地域医療日誌

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膵がんの検査はしたほうがよいですか?

質問

 膵がんの検査はしたほうがよいですか?

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 有名人の訃報や病気の報道がなされると、不安になるものです。自分もこの病気にかかっているのではないだろうか、検査しておいたほうがよいのではないか、と。

 そのお気持ちはよくわかります。恐いですからね。

 

最新の検査をすればわかるという誤解

 ところが、恐いからといって、病気の検査をしておけば不安が晴れる、というものでは決してありません。

 みなさんが誤解するのはここです。

 症状やその病気を疑う症状がない健康な人については、検査する意義があるか慎重に判断しなければならないことが多いのです。

 

 メディアの報道にも問題があります。その病気を診断する方法について、専門家からコメントをもらいます。

 その病気に詳しい権威だったりするわけですが、現在の最新の診断や治療技術について、ここぞとばかりに宣伝することになります。

 もちろんそれは正しいのでしょうが、多くの健康な一般の視聴者・読者にとってはあてはまらない情報だったりするわけです。

 

 そこで、今回は話題になっている膵がんについて、まずはどのような人が検査を受けなければならないのか、確認しておきましょう。

 

膵がん検診はすべきではない

 医学論文の質を適切に評価して作られた海外のガイドラインを確認しておきましょう。

ガイドライン(U.S. Preventive Services Task Force, 2005年) *1

Summary of Recommendation
The USPSTF recommends against routine screening for pancreatic cancer in asymptomatic adults using abdominal palpation, ultrasonography, or serologic markers.

D RECOMMENDATION
The USPSTF found no evidence that screening for pancreatic cancer is effective in reducing mortality. There is a potential for significant harm because of the low prevalence of pancreatic cancer, limited accuracy of available screening tests, invasive nature of diagnostic tests, and poor outcomes of treatment. As a result, the USPSTF concluded that the harms of screening for pancreatic cancer exceed any potential benefits.

 

 このとおり、触診、超音波検査、腫瘍マーカーを用いた膵がん検診は推奨しない、とのこと。

 膵がん検診には死亡をへらす効果が立証されていないばかりか、膵がんの頻度が少ないため診断や治療による害が上回ることが明らかである、という理由です。

 

 現在、改訂版の編集作業中となっており、今年中には新しいガイドラインが発表されることでしょう。

 

どんな人が検査すべきか

 すべての人に膵がん検診が推奨されていないわけではありません。リスクが高い人については有用であるとされています。

 リスクが高い人とはどのような人のことでしょうか? UpToDateから。

レビュー(UpToDate, 2017年) *2

Candidates for screening — We screen for PC in the following individuals [5,56]:

●First-degree relatives (FDRs) of patients with PC from a FPC family with at least two affected FDRs

●Patients with Peutz-Jeghers syndrome (PJS)

●CDKN2A (p16), BRCA1, BRCA2, PALB2, and Lynch syndrome mutation carriers with one or more affected FDRs

●Patients with hereditary pancreatitis

 

 膵がん検診が推奨される高リスクの人とは、下記のような限られた対象者となっています。

  • 家族性膵がん(FPC)の膵がん患者がいる一等親血縁者(FDR、両親兄弟姉妹)
  • Peutz-Jeghers 症候群 *3
  • CDKN2A (p16), BRCA1, BRCA2, PALB2, Lynch 症候群 *4 遺伝子変異保持者が一等親血縁者に1人以上いる
  • 遺伝性膵炎症候群 *5 の患者

 

 このような高リスクの人には、高率に膵がんが発生するといわれています。Changらのレビュー *6 によると、Peutz-Jeghers 症候群では膵がんの相対危険132倍で65歳までに36%に発症、遺伝性膵炎症候群では53倍で75歳までに男性49%、女性55%に発症、家族性膵がんでは一等親血縁者に3人発症者がいる場合は32倍、40%に発症するとされています(Table 1)。

 

 このような高リスクの人に対する膵がん検診については有用性が確認されており、システマティックレビュー *7 もありますので、原著論文をご参照ください。

 

 まずはこうした高リスクの人に膵がん検診を受けていただくことが重要です。

 

家族性膵がんとは

 ここで、家族性膵がん(FPC)について、確認しておきましょう。

Familial pancreatic cancer (FPC), which is defined as a family with a pair of affected first-degree relatives (parent-child or sibling pair) who do not meet criteria for a known PC-associated genetic predisposition syndrome

 

 家族性膵癌登録制度のウェブサイト *8 から、啓発もかねて引用させていただきます。

 家族性膵癌は、親子または兄弟・姉妹に2人以上の膵癌患者さんのいる家系の方に発症する膵癌です。膵癌の5~10%が家族性膵癌で、家族性膵癌家系の方は一般の方よりも膵癌になるリスクが高いとされています。

 家族性膵癌には、乳癌や大腸癌などと同様に遺伝的背景があることが指摘されています。

 家族性膵癌の患者さんの兄弟、子どもが膵癌になるリスクは3倍以上と言われており、親子兄弟に患者さんが2人いる場合には6倍のリスク、3人いると32倍のリスクという報告もあります。欧米では家族性膵癌の調査がかなり進んでおり、その登録制度を基盤に研究が盛んに行われており、こんごの研究成果が注目されています。

 

*1:https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/Page/Document/UpdateSummaryFinal/pancreatic-cancer-screening
https://www.aafp.org/afp/2005/0815/p665.html

*2:Canto MI. Familial risk factors for pancreatic cancer and screening of high-risk patients. In: UpToDate, Judith AM (Ed), UpToDate, Waltham, MA, 2017.

*3:GRJ Peutz-Jeghers症候群

*4:リンチ症候群とは

*5:難病情報センター | 遺伝性膵炎(指定難病298)

*6:Chang MC, Wong JM, Chang YT. Screening and early detection of pancreatic cancer in high risk population. World J Gastroenterol. 2014 Mar 7;20(9):2358-64. doi: 10.3748/wjg.v20.i9.2358. Review. PubMed PMID: 24605033; PubMed Central PMCID: PMC3942839.

*7:Lu C, Xu CF, Wan XY, Zhu HT, Yu CH, Li YM. Screening for pancreatic cancer in familial high-risk individuals: A systematic review. World J Gastroenterol. 2015 Jul 28;21(28):8678-86. doi: 10.3748/wjg.v21.i28.8678. Review. PubMed PMID: 26229410; PubMed Central PMCID: PMC4515849.

*8:家族性膵癌登録制度 公式ホームページ

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