質問
認知症予防に処方されたサアミオンは、このままずっと飲んでいたほうがよいですか?
残った脳代謝改善薬
1998年5月、歴史的なできごとが起きています。
厚生労働省中央薬事審議会常任部会が、脳循環代謝改善薬イデベノン、塩酸インデロキサジン、塩酸ビフェメランおよびプロペントフィリンの4成分14品目の再評価を審議し、「有効性なし」との答申を行ったのです。
よく使われていた薬が、実は効かなかったため回収されるというとんでもない事態です。
現場はかなり混乱したようです。当時の混乱の様子はこちらから伺えます。
日医ニュース
脳循環代謝改善薬の承認取消
日医、薬事行政の抜本的改革を要望
厚生労働省が、効果がなかった薬を承認取り消しと英断したのに、医師と患者との信頼関係が崩れると抗議する日本医師会の主張が、まことに滑稽に見えます。
薬は効果がなくてもいいから、それより関係が大事だ、ということがはっきり明言されたわけですから。
さらに、承認されれば効果があるものとして使用してよいと考えていたこと自体、信頼性を裏切る行為であり、医師の専門性を放棄していることになるように思えます。
今考えると、この事件はひとつの象徴的なできごとでした。ここでもう少し歴史を紐解いてみたいところですが、時間もありませんし、先に進みます。
サアミオンで認知症予防?
さて、この事件で同系統でありながら承認取り消しとならなかった薬のひとつが、ニセルゴリン(商品名:サアミオン)です。
いまだに処方されることがある薬です。
先日、認知症予防としてサアミオンが処方されている方から、外来で冒頭のような相談を受けました。
脳代謝改善薬としての効果も眉唾ものだったように記憶していましたので、認知症の効果はいかがなものか・・・改めて調べてみました。
新しい情報はあまりありません。2001年にコクランのメタ分析がありましたので、こちらを読んでみました。
メタ分析(Fioravanti, 2001年) *1
研究の概要
認知症と診断された人がニセルゴリンを服用すると、プラセボに比べて認知機能低下は少なくなるか、を検討したランダム化比較試験のメタ分析。
主な結果
認知機能を認知症テストのMMSE *2 で評価した研究は3研究(対象者数 261人)。ニセルゴリン群では 2.32点 [95%信頼区間 1.32, 3.32] スコアがよかった。
ADAS-cog *3 で評価した研究は2研究(対象者数 342人)。ニセルゴリン群では -1.25点 [95%信頼区間 -3.62, 1.11] スコアがよかった。
2001年の研究ですから、その後に発表された研究がもう少しあるかもしれません。(ざっくり検索してみても目ぼしいものは見つかりませんが。)
それにしても研究が少ないようです。
結果を一見して、ニセルゴリン群に効果あり、と誤解してしまいがちです。
ここで、臨床的に有意な最少変化量(minimal clinically important difference; MCID)を思い出しておきましょう。
MMSE(30点満点)では3点以上の差がないと、臨床的に効果があるとは判定できないでしょう。今回の群間差も2.32点でしたので、臨床的な効果があるとはとても判断できません。
ADAS-cog(70点満点)に至っては1.25点の差ですから、 ほとんど効果がないといってよいでしょう。
今のところ、認知症予防になることは立証されたわけではなく、ぼくは積極的に使いたいとは思いませんね。
それから
その後も、この結果を覆すような研究は見つかりませんでした。安全性についてもメタ分析 *4 が発表されていますが、効果については検討されていませんでした。
記事をリライトしてみましたが、今後も追跡していきたいと思います。
*1:Fioravanti M, Flicker L. Efficacy of nicergoline in dementia and other age associated forms of cognitive impairment. Cochrane Database Syst Rev. 2001;(4):CD003159. Review. PubMed PMID: 11687175.
*2:Mini Mental State Examination。30点満点。
*3:Alzheimer's Disease Assessment Scale-cognitive subscale。70点満点。
*4:Fioravanti M, Nakashima T, Xu J, Garg A. A systematic review and meta-analysis assessing adverse event profile and tolerability of nicergoline. BMJ Open. 2014 Jul 30;4(7):e005090. doi: 10.1136/bmjopen-2014-005090. PubMed PMID: 25079927; PubMed Central PMCID: PMC4120366.