地域医療日誌

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子宮頸がん検診には効果がありますか?(2)

 子宮頸がん検診には効果がありますか?(1) - 地域医療日誌につづきます。

インドの臨床研究

 さて、これまで子宮頸がん検診の有効性を検討したランダム化比較試験は1つしかありません。

 この研究では、子宮頸がん検診のうちHPV検査のみで有意に子宮頸がん死亡の低下が示されています。細胞診検査では子宮頸がん死亡は少ない傾向でしたが、有意ではありませんでした。

 他には観察研究などの間接的な知見しかありません。つまり、これが子宮頸がん検診が有効かどうかを検証することを目的とした唯一の介入研究です。

 では、そのランダム化比較試験を読んでおきましょう。

ランダム化比較試験(Sankaranarayanan, 2009年) *1

P▶ インドのへき地の村に居住する30-59歳の女性に
E▶ HPV検査、細胞診、酢酸を用いた視診の子宮頸がん検診を行うと

C▶ 標準的ケアに比べて
O▶ 子宮頸がんの発症や子宮頸がん死亡は少ないか
T▶ 予防、クラスターランダム化比較試験

《結果》※※※
対象者131,746人、52クラスターを13クラスター毎、4群に分けて割り付け。
このうち過去に子宮がん検診を受けたことがある人は8人のみ。

子宮頸がん死亡
HPV検査:34人/268,674 人年、12.7/10万人年
 年齢調整ハザード比 0.52(95%信頼区間 0.33, 0.83)
細胞診:58人/251,144人年、21.5/10万人年
 年齢調整ハザード比 0.89(95%信頼区間 0.62, 1.27)
視診:56人/267,917人年、20.9/10万人年
 年齢調整ハザード比 0.86(95%信頼区間 0.60, 1.25)
標準的ケア:64人/248,175人年、25.8/10万人年
 年齢調整ハザード比 1.00

 

HPV検査 >細胞診

 ほとんど子宮頸がん検診を受けたことがないという、インドのへき地に居住する人を対象としています。それも検査は毎年でも3年毎でもなく、1回のみです。それで8年後の子宮頸がん死亡にこの程度の差がみられています。

 やはり、実数の人数を確認してみても、細胞診よりも明らかにHPV検査が優れているようにしかみえません。

 

それでも細胞診、理由は?

 ここで少し冷静になりたいと思います。

 もう一度、子宮頸がん検診の効果について、国の説明を確認しておきます。*2

子宮頸がん検診は非常に有効で、進行がんを防ぎ死亡を減らす効果が証明されています。多くの先進国ではほぼ例外なく、子宮頸部細胞診による検診が行われています。欧米での受診率は高く、例えばアメリカでは、18歳以上の女性の80%以上が、過去3年以内に1回以上検診を受けています(2002年)。一方、日本では過去1年以内に検診を受けた女性は、25%程度にとどまっています。

 

 「非常に有効」「死亡を減らす効果が証明」「ほぼ例外なく細胞診が行われている」。欧米はやっている、アメリカはやっている、との常套句が。

 さらにここから細胞診の説明がつづきます。

 こんなこと本当は書きたくありませんが、引用文献を明記すべきです。

 

 医療関係者向けのページ *3には、このような記載がありました。

HPV検査により、子宮頸がんの死亡率が減少したとする無作為化比較対照試験の結果が、平成21年(2009)にインドから報告されました。しかし、この研究結果からだけでは、HPV検査により子宮頸がん死亡率減少効果を確実と判断することはできません。今後、HPV検査を含む同様の研究の成果を待って判断すべきであると考えられます。

 

 こちらにはインドの研究について触れています。しかし、引用文献の記載がなく不備です。さらに、確実と判断できない理由を書いてほしかったです。

 やはり発症数が違いすぎるため、効果を過大評価している可能性があるからでしょうか。そういった理由であれば、細胞診では有意差が出ていないことについて、さらに効果が小さい、とは判断できないでしょうか。

 ランダム化比較試験がまだひとつだから、という理由であれば、細胞診についてのランダム化比較試験がないことの理由はどうしましょうか。

 同様の研究の成果は待っていてよいのでしょうか。今後、発表される予定はあるのでしょうか?

 

 こういった情報が医療関係者のページだけに記載されているところにも、作為的にみえ、疑惑の目が向けられてしまいます。

 

インドは日本の3~6倍

 ここで人数に注目しておきましょう。

 子宮頸がん死亡は標準的ケアの群で10万人あたり25.8人、最も少ないHPV検査群でも10万あたり12.7人となっています。

 2013年の日本の子宮頸がん死亡は10万人あたり4.1人です。つまり、この研究の対象集団では子宮頸がん死亡リスクが日本の3倍~6倍高い集団であることに注意が必要です。

 このような違いがある集団の結果をそのまま日本の集団に適用することはできません。リスクが高い集団に対する介入は効果が大きくなってしまうからです。こういった場合には「f」を使って、実際の検診の効果を推定します。

 

HPV検査群+細胞診群 *4

相対危険 0.65(95%信頼区間 0.47, 0.90)NNT 1423
 f=1/3 推定NNT 1423/f=1423/(1/3)=4269
 f=1/6 推定NNT 1423/f=1423/(1/6)=8538

 

 従来の細胞診群だけではなく、より効果が高かったHPV検査群を加えた子宮頸がん検診の効果としては、4千人から8千人検診して1人の子宮頸がん死亡が少なくなるという効果になります。

 

総死亡は検討されていない

 さらにこの研究でも、子宮頸がん死亡が検討されていますが、残念ながら全ての原因のよる死亡(総死亡)は検討されていません。

 子宮頸がん死亡が少なくなっていたとしても、検診や治療の合併症などを含んだ総死亡がどうなっているか、注目に値します。ここで結果が逆転してしまうことがあるからです。

 

 まだ総死亡の検討がなされていないこと、なされないまま検診の号令が大きくなることに、違和感を覚えます。物事の順序が違うのではないでしょうか。

 検診も医療も、目的は子宮頸がんの制圧に置くべきではありません。

 

つづく

*1:Sankaranarayanan R, Nene BM, Shastri SS, Jayant K, Muwonge R, Budukh AM, Hingmire S, Malvi SG, Thorat R, Kothari A, Chinoy R, Kelkar R, Kane S, Desai S, Keskar VR, Rajeshwarkar R, Panse N, Dinshaw KA. HPV screening for cervical cancer in rural India. N Engl J Med. 2009 Apr 2;360(14):1385-94. doi: 10.1056/NEJMoa0808516. PubMed PMID: 19339719.

*2:子宮がん検診の勧め:[がん情報サービス]

*3:子宮頸がん検診:[がん情報サービス 医療関係者の方へ]

*4:子宮頸がん検診には効果がありますか?(1) - 地域医療日誌で引用したシステマティックレビューに記載された再計算値から

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