地域医療日誌

読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

地域医療日誌

変化しつづける地域でともに悩み、考える医療

長時間働くと心疾患になりますか?

過重労働
スポンサーリンク

 

 長時間働くとうつになりますか?につづき記事です。

 

 長時間労働でうつになりやすいかどうかは一定の見解が得られていないことについて、以前ご紹介しました。

 それでは、心疾患についてはどうなっているのでしょうか?

 

労災認定基準が定められている

 労災認定は、厚生労働省で定めた認定基準に基づいて行われています。脳・心臓疾患の認定基準はこちらをご参照ください。

脳・心臓疾患の認定基準の改正について - 厚生労働省

厚生労働省:脳・心臓疾患の労災認定 -「過労死」と労災保険-

 

「長期間の過重業務」の項では、労働時間の評価の目安が示されています。以下、パンフレットから引用します。

発症前1~6か月平均で月45時間以内の時間外労働は、発症との関連性は弱い。

②時間外労働月45時間を超えて長くなるほど関連性は強まる。

発症前1か月間に100時間または2~6か月間平均で80時間を超える時間外労働は、発症との関連性が強い。

 

 単純に労働時間だけではなく、労働の内容や勤務形態・作業環境なども加味される基準となっていますが、労働時間ではこのような一定の基準があるようです。

 

 みなさんの労働時間はどれ位になっているでしょうか?

 

労働時間は法律で定められている

 労働時間は週40時間が法定労働時間となっています。使用者は原則として、1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけません。(労働基準法第32条)

 これに違反した場合は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金となります。

 

  法定労働時間を超える時間外労働については、労働者の過半数で組織する労働組合か労働者の過半数を代表する者との労使協定において、時間外・休日労働について定め、行政官庁に届け出た場合には、法定の労働時間を超える時間外労働、法定の休日における休日労働が認められます。

 この労使協定を「時間外労働協定」(労働基準法第36条に定めがあることから、一般に「36(サブロク)協定」とも呼ばれています)といいます。

 

 時間外労働は月単位で示されますので、

  • 週50時間で1か月労働した場合、時間外労働時間は概ね月40時間
  • 週60時間で1か月労働した場合、時間外労働時間は概ね月80時間

となります。

 

 労働基準法については、こちらをご参照ください。

労働時間休日 |厚生労働省 

 

 さて、それでは本題の労働時間と心疾患について、見ていくことにしましょう。

 

日本の総説から

 長時間労働と健康問題については、こちらの総説が参考になります。検索でPDF閲覧可能となっています。

岩崎健二. 長時間労働と健康問題--研究の到達点と今後の課題 (特集 長時間労働). 日本労働研究雑誌 50(6), 39-48, 2008

 

 このなかで、日本で実施され、長時間労働と脳・心臓疾患発症を取り扱った研究は5つあり、そのうち研究方法が優れた3つの研究が紹介されています。その要旨は以下の通りです。

コホート研究(内山、1992年)

 降圧剤治療中の50 歳代男性労働者899人について、1日11時間以上の拘束は、1日7~10時間の拘束に比べて、脳・心臓疾患が2.7倍多い

 

症例対照研究(Sokejima and Kagamimori 、1998年)

 急性心筋梗塞を発症した男性患者195 人について、対照群として発症していない男性331人と比較。労働時間1日11時間以上では7~9時間に比べて、心筋梗塞は2.9倍

 

症例対照研究(Liu、2002年)

 急性心筋梗塞を発症した男性患者260 人について、対照群男性445人と比較。労働時間週61 時間以上では週40時間以下に比べて、心筋梗塞は1.9倍

 

メタ分析から

 海外の研究ではどうでしょうか。

メタ分析(2012年)

Virtanen M, Heikkilä K, Jokela M, Ferrie JE, Batty GD, Vahtera J, Kivimäki M. Long working hours and coronary heart disease: a systematic review and meta-analysis. Am J Epidemiol. 2012 Oct 1;176(7):586-96. Epub 2012 Sep 5. Review. PubMed PMID: 22952309; PubMed Central PMCID: PMC3458589.

