地域医療日誌

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変化しつづける地域でともに悩み、考える医療

「薬漬け」問題について考える

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 薬はなるべく少ないほうがいい。できれば飲まないほうがいいに決まっています *1。しかし、そこは病気の治療のため、薬が多くなるのはやむを得ないこともあります。

 ところが、最近は専門家の間でも、薬が多いことは問題ではないか、という声が上がるようになってきています。

 新薬が次々発売され、薬を使える機会が増えている、ということが背景にあるでしょう。また、高齢化も影響しているはずです。実際にたくさんの種類の薬を飲んでいる高齢者は少なくありません。

 さらに、医療費(国内全体で予防や医療にかかる費用の総額)が高騰していることも、問題視される一因になっているでしょう。

 治療をするかどうかは、効果と害をはかりにかけて慎重に判断するものです。予想される効果が害を上回る場合に、治療が開始されます。しかし、薬が多くなると相互作用などによって体調を悪くすること(有害事象)が懸念されます。

 また、治療が開始された後でも、薬が安易に処方されていないか、適切に使用されているかどうか、不必要になった薬はないか、再点検しながら治療を進める必要があります。

 

ポリファーマシーとは何か

 たくさんの種類の薬が処方された状態のことを、ポリファーマシー(polypharmacy)と呼んでいます。「薬漬け」とでも言い換えておきましょうか。

 このポリファーマシーの現状や問題点について調べようとすると、ひとつの壁に突き当たります。

 ポリファーマシーとは何か、という定義の問題です。

 病気の治療のために、どうしてもたくさんの種類の薬が必要になることもあります。それが適正かどうか、という判断はなかなか簡単ではありません。

 調査や研究を行うには、あらかじめポリファーマシーを定義しておかなければなりません。研究ではどのように定義されているのでしょうか。最近のシステマティック・レビューの序文をいくつか覗いてみましょう。

 

メタ分析(Patterson, 2014年)*2

  Polypharmacy has a range of definitions that refer to the use of multiple medication regimens, but no standard definition is used consistently (King’s Fund 2013; Stewart 1990). A simple definition-’ the administration of more medicines than are clinically indicated, representing unnecessary drug use’ (Montamat 2004)-has been used, but for the purpose of this review, we have used the common definition of ’the concomitant ingestion of four or more medications’ (DoH 2001; Rollason 2003).

 

 ポリファーマシーには、一貫して使用されている標準的定義はないようです。簡潔な定義としては「臨床的に適用とされる範囲より多く薬剤が使用されること」 ですが、このレビューでは「4以上の薬剤が同時に併用されること」という定義を用いた、とあります。

 

メタ分析(Christensen, 2013年) *3

  Inappropriate pharmacotherapy is a major cause of patient morbidity and mortality. Inappropriate pharmacotherapy includes situations where prescriptions are prescribed without correct indication or dosage, in combination with certain patient conditions or other drugs that increase the risk of treatment failure or adverse drug effects. Also included in the term ’inappropriate pharmacotherapy’ is under-prescribing i.e. not prescribing despite indication for pharmacotherapy, lack of necessary biochemical monitoring of pharmacotherapy, and poor adherence.

 

 このレビューでは、inappropriate pharmacotherapy(不適切な薬物療法)という定義が採用されていました。これはいくつかの問題を包含する用語として説明されています。

  • 正しい適用や用量ではない処方
  • 治療失敗や有害事象の危険性を高める特定の病態での使用や他剤併用
  • 本来されるべき薬が処方されていない
  • 必要なモニタリングがなされていない治療
  • アドヒアランスが不良

 

システマティック・レビュー(Fried, 2014年) *4

  Although reviews of polypharmacy defined as the receipt of multiple medications have concluded that number of medications is associated with adverse outcomes in older adults, the full range of outcomes potentially associated with polypharmacy is not well understood. Several prior reviews of polypharmacy focused on the epidemiology of and interventions to reduce polypharmacy rather than on outcomes. One review examining outcomes associated with polypharmacy used the key words “polypharmacy” or “multiple medications” as identifiers of studies examining the use of multiple medications. Examination of articles suggested that relevant studies were not uniformly indexed using these terms, so a systematic review of the literature was undertaken to examine the health outcomes associated with polypharmacy, employing a number of strategies to identify studies that examined the use of multiple medications.

