地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

積極的治療か緩和ケアか?

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終末期の迷い

 どこまでも治療をつづけたほうがよいのか、それとも緩和ケアに舵を切ったほうがよいのか、それとも・・・。終末期が近づいてくると、本人そして家族に迷いが生まれます。

 当然のことです。

 とことんまで積極的治療を追求します、積極的治療はしません、といった両極端の姿勢が明確な人は、それほど悩まないかもしれませんが、ごく少数派でしょう。

 態度を心に決めていても、経過や病状によっては決心が揺らいでくる、ということもあります。

 このあたりの選択や決断には、苦慮することが多いようです。

 

 こうした問題にはそれほど参考になる医学的情報もありませんでしたが、2016年にひとつの論文が発表されていますので、ご紹介しておきます。

メタ分析(Reljic, 2017年) *1

 内容を紹介する前に、導入部分に触れておきたいと思います。先行研究や米国の実情についても書かれています。要旨をまとめます。

  • 寿命を延ばしたり治療することを目指して病気の積極的な治療を行うのか(active treatment targeted at underlying disease, TTD)、症状緩和や生活の質(QOL)を高めるための緩和ケアを行うのか(palliative care, PC)、終末期の病気と診断された患者や家族にとっては最も大切な決断を迫られる。
  • 米国メディケアでは想定予後が6か月以内の場合、ホスピスでのPCが推奨されている。しかし、PCやホスピスへの紹介は想定予後6か月以内では不適切だと考えられている。
  • 進行肺がん患者のうち約40%は、最後の1か月まで積極的な治療をつづけている。がん患者全体の60%以上が、最後の3か月までTTDを受けている。
  • 最近の10年では最後の1か月まで積極的な治療を受ける人が増加しており、最後の6か月の医療費が増大している。これに対して、最後の3日間にホスピスを利用した人は14.3%から17%と微増のみ。
  • TTDとPCの効果や害について検討した研究は少ない。 *2 *3 *4
  • 医師は病気の予後や死期を正確に予測できない。*5 *6

 

 米国も日本とそれほど変わりないようだ、ということがわかります。

 積極的治療をつづけるのか(TTD)、緩和ケアに移行するのか(PC)。医療費高騰の問題を見据えながらも、どちらが良いのか医学的にもはっきりしない現状で、どうしたらよいのかわからない、悩ましい状況になっているようです。

 

 そこでシステマティックレビュー+メタ分析がなされています。内容を見ていきましょう。

 

がん終末期患者の予後

研究の概要

 余命6か月以内(中央値)と診断された終末期患者にTTDを行うと、PCに比べて、総死亡、QOL、治療関連死亡、有害事象は少ないか、を検討したランダム化比較試験のメタ分析。

 

主な結果

 10のランダム化比較試験(1,549人)が対象。すべての研究ががん患者を対象としたものであった。

 総死亡(7研究、1,158人)については、TTD群 445/1000人、PC群 500/1000人、ハザード比 0.85(95%信頼区間 0.71, 1.02)とTTD群でやや少ない傾向がみられた。

 治療関連死亡(2研究、668人)については、ハザード比 0.92(95%信頼区間 0.31, 2.76)と同等であった。

 有害事象(ハザード比)については、倦怠感(1.35)、嘔気嘔吐(3.58)、ニューロパチー(5.42)、白血球減少(13.32)、筋肉痛(5.89)などTTD群で多かった。

 

 このメタ分析に採用された研究は、すべて末期がん患者が対象となっており、TTD群はほとんどが化学療法(放射線療法の研究は1つのみ)となっております。また、TTD群はPCを併用したものが多かったようです。

 QOLについては、統合指標としてメタ分析されていませんでした。

 

 この結果からは、末期がん患者に対して化学療法などの積極的治療(または緩和ケアの併用)群では、緩和ケア群に比べて総死亡がやや少ない傾向がみられ、治療関連死亡は同等で、有害事象はかなり多くなっていた、といえます。

 

どちらを選択するのか

 こういった研究は研究数自体が少なく、対象者数も限られるものです。

 末期がんで予後半年以内と診断されてから、積極的な治療を受けるかどうか、自分の意志ではなくランダム割り付けで決められる、という研究には、なかなか参加しにくいでしょう。

 今後もたくさんの研究が行われるとは思えません。

 こうした限界の中、今ある科学的知見を参考にするしかないでしょう。

 

 積極的治療を行うことによって、余命が少し延びるかもしれませんが、副作用に苦しむかもしれません。

 そういったあたりまえのことがわかったに過ぎません。

 未来のことは予測できませんから、最終的には本人がどちらかを選択するしかないでしょう。難しいですね。

 

*1:Reljic T, Kumar A, Klocksieben FA, Djulbegovic B. Treatment targeted at underlying disease versus palliative care in terminally ill patients: a systematic review. BMJ Open. 2017 Jan 6;7(1):e014661. doi: 10.1136/bmjopen-2016-014661. PubMed PMID: 28062473; PubMed Central PMCID: PMC5223692.

*2:Bellmunt J, Théodore C, Demkov T, Komyakov B, Sengelov L, Daugaard G, Caty A, Carles J, Jagiello-Gruszfeld A, Karyakin O, Delgado FM, Hurteloup P, Winquist E, Morsli N, Salhi Y, Culine S, von der Maase H. Phase III trial of vinflunine plus best supportive care compared with best supportive care alone after a platinum-containing regimen in patients with advanced transitional cell carcinoma of the urothelial tract. J Clin Oncol. 2009 Sep 20;27(27):4454-61. doi: 10.1200/JCO.2008.20.5534. Erratum in: J Clin Oncol. 2010 Jan 1;28(1):182. Winquist, Eric [added]. PubMed PMID: 19687335.

*3: Schmid EU, Alberts AS, Greeff F, Terblanche AP, Schoeman L, Burger W, Shiels RA, Friediger D, Van der Hoven A, Falkson G. The value of radiotherapy or chemotherapy after intubation for advanced esophageal carcinoma--a prospective randomized trial. Radiother Oncol. 1993 Jul;28(1):27-30. PubMed PMID: 7694321.

*4:Cartei G, Cartei F, Cantone A, Causarano D, Genco G, Tobaldin A, Interlandi G, Giraldi T. Cisplatin-cyclophosphamide-mitomycin combination chemotherapy with supportive care versus supportive care alone for treatment of metastatic non-small-cell lung cancer. J Natl Cancer Inst. 1993 May 19;85(10):794-800. PubMed PMID: 8387607.

*5:Christakis NA, Lamont EB. Extent and determinants of error in doctors' prognoses in terminally ill patients: prospective cohort study. BMJ. 2000 Feb 19;320(7233):469-72. PubMed PMID: 10678857; PubMed Central PMCID: PMC27288.

*6:Glare P, Virik K, Jones M, Hudson M, Eychmuller S, Simes J, Christakis N. A systematic review of physicians' survival predictions in terminally ill cancer patients. BMJ. 2003 Jul 26;327(7408):195-8. Review. PubMed PMID: 12881260; PubMed Central PMCID: PMC166124.

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