省「専門医の在り方に関する検討会」にて議論され、報告書が公開されています。

専門医の在り方に関する検討会 報告書 |厚生労働省

 

 この報告書から、地域医療の専門医についての部分を抜粋・紹介してみたいと思います。

 

総合診療医とは

 

 報告書37ページ、第4回三上委員・高杉委員提出資料(第Ⅵ次日本医師会生涯教育推進委員会答申)には歴史的経緯が紹介されています。抜粋・要約してみます。

 

総合診療

  • 昭和51年、天理よろづ相談所病院は「総合診療部」を創設し、その後、多くの病院で設置されるようになった。
  • 平成元年、「総合診療部」を有する全国の大学や中核病院の代表が集まり、「総合診療連絡協議会」を結成した。これはその後、「総合診療医学会」 となった。
  • 「総合診療」という名称は、平成7年に特定機能病院を位置付けたときに広まった。この時、大学病院は専門診療科別になり、従来のナンバー内科・ナンバー外科の名称を廃止し、臓器別診療科 とした。その際、いずれの診療科にも属さない、あるいは掛かるべき診療科が分らない患者を対象にして、「総合診療部」 を設置した。

 

総合診療医

「総合診療医」 とは、近年、大学病院、地域の中核病院に開設されている「総合診療部」の医師に見る如く、主として従来の一般内科を中核として、精神科、皮膚科、小外科、眼科、耳鼻科、整形外科など周辺領域について広い領域にわたって基本的レベルの診療を行う医師を指す。

  

プライマリケア

  • わが国の多くの医学辞典によると、プライマリケアは「総合診療」 とほぼ同義語であるという。
  • 平成22年、日本プライマリ・ケア学会、総合診療医学会、家庭医療学会は合併して、「日本プライマリ・ケア連合学会」 となり、専門医制を創設した。

 

総合医・総合科

  • 一方、「総合医」、「総合科」という名称は、わが国の医学関係の辞書には記載がない。従ってその定義は曖昧であり、人によって様々に使用している。
  • この用語が有名になったのは、平成19年5月、厚労省医道審議会医道分科会・診療科名標榜部会で、「総合科」 という医療法上の診療科名を提唱したことに端を発する。ここでは国の個別審査により「総合医」の資格を付与しようというのである。
  • このあと、平成20年、国保中央会が「地域住民が期待するかかりつけ医師像に関する研究会報告書」において、「総合医」を用いてさらに混乱を招いた。
  • その後、厚労省の「専門医の在り方に関する検討会」や、国保中央会が中心となって 「総合医を育て地域住民の安心を守る会」 などが設立され、総合医の地域医療に必要な役割を主張しているが、そこでの議論は「総合医」と「総合診療医」を区別していない。
  • このように「総合医」という名称は、概念も明確にされないままに独り歩きをしてきた。
  • そこで本委員会では、その混乱を整理するために検討を行った。その結果、「日常診療の他に、保健・福祉・地域の医療行政などを含む様々な医療活動に従事する医師」 を「総合医」と定義した。
  • それは診療科の種類や就業形態を問わず、どの医師であっても「総合医」になる可能性をもつ。それはとりもなおさず、従来から 日医が言う 「かかりつけ医」に相当するものである。
  • 臓器に偏らず、幅広い領域を総合的に診療するというのであれば、それは「総合診療医」である。先にも述べたように「総合診療」は既に存在しており、専門医制も施行されている。

 

 若干違和感がある部分もありますが、このような背景と議論のもとで検討会の報告書が作成されています。

 

総合診療専門医とは

 

 報告書には専門医の中でもとりわけ総合診療医について取り上げられ、7ページから記載されています。重要な部分でもあり、引用します。確認しておきましょう。

4.総合診療専門医について

 

(1)総合的な診療能力を有する医師の必要性等について

 

総合的な診療能力を有する医師(以下「総合診療医」という。)の必要性については、

特定の臓器や疾患に限定することなく幅広い視野で患者を診る医師が必要であること

複数の疾患等の問題を抱える患者にとっては、複数の従来の領域別専門医による診療よりも総合的な診療能力を有する医師による診療の方が適切な場合もあること

③地域では、慢性疾患や心理社会的な問題継続的なケアを必要としている患者が多いこと

④高齢化に伴い、特定の臓器や疾患を超えた多様な問題を抱える患者が今後も増えること

などの視点が挙げられる。

○ 総合診療医には、日常的に頻度が高く、幅広い領域の疾病と傷害等について、わが国の医療提供体制の中で、適切な初期対応と必要に応じた継続医療を全人的に提供することが求められる。

 

(2)総合診療専門医の位置づけについて

 

○ 現在、地域の病院や診療所の医師が、かかりつけ医として地域医療を支えている。今後の急速な高齢化等を踏まえると、健康にかかわる問題について適切な初期対応等を行う医師が必要となることから、総合的な診療能力を有する医師の専門性を評価し、新たな専門医の仕組みに位置づけることが適当である。

○ 総合診療医の専門医としての名称は、「総合診療専門医」とすることが適当である。

○ 総合診療専門医は、領域別専門医が「深さ」が特徴であるのに対し、「扱う問題の広さと多様性」が特徴であり、専門医の一つとして基本領域に加えるべきである。

○ 総合診療専門医には、地域によって異なるニーズに的確に対応できる「地域を診る医師」としての視点も重要であり、他の領域別専門医や他職種と連携して、多様な医療サービスを包括的かつ柔軟に提供することが期待される。

 

(3)総合診療専門医の養成について

 

○ 多くの若い医師が従来の領域別専門医志向を持っている中で、総合診療専門医が、若い医師や国民に評価されるよう、養成プログラムの一層の充実と国民への周知が必要である。

○ 他の基本領域の専門医と異なり、臨床研修修了直後の医師が進むコースに加えて、他の領域から総合診療専門医への移行や、総合診療専門医から他の領域の専門医への移行を可能とするプログラムについても別に用意する必要がある。移行にあたってどのような追加研修を受ける必要があるか等については、今後の新たな専門医の仕組みの構築の中で引き続き議論する必要がある。

○ 総合診療専門医の認定・更新基準や養成プログラム・研修施設の基準については、関連する諸学会や医師会等が協力して、第三者機関において作成すべきである。これらの基準は、日常的に頻度が高く、幅広い領域の疾病と傷害等への対応能力が修得できる内容であることを基本とし、日本医師会生涯教育カリキュラムの活用を考慮しつつ、第三者機関において引き続き検討することが必要である。

○ 養成プログラムの基本的な枠組みとしては、診療所や、中小病院、地域の中核病院における内科、小児科、救急等を組み合わせ、外来医療、入院医療、救急医療、在宅医療等を研修することが考えられる。

○ 総合診療専門医の養成には、幅広い臨床能力を有する指導者も必要であり、地域で中核となって指導ができる医師を養成することも重要である。また、大学病院や大病院のみならず、地域の中小病院や診療所も含めて総合診療専門医の養成に取り組むべきであり、地域医療を支えているかかりつけ医等が指導医として関与することも必要であることから、医師会等の協力が必要である。

○ 総合診療専門医を養成するためには、臨床実習などの卒前教育においても、それぞれの診療科を単にローテートするだけではなく、総合的な診療能力を養成するようにプログラムを構築し、地域の診療所や病院、介護福祉施設等の協力を得て実習を実施するとともに、頻度の高い疾病や全人的な医療の提供、患者の様々な訴えに向き合う姿勢などを学ぶことが必要である。

○ 地域の病院では領域別専門医であっても総合的な診療が求められており、総合診療専門医と基本診療能力のある領域別専門医をバランス良く養成することが重要である。

○ 総合診療専門医については、現段階で具体的に養成数を設定することは困難であるが、今後の高齢化や疾病構造の変化等を踏まえつつ、第三者機関において、今後、検討する必要がある。

 

 要約しておきます。

 総合診療医が求められているのは、

  • 特定の臓器や疾患に限定せず幅広い視野で診ることができていない
  • 複数の健康問題をかかえる患者へ対応できていない
  • 慢性疾患や心理社会的な問題に継続的なケアを十分に提供できていない
  • 高齢化に伴い多様な問題に対応できない可能性がある

という問題があるからです。

 

 総合診療医に求められることは、

  • 日常的に頻度が高く、幅広い領域の疾病と傷害等について
  • 適切な初期対応
  • 必要に応じた継続医療を全人的に提供する
  • 他の領域別専門医や他職種と連携して多様な医療サービスを包括的かつ柔軟に提供する

などであると報告書では指摘されています。

 

 まだまだ詳細はこれから。制度設計の議論はどうなっていくのか、行方に注目していきたいと思います。

 

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