ある日、発疹で受診した小児。とびひ(伝染性膿痂疹)と診断しましたが、発疹は少数のみで、すでに治りかけの回復期にあったため、抗菌薬の外用のみ処方としました。
その後、しばらくして、小児が登園する保育園から電話がかかってきました。
「とびひなら抗生剤の内服薬のほうが治りが早いので、処方お願いします。」
早く治る印象は合っているか?
内服薬のほうが治りが早いかどうかは、本来、経験的に知ることができません。
たまたま内服薬を使った事例の経過がよく、使わなかった事例の経過が悪かった、という印象があるだけです。
治療の優劣を決めるには、治療効果を比較して検討しなければわからないはずです。これには、同じ条件で比較検討した臨床研究が必要になります。
内服薬のほうが早く治るという明確な根拠を確かめるには、保育士や専門医に経験を聞くのではなく、医学論文を探すしかありません。
内服 vs 外用
それにしても、本当にとびひに内服薬は必須なのでしょうか?調べてみることにしました。
システマティック・レビュー(コクラン、2012年)
科学的根拠としては最も信頼度の高いデータベースのひとつ「コクランライブラリー」に、システマティック・レビューがありました。今回の疑問に該当する部分を見てみましょう。
Koning S, van der Sande R, Verhagen AP, van Suijlekom-Smit LW, Morris AD, Butler CC, Berger M, van der Wouden JC. Interventions for impetigo. Cochrane Database Syst Rev. 2012 Jan 18;1:CD003261. doi: 10.1002/14651858.CD003261.pub3. Review. PubMed PMID: 22258953.
- P▶ 伝染性膿痂疹(非水疱性)の患者に
- E▶ 抗菌薬を内服すると
- C▶ 抗菌薬を外用に比べて
- O▶ 治癒率が高いか
- T▶ 治療、ランダム化比較試験のシステマティック・レビュー
《結果》※※※
- エリスロマイシン内服とムピロシン(バクトロバン軟膏)外用を比較した10のランダム化比較試験を統合した。
- 治癒/改善は抗菌薬内服 242人/283人、外用 270人/298人
- 内服に比べて外用のほうが1.07倍治癒した人が多い [95%信頼区間 1.01-1.13]
なんと、このレビューでは予想に反して外用のほうが治っていた、という結果になっていました。
少なくとも、内服のほうが治るとは断言できない結果です。
外用+内服 vs 外用のみ
このシステマティック・レビューの中に、外用+内服と外用のみを比較したランダム化比較試験がひとつ紹介されていました。
外用薬だけでなく、追加で内服薬を処方したほうがよいかという、今回の疑問にぴったりの論文です。よんでみることにしましょう。
日本人のランダム化比較試験(2005年)
なんと偶然にも、この論文は日本人の論文でした。
Kuniyuki S, Nakano K, Maekawa N, Suzuki S. Topical antibiotic treatment of impetigo with tetracycline. J Dermatol. 2005 Oct;32(10):788-92. PubMed PMID: 16361729.
- P▶ 2か月から13歳までの伝染性膿痂疹の小児に
- E▶ テトラサイクリン外用+抗菌薬を内服すると
- C▶ テトラサイクリン外用のみと比べて
- O▶ 治癒率が高くなるか
- T▶ 治療、ランダム化比較試験
《結果》※※※
- 49人のうち併用治療21人、外用のみ28人
- 治療効果は1週間後に治癒、改善、失敗の3段階で評価。マスキングなし。
- 併用治療:治癒 14人/21人、改善 7人/21人
- 外用治療:治癒 22人/28人、改善 6人/28人
- 両群に有意差なし。
マスキングはされていません。また、両群の人数の偏りと脱落に関して記載がないことがやや気になります。
残念ながら、このような研究デザインでは、結果をどう判断するかが微妙です。
結果としては、治癒は併用治療で67%、外用治療は79%と、抗菌薬内服を追加しても治癒率に差がない、というものでした。
少なくとも、外用のみよりも内服を併用することで治りやすくなるということはないという結果で、前回のシステマティック・レビューと矛盾しない結果となっています。
とびひに抗菌薬内服は必須か?
- 外用薬に比べて、内服薬が優れているということはない。
- 外用薬のみに比べて、内服薬を併用した場合でも、効果に差はない。