地域医療日誌

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放射線は低線量でも白血病になりやすいですか?

質問

 長年放射線を浴びると、がんになりやすくなりますか?

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原発作業員の大規模研究

 電離放射線の低線量被曝の影響について、重要な2つの論文がひっそりと発表されていました。海外の原子力発電所作業員の国際コホート研究(The International Nuclear WORKers Study (INWORKS))です。

 ひとつは白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫について検討したもので、もうひとつは固形がんについて検討されています。

 

 これまでの電離放射線のがん発症リスクについては、広島・長崎の原爆生存者のコホート研究 *1 に基づいていました。しかし、これらのほとんどが急性の高線量被曝の影響であり、低線量で長期にわたる繰り返しの被曝による健康への影響ははっきりわかっていませんでした。

 原発作業員のコホート研究では、被曝量の概算も確認できていると予想され、低線量被曝の影響をおおむね正確に反映していると考えられます。

 つまり、この2つの研究は、これまでわかっていなかった低線量の長期にわたる被曝の影響が明らかになる研究ということになるでしょう。

 

 さて、それでは研究を順に見ていきたいと思います。

血液がんのコホート研究(Leuraud, 2015年) *2

研究の概要

 1年以上原子力発電所に従事した作業員 *3 308,297人を対象に、電離放射線の赤色骨髄被曝量が多いと白血病・リンパ腫・多発性骨髄腫による死亡は多いか、を検討した後向きコホート研究。

 

主な結果

 平均追跡期間は27年(標準偏差 12)。累積被曝線量の平均は16mGy、中央値は2.1mGy。平均年間被曝量は1.1mGy(標準偏差 2.6)。

 白血病(慢性リンパ性白血病を除く)による死亡が531人、リンパ腫による死亡が814人、多発性骨髄腫による死亡が293人。

 赤色骨髄の累積被曝線量が多くなると白血病(慢性リンパ性白血病を除く)死亡が多くなり、直線的な関係があることが確認された。1Gy当たりの過剰死亡(相対危険)は 2.96(90%信頼区間 1.17, 5.21)。そのうち、慢性骨髄性白血病死亡は 10.45(90%信頼区間 4.48, 19.65)と強い関連がみられた。

 慢性リンパ性白血病死亡(-1.06、90%信頼区間 NE, 1.81)以外では、多発性骨髄腫死亡(0.84、90%信頼区間 -0.96, 3.33)、非ホジキンリンパ腫死亡(0.47、90%信頼区間 -0.76, 2.03)、ホジキンリンパ腫死亡(2.94、90%信頼区間 NE, 11.49)はいずれも正の関係がみられたが有意ではなかった。

 

1Gyで白血病過剰死亡が3倍

 電離放射線の被曝は低線量であっても、被曝線量が多くなると白血病(特に慢性骨髄性白血病)死亡が直線的に多くなることが示されました。

 2年間の被曝線量を1Gy当たりに換算すると、白血病による過剰死亡が2.96倍(つまり相対危険では1Gyで3.96倍)ということになります。

 

 結果の一部を抜粋して表にしました。死亡者数の実数にも着目したいところです。

 白血病(慢性リンパ性白血病を除く)による死亡531人のうち、281人(53%)が5mGy未満で発生しています。

 相対危険で見ると、有意に白血病死亡が多くなるのは200mGy以上となっています。

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 この研究では原発作業員を対象にしていますが、論文の考察では、医療従事者の放射線被曝についても触れています。

 医療従事者を対象とした被曝線量と白血病死亡の研究はなく、はっきりわかっていないようですが、同様の傾向があると考えておいてよいのかもしれません。

 

放射線は低線量でも白血病になりやすいですか?

  • 原発作業員の国際コホート研究では、被曝線量が多くなると白血病(慢性リンパ性白血病を除く)死亡が直線的に多くなる傾向がみられた。
  • 白血病死亡は200mGy以上で有意に多くなっていた。
  • 白血病過剰死亡は1Gy当たり2.96倍となる。

 

(つづく)

放射線は低線量でもがんになりやすいですか? - 地域医療日誌

*1:コホート研究とは、特定の要因に曝露された集団と曝露されていない集団を一定期間追跡し、病気を発症する頻度を比較することで、特定の要因と病気の発症との関連について検討する観察研究のひとつ。

*2:Leuraud K, Richardson DB, Cardis E, Daniels RD, Gillies M, O'Hagan JA, Hamra GB, Haylock R, Laurier D, Moissonnier M, Schubauer-Berigan MK, Thierry-Chef I, Kesminiene A. Ionising radiation and risk of death from leukaemia and lymphoma in radiation-monitored workers (INWORKS): an international cohort study. