地域医療日誌

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エボラ出血熱ワクチンの効果は100%?

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 先日、注目のエボラ出血熱ワクチンの論文がLancet誌に発表されました。2015年4月から西アフリカのギニアで実施された臨床研究の速報です。

 すでにニュースやブログ記事で目にしておりますが、あらためてここでも備忘録として取り上げておきたいと思います。

 

ランダム化比較試験(Henao-Restrepo、2015年) *1

P▶ エボラ出血熱を発症した患者に接触した人(接触者)および接触者に接触した人が
E▶ ただちにrVSV-ZEBOV *2 ワクチン接種を受けると
C▶ 21日後にrVSV-ZEBOVワクチン接種を受ける接種適格者に比べて
O▶ 10日後以降のエボラ出血熱の発症 *3 は少ないか
T▶ 予防、クラスターランダム化比較試験

《結果》★★★
2015年4月1日から7月20日までの間、対象者7,651人。
E群は48クラスター4,123人。C群は42クラスター3,528人。
エボラ出血熱の発症:E群 0人、C群 16人
有効性(vaccine efficacy)は100%(95%信頼区間 74.7~100.0)

 

本当に効果は100%なのか?

 このような簡単な要約では、すぐにワクチンを接種した群ではエボラ出血熱にかかった人はなく、ワクチンの高い効果が立証された、という結論になるでしょう。

 しかし、実際の臨床研究はそう簡単にはいきません。

 もう少し結果を深読みしておきましょう。わかりやすくするために、結果の概要を作図してみました。特に発症人数に着目してみましょう。

f:id:cometlog:20150807000747p:plain

 

 この図に示した通り、この論文によると1次アウトカムは、E群のうちのワクチン接種者とC群のうちの接種適格者とを比較する研究デザインになっていると記載されています。

 この結果、有効性(vaccine efficacy=相対危険減少)は100%となり、ワクチンを接種していれば全員が発症を免れる可能性がある、という効果になるとのことです。

 まあ、ワクチン接種した人だけを取り出して純粋な有効性を検討したい、という主旨は理解したいところですが、あえてE群を接種適格者ではなくワクチン接種者のみに限定していることに、違和感を覚えます。

 

 E群の接種適格者のうち、ワクチン未接種者から6人の発症が出ています。両群の接種適格者同士で比較するとE群 0.2% 対 C群 0.7%となり、ワクチンの効果(vaccine effectiveness=相対危険減少)は75%となります。

 つまり、C群で100人発症するところ、E群では25人の発症で済むことになります。

 

 さらに、E群の接種不適格者 *4 に2人の発症があり、E群全体では8人の発症となります。接種不適格者を含めた対象者全員の比較ではE群 0.2% 対 C群 0.6%となり、この比較ではワクチンの効果(vaccine effectiveness=相対危険減少)は76%となります。

 つまり、C群で100人発症するところ、E群では24人の発症で済むことになります。

 

 ただちにワクチンを接種した群では、集団全体で約7割が発症を免れるということで、まあよい結果が出ているのではないでしょうか。

 

プロトコールは?

 さて、それではプロトコールの段階から、1次アウトカムでこのような比較を想定していたでしょうか。

 ちょっと気になりましたので、プロトコール論文 *5 を覗いておきましょう。こちらもつい最近出たばかりでした。

In the Ebola ça suffit (“Ebola, that’s enough”) ring vaccination trial, a person newly diagnosed with EVD becomes the index case around whom an epidemiologically defined ring isformed. This ring is then randomised to either immediate vaccination (intervention) or delayed vaccination (control) in a 1:1 ratio on an open label basis. The incidence of disease is compared between the two arms over equivalent time periods measured from the time of randomisation of each ring. Comparing the hazard ratio in those enrolled in the study allows estimation of vaccine efficacy, while overall vaccine effectiveness can be estimated by comparing incidence across all members of the rings, including those not eligible for vaccination in the study.

