地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

反論も科学的に

 

いわゆる「医療否定本」について

 ちょうど記事を書いたばかりのタイムリーな話題だったので、書いておきたいと思います。端緒となったのはBLOGOSのこちらの記事。

「医療否定本も抗がん剤中止も、全ては近藤誠と週刊誌のカネ儲けの手段である」あのベストセラーから5年。医者は勉強しないとただのヤブではなく毒になる

 

 ここで取り上げられている近藤誠さんの本は読んでおりませんが、彼の過去の著作からは、科学的根拠が希薄な記述が多い、という印象があります。

 彼のがん医療についての主張は、医療者の感情を逆なでするものであることは間違いないでしょう。

 

 実際に根治療法のタイミングを逃してしまい、不幸な経過を辿った患者さんに出会うこともあります。

 もし適切な治療を受けていたとしても、同じような不幸な結果になった可能性もあるわけなのですが、その時に「近藤さんの本を読んで」などという話が出ると、もし治療していたらなあ、という感情が湧いてしまうものです。

 

反論は感情論ばかり 

 ところが、彼の主張に対して感情的な反論はよく見かけるのですが、科学的根拠に基づいて反論する医療者も少ないように感じます。

 相手にするのは時間のムダと考えているのでしょう。ぼくもそう思います。

 そんな中、タイトルで「医者は勉強しないとただのヤブではなく毒になる」とまで言い切ったこの記事には、清々しささえ感じられます。

 

 さて、内容はどうでしょうか。残念ながら、科学的な反論ではなく、感情的な反論のようです。

 本来なら、それぞれについての裏付けとなる科学的根拠を示しながら反論すべきでしょう。

 

解熱薬で症状は長引く

 さて、反論に明らかな誤りがあります。放置してもいいのですが、ちょっと気になりましたので書いておきます。

 解熱薬について、このような記述があります。

>それなのに熱を下げるのは、白血球の力を弱めているわけで、熱が下がっている間にウイルスが増殖するため、結果的に症状が長引くだけです

 この間学会でも問題になっていましたが、解熱剤使うとウイルスが増えるなんて証明されていません。まして症状は長引きません。このように一部正解を交えながら嘘を入れるいつものやり方です。

 

 かぜの研究で、解熱薬を使用すると症状が長引くという日本の小規模ランダム化比較試験(Goto, 2007) *1 があります。

 ロキソニンとプラセボとの比較で、ロキソニンが負けています。

 この研究の概要は、地域医療ジャーナル 2017年6月号のぼくの連載記事で紹介していますので、ぜひご覧ください。(閲覧には読者登録が必要)

cmj.publishers.fm

 Discussionから引用します。

 This randomized placebo-controlled trial suggested that use of loxoprofen may slow down the recovery from URTIs (by approximately 13 hours) instead of providing some alleviation for severe symptoms and improved performance in daily activities, even though most of the effects were statistically insignificant. It also demonstrated that loxoprofen could increase adverse events.

 Several studies on experimentally infected subjects suggested that the period of viral shedding increased by use of NSAIDs (3, 4). These findings are consistent with the theoretical inference from the fact that NSAIDs suppress biological responses essential to eradicate pathogens (13). Studies of naturally occurring URTIs (9-12), however, did not examine the duration of URTI symptoms. An RCT showed that acetaminophen which has little anti-inflammatory activity (13) did not change the duration of fever and other symptoms (14). Thus, this is the first RCT that examined how an NSAID would affect the recovery process of naturally acquired URTIs in clinical settings. Although loxoprofen is not available in most western countries, these findings are still worthwhile due to the frequent use of similar NSAIDs for uncomplicated URTI patients throughout the world.

 

 先行研究からも、ロキソニンのような解熱薬が、病原体の駆逐に必要な生物学的反応を抑制し、ウイルス消失までの期間が長くなることが示唆されています。

 少なくとも、解熱薬の使用によってウイルス消失までの時間が長くなり、症状が少し長引くことまでは、科学的に証明されています。

 

 この点については明らかな誤りと考えられます。

 学会で問題になっていた、ということですが、天下の学会ではこの論文の存在は話題になっていたのでしょうか?

 ちょっと心配になります。

*1:Goto M, Kawamura T, Shimbo T, et al; Great Cold Investigators-II. Influence of loxoprofen use on recovery from naturally acquired upper respiratory tract infections: a randomized controlled trial. Intern Med. 2007;46(15):1179-86. Epub 2007 Aug 2. PubMed PMID: 17675766.

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