 

 このレビューでは、multiple medications(多数の薬を併用すること)ということを定義として採用しているようです。

 この序文の中で重要な視点が提供されています。

 ポリファーマシーが高齢者の有害事象につながると結論づけられているレビューはありますが、その有害事象のどこまでが潜在的にポリファーマシーと関連しているか、はっきりわかっていない、ということです。

 そして、これまではポリファーマシーをなくすにはどうするか、という視点でしかレビューがなされていませんが、本来は有害事象などのアウトカムを検証すべきではないか、と著者は指摘しています。

 

 ポリファーマシー問題を扱う時にも、ここに十分注意が必要だと思います。

 「ポリファーマシーが問題だ」という近視眼的な視点ではなく、どのような影響が生じているのか、よく検討して問題点を整理する必要があります。

 

 それではポリファーマシーにはどのような問題があるのか、これから少し調べておきたいと思います。

 

ポリファーマシーの定義

 これまでポリファーマシーに関する国内の学術情報はかなり少なかった *5 のですが、最近は雑誌の特集などで取り扱われるようになっています。

 ポリファーマシーの定義やその問題は、どのように取り扱われているでしょうか。少し覗いておきましょう。

 

ジェネラリスト教育コンソーシアム(2012年)

 まずこちらから。2012年の第2回家庭医・病院総合医教育研究会で行われた討議の内容が編集され、書籍化されたものです。

提言―日本のポリファーマシー (ジェネラリスト教育コンソーシアム vol. 2)

提言―日本のポリファーマシー (ジェネラリスト教育コンソーシアム vol. 2)

 

 

 この中の資料 *6 では、ポリファーマシーの定義 *7 はこのように紹介されています。

  • Increased no. of medications:薬の数が多い
  • PIM (potentially innappropriate medication) use:潜在的に不適切な処方
  • Medication underuse:本来使われるべき疾患に必要な薬が使われていない
  • Medication duplication:重複

 

 Medication underuseのように、本来使われるべき薬が使われていないことも、ポリファーマシーの概念に包含して紹介されています *8

 ポリファーマシーは不適切な薬剤投与(PIMs)と関係していると言われており、これは診療所、在宅、施設においても同様と考えられる。

 つまり、本来投与すべきでない薬剤が処方された結果、ポリファーマシーになることが多く、この傾向は高齢になるにつれて顕著になるとされている。

 しかし、PIMsによるポリファーマシーだけではなく、病態などから本来は投与されるべき薬剤が投与されていない(prescribing omission)こともあり、その結果病態が悪化し入院したり、他の薬剤が追加されることも考えられる。 

 

 「本来は投与されるべき」というのはどういったことか、というところに若干の違和感を感じます *9 が、一般的にはmedication underuseやprescribing omissionもポリファーマシーの一部に含まれているということを、まずは押さえておきたいです。

 

治療(2014年)

 そして、こちらは商業誌の特集号です。こちらにもまとまった記事があります。 

治療 2014年 12月号 [雑誌]

治療 2014年 12月号 [雑誌]

 

 

 この中でもポリファーマシーの定義について触れられています *10

 ポリファーマシーという言葉は150年以上前に登場しているが、現在までその明確な定義はなされていない。5剤以上の薬剤使用という定義もあるが、複数の疾患を抱える患者、とくに高齢患者が増加してきている今、この定義は適切ではないであろう。

 「Polypharmacy is a "necessary evil"」ともいわれ、複数の薬を使用せざるを得ない臨床病態が当然のことながら存在する。ポリファーマシー自体を問題とするのではなく、複数処方がで適切であるかどうかを検討するのが妥当な考え方であろう。

 