  • P▶ 労働者のうちで
  • E▶ 長時間働くと(1日10~11時間以上または週40~65時間以上)
  • C▶ 通常の労働時間に比べて
  • O▶ 冠動脈疾患は多いか
  • T▶ 予後、メタ分析

《結果》※※

 12の研究が見つかり、そのうち症例対照研究7,前向き研究4、横断研究1。日本の5研究を含む。22,518人が対象で、うち2,313人が冠動脈疾患を発症。

 冠動脈疾患発症の相対危険は1.8(95%信頼区間 1.42~2.29)であった。

 これらの12研究のうち、労働時間を週50時間以上または1日10時間以上で調査した5研究に限定すると、冠動脈疾患発症の相対危険は2.37(95%信頼区間 1.56~3.59)と長時間になるほど発症が多くなる傾向がみられた。

 

 日本人の研究はよく行われているようですが、海外の研究を統合しても、週50時間以上または1日10時間以上の長時間労働で心疾患が2~3倍多くなる、という結果になっています。

 

 労働時間に関する調査・研究は介入研究が困難であること、労働時間の把握が難しいこと(自己申告によるなど)など、問題点も多いようです。

 

 しかし、喫煙や血圧などと同様、長時間労働は心血管疾患のリスクになりうるという点については、十分配慮が必要なのかもしれません。

 

日本の労働時間の実態 

 さて、それでは日本の実態はどのようになっているのでしょうか。

週60時間以上が500万人以上

 就業構造基本調査(2007年)によると、年間250日以上働く労働者2,019万人のうち、週60時間以上の労働者数は518万人(25.7%)でした。

 これは、日本の労働者のうち4分の1は過労死の危険性がある予備軍に相当する、という深刻な実態になっているようです。

 

医師は平均週60時間以上

 医師の長時間労働も深刻です。

 日本学術会議の報告書「病院勤務医師の長時間過重労働の改善に向けて」(2011年9月27日、PDF公開)によると、病院勤務医師の勤務時間は平均週61.3~66.4 時間

 4人に1人は月に4回以上宿日直で、当直明けも連続して通常勤務するなど、月100時間を超える時間外労働が常態化している、と報告されています。

 こちらは、医療安全上も大きな問題が指摘されています。

 

国連が異例の勧告

 国際比較でも日本は労働時間が長く、過労死("karoshi")が問題視されています。国連の人権問題等を扱う社会権規約委員会は、2013年5月、日本政府に対して長時間労働に対する懸念を示し、対策を講じるよう勧告した、という報道がありました。

 職場におけるあらゆるハラスメントの禁止・防止を目的とした立法や規制を講じるよう、日本政府に対して異例の勧告がなされています。

 今後、労働時間に関する立法など、何らかの動きがあるかもしれません。

 

労働時間を考える上での限界

 労働時間の問題をつきつめていくと、どこまでが労働時間と算出するのか、労働とは何か、など単純に割り切れない、やや難しいところに入りこんでしまう側面があります。

「みなし残業」というものもありますが、業種によっては労働時間の割り出しが難しいもの、対策が難しいものもあるでしょう。難しいからこそ、問題の温床になることもあるわけですが。

 

 研究する上では、労働時間が正確に把握されていない可能性がある、という限界のほかに、交絡因子が十分検討されているかどうかにも疑問が残ります。労働時間が長い人に共通する、他の危険因子(例えば、嗜好や性格など)が関与しているかもしれません。

 

 研究デザインとして介入研究は難しいでしょうから、観察研究から交絡因子に十分注意して判断するしかありません。しかしながら、前述したメタ分析では、交絡因子について言及されているのは一部の研究のみであった、との記載があります。

 このことから、週50時間以上の労働で心疾患が2~3倍多くなるという研究結果は、やや多めに見積もられている可能性がある、と判断したいところです。

 

 これからも注目していきたいと思います。

 

長時間働くと心疾患になりますか? (まとめ)

  • 労災認定基準では月45時間の時間外労働(週50時間以上)がひとつの目安。
  • 週50時間以上で冠動脈疾患が2~3倍多いという複数の観察研究がある。
  • 日本では長時間労働が常態化し、国際的には問題視されている。
  • 心疾患リスクとしての労働時間にも注意を払いたい。
 Copyright © 2003, 2007-2017 地域医療ジャーナル