地域医療日誌

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ALSにメジコン?

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質問

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)にメジコン(一般名デキスロトメトルファン)は効果があると聞いたのですが、本当ですか?

 

ALSの情動調節障害に

 時々聞かれる質問ですので、調べてみました。

 まずはDynaMedから。いきなり記載と引用文献がありました。

Treatment of pseudobulbar affect:

  • consider dextromethorphan/quinidine sulfate for treatment of pseudobulbar affect if side effects acceptable
  • dextromethorphan 20 mg/quinidine sulfate 10 mg (Nuedexta) FDA approved for treatment of pseudobulbar affect in patients with ALS (FDA prescribing information 2010 Oct PDF)

 

 ALSの情動調節障害(pseudobulbar affect)に対してデキストロメトルファンとキニジン硫酸塩の合剤の使用を考慮、とあります。米国食品医薬品局ではこの合剤が承認されているようです。

 キニジン硫酸塩はデキストロメトルファンの代謝を抑える効果があるようです。

情動調節障害とは 

 ところで、情動調節障害とは何でしょうか。説明は引用させていただきます。

 ALSの患者さんには、楽しいことに対して泣いてしまったり、笑うべきでない場面で笑ったりというように、状況にそぐわない感情の反応があらわれることがあります。これらは、患者さんの社会参加を妨げ、QOLを低下させる要因となる症状です。治療には、三環系抗うつ薬や選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などが有効です。

「強迫泣・強迫笑」という日本の呼び方は、症状を示す名称としては不十分で、語感も良くありません。アメリカでは、この症状は「情動調節障害」(Pseudobulbar Affect:PBA)と呼ばれています。今後は、情動調節障害という呼び方が一般的になり、治療対象として正しく認識されることを期待しています。

Vol.2 ALSの対症療法│ ALS最前線│ 田辺三菱製薬株式会社 ALS ステーション

 

 情動調節障害はほかにも脳梗塞、外傷性脳損傷、アルツハイマー病、多発性硬化症(MS)などでみられます。ALSでは49%に情動調節障害がみられる、との報告もあります。

 

 それでは、この根拠となる文献を確認しておきましょう。古いものでは2004年のランダム化比較試験が引用されています。

ランダム化比較試験(Brooks, 2004年) *1

研究の概要

  ALSと診断された人に、デキストロメトルファン 30mg+キニジン硫酸塩 30mg (DMQ, AVP-923)を1日2回28日間投与すると、デキストロメトルファンのみ(DM)またはキニジン硫酸塩のみ(Q)に比べて、情動調節障害スコア(Center for Neurologic Study Lability Scale (CNS-LS) スコア *2)の改善度は大きいか、を検討したランダム化比較試験。

 

主な結果

 DMQ群 65人、DM群 30人、Q群 34人の結果を検討。DMQ群ではDM群に比べて 3.3点改善度が大きく、Q群に比べて3.7点改善度が大きかった。

 有害事象はいずれも軽症から中等症でDMQ群 24%、DM群 6%、Q群 8%であった。

 

 CNS-LSスコアは7~35点(大きい方が重症)ですが、3点以上の差がついており、ある程度の効果がみられているのでしょう。

 

 つづいて、2010年のランダム化比較試験をどうぞ。

ランダム化比較試験(Pioro, 2010年) *3

研究の概要

 情動調節障害(CNS-LSスコア 13点以上)のあるALSまたはMSと診断された人に、デキストロメトルファン/キニジン 30/10mg(DMq-30)または20/10mg(DMq-20)を1日2回 12週間服用すると、プラセボに比べて、1日の情動調節障害エピソード数(患者日記による)が少なくなるか、を検討した二重盲検ランダム化比較試験。

 

主な結果

 326人(ALSは約6割)をランダム割り付けし、そのうち283人、86.8%が治療完遂。情動調節障害の開始時からの改善度では、DMq-30群ではプラセボに比べて 46.9%、DMq-20群では 49.0%といずれも有意に改善がみられた。有害事象には有意差はなく、転倒、めまい、頭痛などが多くみられた。

 

DMqは効果あり

 この結果をみる限りでは、デキストロメトルファン+低用量キニジンはALSやMSの情動調節障害に効果がありそう、ということがわかります。

 ほかによい対処方法がありませんので、ひとつの選択肢としたいところです。

 しかし、国内ではそもそも合剤は未承認。

 それぞれ単剤では使用できますが、現在のところ情動調節障害の保険適用はありません。

 キニジン硫酸塩水和物(錠剤は100mg錠)は不整脈治療薬としての適用です。当然、デキストロメトルファンは下記の通り併用注意となっています。

薬剤名等 デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物

臨床症状・措置方法 上記薬剤の作用が増強するおそれがある。

機序・危険因子 本剤の肝薬物代謝酵素(CYP2D6)阻害作用により、上記薬剤の代謝が阻害され、血中濃度が上昇することがある。

 

 保険適用上の制約で簡単には使いにくいですが、効果はありそうだ、ということが確認できました。

 

つづく

*1:Brooks BR, Thisted RA, Appel SH, Bradley WG, Olney RK, Berg JE, Pope LE, Smith RA; AVP-923 ALS Study Group.. Treatment of pseudobulbar affect in ALS with dextromethorphan/quinidine: a randomized trial. Neurology. 2004 Oct 26;63(8):1364-70. PubMed PMID: 15505150. abstruct

*2: 笑いに関する3つの評価項目と泣きに関する4つの評価項目の合計7項目を5段階評価する自記式スケール

*3:Pioro EP, Brooks BR, Cummings J, Schiffer R, Thisted RA, Wynn D, Hepner A, Kaye R; Safety, Tolerability, and Efficacy Results Trial of AVP-923 in PBA Investigators.. Dextromethorphan plus ultra low-dose quinidine reduces pseudobulbar affect. Ann Neurol. 2010 Nov;68(5):693-702. doi: 10.1002/ana.22093. PubMed PMID: 20839238.

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