地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

薬が多くなると総死亡が多い

「薬漬け」問題について考える - 地域医療日誌 につづきます。

 

 今回はポリファーマシー問題のなかで、「薬の数が多い」という点についてみていきたいと思います。

 

高齢者の約3割が5剤以上

 アメリカの2006年の調査(Slone survey)では、65歳以上の高齢者のうち28%が5剤以上の薬剤を処方されていたという報告があります。アイルランドの2012年の報告(The Irish Longitudinal Study on Ageing)でも、65歳以上の高齢者のうち31%が5剤以上の薬剤を処方されていた、という同様の報告があります。

 国内の報告は少ないのですが、同様に3割以上の高齢者がポリファーマシーに陥っている可能性があるのではないかと推察されます。

 慢性疾患を複数かかえることの多い高齢者の薬漬けは、常態化しているといってもよいでしょう。

 

5剤以上で総死亡が多い  

 それでは、薬の数が多いことにはどんな問題があるのでしょうか。2014年のシステマティック・レビューがあります。結果の一部をご紹介します。

システマティック・レビュー(Fried, 2014年) *1

P▶ 65歳以上の高齢者で
E▶ 薬を5剤以上服用している人は
C▶ それ以外の人に比べて
O▶ 総死亡は多くなるか
T▶ 予後、コホート研究のシステマティック・レビュー
《結果》★★☆

 慢性疾患の交絡調整がなされた質の高いコホート研究が3つある。

  • 65歳以上の1万2千人を18年間追跡した2011年のコホート研究では、5剤以上の服用で2年後総死亡のハザード比が男性 1.42 [95%信頼区間(CI) 1.28, 1.58]、女性1.3 [95%CI 1.19, 1.41]と、ポリファーマシー群で総死亡が多い。
  • 65歳以上の4千人以上を4.5年間追跡した2011年のコホート研究でも、総死亡のハザード比 1.04 [95%CI 1.00, 1.07]とポリファーマシー群で総死亡が多い傾向がある。
  • 1千2百人を2年間追跡した2012年のコホート究でも同様に、総死亡のオッズ比が1.09 [95%信頼区間 1.04, 1.15]と、やはりポリファーマシー群で総死亡が多い。

 

 コホート研究では、薬が多いことと疾病の重症度との関係など、交絡因子の影響が出てきます。ここで取り上げられているコホート研究はその交絡の調整が比較的よくなされた質の高いコホート研究となっています。

 それでも、未知の因子などの交絡の影響は除外できませんが、薬の数が多いことで総死亡が多くなる傾向が一貫してみられています。規模の大きな研究では、総死亡が3~4割多いという結果になっています。

 さらに、入院、有害事象、転倒などのアウトカムも多く発生する傾向が指摘されています。

 

 治療のためとはいえ、高齢者にとって薬が多くなることはリスクとなることは明らかです。薬が増えていかないよう、十分注意したいところです。

 

つづく

不適切な投薬は不適切だ? - 地域医療日誌

 

*1:Fried TR, O'Leary J, Towle V, Goldstein MK, Trentalange M, Martin DK. Health outcomes associated with polypharmacy in community-dwelling older adults: a systematic review. J Am Geriatr Soc. 2014 Dec;62(12):2261-72. doi: 10.1111/jgs.13153. Review. PubMed PMID: 25516023; PubMed Central PMCID: PMC4270076.

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