New cases of EVD in the ring are ascertained through active and passive surveillance using visits to the ring members, telephone notification from ring representatives, and case detection through the national EVD surveillance system. Contacts are followed up in accordance with usual surveillance practices. Confirmed cases arising in enrolled ring members during the relevant ascertainment window are included as primary outcomes in the main analysis of vaccine efficacy. Suspected or probable EVD and death from confirmed EVD are included as secondary outcomes. Confirmed EVD cases in non-enrolled ring members contribute to secondary analyses of vaccine effectiveness, including analyses estimating indirect effects of vaccination, as described in the box and the section on statistical analysis. Data on serious adverse events will be collected throughout the trial.

 

 この記載からの判断では、ワクチン接種者と接種適格者の比較ではなく、組み入れた者同士での比較を想定しているように読めます。

 また他の部分でも、当初の計画と今回の論文とでは、やや一致しない点もあるように思います。

 

 うーん。まあ、結果を水増ししているようにも見えなくもないですが、ここではこれ以上追求せず、最終報告での詳報を待ちたいと思います。

 

死亡は?

 ところで、エボラ出血熱による死亡はどうだったのでしょうか。

 追跡期間中に75人がエボラ出血熱を発症し33人が死亡しています。致死率は44%となっています。恐ろしい病気です。

 このうち、E群では29人発症し15人が死亡(致死率52%)、C群では46人発症し18人が死亡(致死率39%)となっています。E群のほうが致死率が高いように思えます。

 集団全体でのエボラ出血熱による死亡を比較すると、以下の通りです。

 E群 15人/4,123人(0.36%)
 C群 18人/3,528人(0.51%)

 単純計算するとエボラ出血熱死亡に対する効果(相対危険減少)は29%。

 つまり、C群では100人死亡するところ、E群では71人で済むという計算になります。

 

ring vaccinationとは

 ところで、本論文のタイトルにもある"ring vaccination"とは何でしょうか。本文中の説明を引用します。

Ring vaccination is defined as the vaccination of a cluster of individuals at high risk of infection, owing to their social or geographical connection to a confirmed index case.

 

 発症者の接触者、さらに接触者の接触者、といったように、発症者を包囲するように予防接種をしていくことで、感染症の流行阻止と効果の検証を同時進行できるようにした、一挙両得の効果的な手法です。

 覚えておきたいと思います。

 

エボラ出血熱ワクチンの効果は100%?

  • 患者の接触者や接触者の接触者のうちで、エボラ出血熱ワクチン(rVSV-ZEBOV)をただちに接種した人には、エボラ出血熱の発症はみられなかった。
  • 遅れてワクチン接種群と比較して、ただちにワクチン接種群では集団全体として約7割発症を免れ、約3割死亡を免れる可能性がある。
  • 今回の中間報告では情報が十分ではなく、詳細は最終報告を待ちたい。

*1:Henao-Restrepo A, Longini I, Egger M, et al. Efficacy and effectiveness of an rVSV-vectored vaccine expressing Ebola surface glycoprotein: interim results from the Guinea ring vaccination cluster-randomised trial. Lancet. 2015 Aug 3. DOI: http://dx.doi.org/10.1016/S0140-6736(15)61117-5 [Epub ahead of print]

*2:A recombinant, replication-competent vesicular stomatitis virus-based vaccine expressing a surface glycoprotein of Zaire Ebolavirus

*3:rt-PCR法にてエボラウイルスRNAが確認された確定診断

*4:例えば18歳未満、妊婦、授乳婦などワクチン接種はできないが集団に属している人

*5:Ebola ça suffit ring vaccination trial consortium. The ring vaccination trial: a novel cluster randomised controlled trial design to evaluate vaccine efficacy and effectiveness during outbreaks, with special reference to Ebola. BMJ. 2015 Jul 27;351:h3740. doi: 10.1136/bmj.h3740. PubMed PMID: 26215666; PubMed Central PMCID: PMC4516343.

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