 明確な定義はなされていないと記載されています。さらに適切なポリファーマシーと問題のあるポリファーマシーという概念が紹介されています。

適切なポリファーマシー

 複雑な病態、他疾患併存に対して、薬剤師用が適切化され、処方が最良のエビデンスに沿っている場合

 

問題のあるポリファーマシー

 複数の薬剤が不適切に処方されていたり、薬物治療の意図する利益が得られていなかったりする場合

 なぜ処方が問題となるか

  • 治療がエビデンスに基づいていない
  • 治療による害が利益を上回る
  • 相互作用のために薬の併用が危険である
  • 内服の負担、薬剤費の負担が患者にとって許容範囲を超える
  • これらの負担により、臨床的に有用な薬物治療のアドヒアランスを得ることが難しい
  • ほかの薬の副作用を治療するために薬が処方される(prescribing cascade)

 

 なるほど。ポリファーマシーが適切かどうかは、最良のエビデンスに基づいているかが重要である、という論調です。

 

地域医療の見え方

 最後に、こちらを覗いてみましょう。ポリファーマシーの特集をやっていました。

jp.bloguru.com

 ここでは、さらりと定義が記載されています。

ポリファーマシー(Polypharmacy)、いわゆる多剤併用を中心とした潜在的に不適切な仕方での薬剤使用、PIMs(Potentially inappropriate medications)を指すもの、とここでは定義しておきます。

 

 ポリファーマシーについての情報がまとまっています。連載になるのでしょうか、情報源が少ない中では期待したいところです。

 

ポリファーマシーをどうするか

 このような情報で述べられている対策は、いかにポリファーマシーについて医師を啓発して意識改革を促すか、という点で一致しますので、大枠ではこのようなキーワードになることが一般的でしょう。

  • ポリファーマシーの教育
  • 実態調査
  • 職種間連携

 そのためにも、ポリファーマシーがいかに問題であるか、ということを、エビデンスに基づいて説明する必要が生じます。

 特に問題になりがちな臨床場面としては、入院患者、高齢者、在宅患者、小児のほかに、緩和ケア領域、精神科領域などになるでしょう。それぞれ事情が異なりますので、各論で対応していく必要がありそうです。

 

 まずは、このような大枠を押さえた上で、ポリファーマシーの研究について、さらに見ていきたいと思います。

 

つづく 薬が多くなると総死亡が多い - 地域医療日誌

*1:病気によっては、一人の人にたくさんの薬が処方されてしまうことがあります。たくさんといっても、処方日数ではなく薬の種類のことです。

*2:Patterson SM, Cadogan CA, Kerse N, Cardwell CR, Bradley MC, Ryan C, Hughes C. Interventions to improve the appropriate use of polypharmacy for older people. Cochrane Database Syst Rev. 2014 Oct 7;10:CD008165. doi: 10.1002/14651858.CD008165.pub3. Review. PubMed PMID: 25288041.

*3:Christensen M, Lundh A. Medication review in hospitalised patients to reduce morbidity and mortality. Cochrane Database Syst Rev. 2013 Feb 28;2:CD008986. doi: 10.1002/14651858.CD008986.pub2. Review. PubMed PMID: 23450593.

*4: Fried TR, O'Leary J, Towle V, Goldstein MK, Trentalange M, Martin DK. Health outcomes associated with polypharmacy in community-dwelling older adults: a systematic review. J Am Geriatr Soc. 2014 Dec;62(12):2261-72. doi: 10.1111/jgs.13153. Review. PubMed PMID: 25516023; PubMed Central PMCID: PMC4270076.

*5:海外には多数論文があります。

*6:金井貴夫. 教育レクチャー:日本のポリファーマシー

*7:原文ではクライテリア、と記載されています。

*8:浜野淳. 診療所・在宅・施設におけるポリファーマシー:海外のエビデンス

*9:適切な、不適切な、本来は、という表現は科学的に厳密ではなく主観的なものであり、使用する際には十分注意しておきたいです。

*10:宮田靖志. ポリファーマシー:何が問題なのか?どうすればよいのか?

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