地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

タミフルの肺炎データを並べてみる

 

 今回は、ウェブマガジン「地域医療ジャーナル 」2016年02月号の連動記事(追補)です。

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タミフルの2つのメタ分析

 さて、オセルタミビル(タミフル)の研究結果が次々発表されてきておりますが、その効果については議論があるようです。

 2014年*1, 2015年*2に発表された代表的な2つのメタ分析については、ウェブマガジンに掲載いたしましたので、関連記事をごらんください。

 

 実は、気軽に紹介しようと思って書き始めたのですが、若干力が入ってしまい、規定の文字数(1万字)を超えてしまいました。

 そこで、書ききれなかった分を、こちらで補足しておこうと思います。

 

 この2つのメタ分析は、どちらもインフルエンザを発症した成人がオセルタミビルを服用すると、プラセボに比べて症状消失までの時間や合併症が少ないかを検討したランダム化比較試験の結果を統合しています。

 ここでは、合併症のうち、肺炎または下気道感染症に関する部分を抜粋して比較してみたいと思います。

 結果のデータから表を作成してみました。

 

実数の差

 左列の肺炎は2014年のJeffersonらのコクランレビューから。右列の下気道感染症は2015年のDobsonらのメタ分析からです。

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 実はこの2つのメタ分析に統合された研究は、1つを除いてすべて同じランダム化比較試験から得られたデータです。

 しかし、実数でみると、両者に大きな差異があるように感じます。

 

 2014年Jeffersonらの肺炎については、1. 自己申告などを含む肺炎全体(8研究、4,452人)および2. 詳細な診断データ集計に基づく研究(2研究、1,136人)*3 に分けて分析されています。

 2015年Dobsonらの下気道感染症については、ランダム化48時間以降に発症した下気道感染症(気管支炎、肺炎、下気道感染症)のうちで抗菌薬を必要とするもの、となっています。

 

 この定義では、下気道感染症には気管支炎や軽症例での抗菌薬使用症例が含まれていることになりますが、それでもこのような発症数の差が出るものでしょうか?

 

 プロトコール通り実施されてない、アウトカム定義が途中で変更されているなど、研究自体の問題を指摘する声もあります。

 信頼性の低いデータだけでは、なかなか判断しにくいところです。

 

さらに気になる点

 今回取り上げていない部分では、2014年Jeffersonらのメタ分析には他にも気になる記載があります。

  • 小児の喘息患者では症状消失期間の短縮さえ認めなかった。
  • 有害事象では嘔気(28人に1人増加)・嘔吐(22人に1人増加)が有意に多かった。

 

これからどうするか?

 うーん、むずかしいですね。

 少なくとも成人や健康な小児では、早く治る効果が認められますが、そもそもリスクの低い人。リスクのある喘息小児においては、その効果が確認できないとなると、どんな人にオセルタミビルを使ったらいいのか、わからなくなります。

 さらに、副作用が多い、肺炎データがはっきりしないとなると、迷います。よく相談して決めたいと思います。

 

 データの信頼性が揺らいでいると、効果があると言われても手放しに認めにくいところはあります。

 こういった意味でも、臨床研究を誰が、どのように実施するか、結果をどのように公表するかは、服用する患者さんのアウトカムに直結する、とても重要な問題であることがわかります。

 

*1:Jefferson T, Jones MA, Doshi P, Del Mar CB, Hama R, Thompson MJ, Spencer EA, Onakpoya I, Mahtani KR, Nunan D, Howick J, Heneghan CJ. Neuraminidase inhibitors for preventing and treating influenza in healthy adults and children. Cochrane Database Syst Rev. 2014 Apr 10;4:CD008965. doi: 10.1002/14651858.CD008965.pub4. Review. PubMed PMID: 24718923.

*2:Dobson J, Whitley RJ, Pocock S, Monto AS. Oseltamivir treatment for influenza in adults: a meta-analysis of randomised contoled trials. Lancet. 2015 May 2;385(9979):1729-37. doi: 10.1016/S0140-6736(14)62449-1. Epub 2015 Jan 30. Review. Erratum in: Lancet. 2015 May 2;385(9979):1728. Lancet. 2015 May 2;385(9979):1728. PubMed PMID: 25640810. 

*3:画像診断まで実施した研究はない

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