匿名論争に一石を投じたブログ記事
ブログ記事にちょっと感動して、ツイッターのつぶやきでは満足できず、ここでも紹介いたします。
みなさんもご存知、岩田健太郎さんのブログ「楽園はこちら側」。2016年7月19日のこちらの記事「医師の匿名は許容される」です。
“「医師たるもの、○○な服装をすべし」的な主張は、単なる医師の独りよがりな思い込みに過ぎないことが分かったのです。” / “医師の匿名は許容される - 楽園はこちら側” https://t.co/ecZj0M1lss
— 地域医療日誌 (@bycomet) 2018年4月4日
この記事が掲載された当時、話題になったように記憶していますし、ぼくもツイッターとはてなブックマークした形跡がありました。
あらためて、時間を置いてこの記事を読んでみると、真理を追求しようという岩田さんの姿勢に感銘を受けます。
さらに、ぼくの「このまま匿名でいいのか」というもやもやした想いや疑問をスッキリと晴らしていただき、たいへん感謝しております。
さて、どんな内容だったのか、記事を確認いただければよいだけですが、ここで簡単にご紹介しておきましょう。
過去の主張を全面撤回
これまでぼくは医師が医療・医学についてコメントする場合は実名、もしくは自身がアイデンティファイされる名前(芸名やペンネームなど)を用いるべきだと主張してきました。匿名発言が実名発言より正しくない、という主張ではありません。万が一その発言が間違っていた時に匿名を理由に批判をすり抜け、責任もとらないのはフェアではないと考えたからです。
上のような意見を全面的に撤回し、下のような意見に訂正しお詫びする、という内容です。
しかし、本日をもってぼくはこの過去の主張を全面的に撤回します。医師が匿名で医療・医学についてのコメントは全面的に許容されて良いと思い直しました。とくに匿名で発言されている医師の皆様には、過去の主張についてお詫び申し上げます。申し訳ございません。
この間に何が起こったのでしょうか。
ネットアンケートでは8割以上が匿名OK
ぼくは1週間の期間を限定して、ネット上で簡単なアンケートを取りました。「医師がツイッターなどSNSを利用して医学医療についてコメントするとき、それは実名で行われるべきでしょうか。それとも匿名でOKなのでしょうか」という極めてシンプルな作りのアンケートです。
ということで、ネットアンケートを行ったのです。簡単なネットアンケートであっても調査ですから、いつものスタイルで紹介しておきますか。
横断研究(Iwata, 2016年) *1
研究の概要
ネット利用者(医師、医療者、医療者以外)に「医師がツイッターなどSNSを利用して医学医療についてコメントするとき、それは実名で行われるべきでしょうか。それとも匿名でOKなのでしょうか」と質問すると、匿名OKと回答する頻度はどれほどか、を検討した頻度に関する横断研究。
主な結果
調査期間は1週間。回答者は814人(医師 444人、医師以外の医療者 207人、医療者以外 163人)。
- 実名で行うべき 18.43%
- 匿名でもOK 62.04%
- 匿名でもOKだが、本人が特定できるようにすべき(香山リカのような) 19.53%
なんと、本人特定できる条件つきを含めると81.57%が匿名OKと回答しています。
医師、医師以外の医療者、医療者以外でも比較していますが、どの対象でも「匿名でもOK」が6割を占める多数派となっています。
注目すべきは、医療者以外の回答です。(n=163人)
- 実名で行うべき 11.04%
- 匿名でもOK 65.64%
- 匿名でもOKだが、本人が特定できるようにすべき(香山リカのような) 23.31%
医療者以外では、むしろ実名にすべきが減って、本人が特定できるべきが増えています。
どの集団でも実名を求める人は少数派だった、ということになります。
ブログにおける匿名について
ぼくのブログを匿名にしようと決意することになった研究が、2008年のブログ記事に残っていました。
こんな、記憶を遡ることができた時、ブログの威力を感じます。
医療専門家によるブログでは、著者が不用意に患者の情報を漏らしてしまうことがあり、患者のプライバシーが脅かされる可能性が米国の研究で示され、米医学誌「Journal of General Internal Medicine(総合内科)」オンライン版に7月23日掲載された。
医療ブログが患者のプライバシーを脅かす - 地域医療日誌 by COMET
患者の個人情報を漏洩しては元も子もありません。
プライバシーが脅かされるのではないか、という恐怖心を患者に与えてしまったら、それは不本意だと思ったからです。
もちろん、実名を出すデメリットもあります。医療法で禁止されている広告や宣伝ととらえられるリスクや、ぼくのプライバシーだって脅かされることはデメリットでしょう。
ドイツの哲学者 ショウペンハウエルは著書「読書について」の中で、匿名での著作について手厳しい批判を浴びせています。
とはいえ、ぼくはぼくなりのポリシーを貫いていこうと思います。
ここにブログポリシーを再掲します。
匿名化について
このブログでは、関心の赴くまま地域医療・家庭医療と臨床教育の実践記録を書いています。ここに記載されている情報は、医学教育を受け医師の資格をもつ著者の仕事の精神を忠実に伝えるものですが、個人情報保護の観点から著者名は匿名(Pseudonymity)とさせていただいております。
また、本人が特定されるおそれのある臨床上の特徴や詳細な情報については、一部変更を加えています。これは、機密性を確保し匿名性を保護するためのものです。 ご容赦ください。
フィクション化について
診療に関する情報を扱うことがあるため、個人情報が明らかにならないよう内容についても配慮しています。具体的な症例は実例に基づいていますが、詳細を脚色したり一般化するなどの修正を加えています。ご了承ください。
ということで、これからもこのまま突き進みます。どうぞよろしくお願いします。