地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

施設の耐性菌対策はターゲットを絞るとよいですか?

 施設ではMRSAの除菌はしたほうがよいですか? - 地域医療日誌 につづきます。

 

 図らずもMRSAが連投になってしまいましたが、そろそろこのあたりでいったん区切りをつけたいと思います。

 どうもMRSAを除菌するだけでは効果があるのかどうか、はっきりしませんでしたが、このような方法はいかがでしょうか?

 

ハイリスク戦略

クラスターランダム化比較試験(Mody, 2015年) *1

研究の概要

 尿道カテーテルや経管栄養チューブが留置された耐性菌保菌リスクの高い施設入居者に対して、事前に介護職員に対する注意喚起や教育、定期的な保菌状態のサーベイランスを実施すると、標準的なケアに比べて耐性菌の保菌率は低くなるか、を検討したクラスターランダム化比較試験。

 

主な結果

 12施設を6施設ずつランダム化。同意が得られた介入群203人、対照群215人の入居者が対象。平均年齢(介入群, 対照群)は74.4, 72.5歳、平均留置期間は116.1, 104.2日、尿道カテーテルのみ59.1, 52.1%、経管栄養チューブのみ27.6, 32.6%、両者13.3, 15.3%とそれぞれ両群に有意差はなかった。耐性菌の保菌率は両群有意差なし。

 1年後まで追跡されたのは介入群154人、対照群162人。耐性菌の保菌率は介入群26.6%、対照群32.6%。クラスターの調整(開始時の保菌率、年齢、性別、人種などを含む)後の相対危険は 0.77(95%信頼区間 0.62, 0.94)と介入群で保菌率が低かった。

 

 この結果では、尿道カテーテルや経管栄養チューブを留置している施設入居者に限定した対策をとった場合には、MRSAを含む耐性菌の保菌率が低くなる、という結果でした。

 

 これまでの結果を踏まえると、施設入居者全員に対する対策ではなく、ハイリスク者にターゲットを絞った戦略の方が有効、ということになるのかもしれません。

 

細菌を排除すればそれでよいのか?

 さて、これまで施設における耐性菌の蔓延予防に関する研究を紹介してきましたが、検査した部位に細菌がいなくなってしまえば、それでよいのでしょうか?

 検査していない部位にも残っていることがあるでしょうし、そもそも、職員にも保菌者がいるわけです。

 このような研究の問題点は、細菌の撲滅にアウトカムが置かれてしまうことではないでしょうか。

 

 本来検証すべきことは、細菌がいなくなったかどうかという「代用のアウトカム」ではなく、細菌による弊害が本当に減ったのかどうかという「真のアウトカム」に主眼が置かれるべきでしょう。

 

 このような観点から、これらの研究結果では、施設における対策をすべきかどうかという結論は導くことができません。

 

 一向に真のアウトカムが検証されないことに、一抹の不安を覚えます。

 医療行為を行使することよって一体何をしようとしているのか、医療者や研究者は熟慮すべきでしょう。

 今後も注視していきたいと思います。

 

*1:Mody L, Krein SL, Saint S, Min LC, Montoya A, Lansing B, McNamara SE, Symons K, Fisch J, Koo E, Rye RA, Galecki A, Kabeto MU, Fitzgerald JT, Olmsted RN, Kauffman CA, Bradley SF. A targeted infection prevention intervention in nursing home residents with indwelling devices: a randomized clinical trial. JAMA Intern Med. 2015 May;175(5):714-23. doi: 10.1001/jamainternmed.2015.132. Erratum in: JAMA Intern Med. 2015 Jul;175(7):1247. PubMed PMID: 25775048; PubMed Central PMCID: PMC4420659.

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