地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

新専門医制度は誰のためにあるのか?

 過去の記事 地域医療に影響を与える懸念とは? - 地域医療日誌 の追跡記事です。

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本文と写真は直接関係ありません

新専門医制度がスタート 

 2018年度から新たな専門医制度がスタートします。既存の18領域の専門医に加え、19番目の専門医として総合診療専門医が誕生することになります。

一般社団法人 日本専門医機構

 

 地域医療に携わるものにとっては待望の専門医、ということになるはずですが、すでにいろいろと問題がささやかれています。 

 

 主要な記事のリンクを掲載しておきます。

全日本民医連は「総合診療領域のプログラム一次審査の結果をうけての意見と緊急要望」を日本専門医機構に提出しました | 研修医・医学生のための全日本民医連医師臨床研修センター | イコリス

総合診療専門医研修、「プログラム組めない」 - 医療介護CBnews

総合診療専門研修プログラム「1次審査基準」、都市集中回避が狙い-松原謙二・日本専門医機構副理事長に聞く | m3.com

新しくない専門医制度 - まちづくりと家庭医2

 

 何が起こっているのか、情報開示が十分ではありません。これから白日のもとに晒されることになるだろうと思います。

 

学会のための専門医制度に対する批判

 これまで内部からも日本専門医機構に対する異論が学術媒体に発表されています。

 

 特に問題視されているのは「専門医制度新整備指針 2006年12月(一般社団法人 日本専門医機構)」 *1 のこの部分です。

機構の基本姿勢を「新たな専門医の仕組みは、機構と各基領域学会が連携して構築すること」を掲げ、また、仕組みを柔軟に運用するという方針を掲げました。そして、各領域学会には、学術的な観点から責任をもってプログラムを構築すること、機構は、そのプログラムを検証し、調整し、標準化を図ること、そして、プロフェッショナル・オートノミーの理念のもと、機構認定の専門医としてオーソライズすることを挙げています。すなわち、今後は、各領域学会の責任と自主性を出来る限り重視する方向となっています。

 

 こうした機構の姿勢に対する批判はほとんど取り上げられていないようですが、国民の医療の質を担保する上で深刻な問題を孕んでいます。

 いくつか引用してご紹介しておきたいと思います。

論評(Nago, 2017) *2

 初期臨床研修制度によって医師の偏在が加速され、地域医療が崩壊した、という説があるが、それは単なる説であって、実際に都市部の医師数は減少傾向、それ以外で増加傾向にあることが示されており、偏在はむしろ軽減している。

 偏在はむしろ自治体レベルの狭い範囲で進行しており、国全体の仕組みとは別の要因が大きいというのが事実で、偏在はむしろ都道府県内という局所で起こっている。これは都道府県全体での医師は減ってはいないが、大学に所属する医師が減少し、医局が医師を引き上げたために、局所での医師の偏在が起こったということである。これは大学医局に依存すると、地域医療が崩壊するという一つの傍証であって、初期臨床研修制度は、大学の医局維持を優先させる、地域医療崩壊を何とも思わない、医局人事の実体を顕在化させたともいえる。    

 今回の専門医制度の変革に関してもまた同じ構造がある。初期臨床研修制度の時と異なるのは、大学医局というより、各専門医が所属する学会の存在が大きいということある。 

(中略)

 しかしここで明確なのは、これまでの専門医制度は学会中心に構築され、ほとんど現場の臨床能力を担保せず、単に学会に会費、参加費を払い続けていれば維持できるというような、学会の集金機能としてしか機能していないようなひどいものが大部分であった、ということである。これまでの学会には、専門医教育のための「プロフェッショナル・オートノミー」が欠如しているという確かな証拠が明らかなのである。大学医局の弱体化を危惧した人たちが初期臨床研修制度に反対したのと同様、学会の弱体化を危惧した人たちが新しい専門医制度に反対しているのである。 

論評(Iwata, 2017) *3

The new executive board members drafted a guideline on the new board certification, which was very disappointing. The guideline highlighted the importance of flexibility in regards to the relationship with other medical societies. In fact, the J-BMS simply compromised them to keep the status quo of society members becoming specialists easily, so that they can make society members happy. It even gave up on demanding subspecialty societies have training programmes. Instead, it allowed them to have curriculums to follow, so that doctors can be subspecialists without formal clinical training. To make matters even worse, the J-BMS is now given money to run by these academic societies. The relationship between academic societies and the J-BMS is not sound and the J-BMS does not keep the independence from these societies it originally aimed at. The J-BMS works for the interest of these societies, not for its specialist candidates, not to mention the people of Japan.

 

 学会が機構と連携して運営するような体制、さらに資金までも依存する体制こそが、機構の独立性を棄損することになる、という批判です。

 

 まさしくこのような背景が、新専門医制度の問題と直結しているのではないかと推察されます。 

 プロフェッショナル・オートノミーというコトバで、内実は自分たちで運営する「学会のための専門医制度、専門医のための専門医制度」となっています。

 これで医療の質を保証できると、専門家は本気で思っているのでしょうか?

 

 言いたいことはたくさんあるのですが、現時点での批評は控えながら、状況を注視していきたいと思います。

 

*1:http://www.japan-senmon-i.jp/news/doc/sinseibisisin2016.12.16.pdf

*2:Naoki_nago. 日本の専門医制度は死んだ. 地域医療ジャーナル 2017 Jan;3(1):14135.
[特別寄稿] 日本の専門医制度は死んだ / 地域医療ジャーナル

*3:Iwata K, Mosby DJ, Sakane M. Board certification in Japan: corruption and near-collapse of reform. Postgrad Med J. 2017 Jul;93(1101):436. doi: 10.1136/postgradmedj-2017-134994. Epub 2017 May 10. PubMed PMID: 28490547; PubMed Central PMCID: PMC5520246.

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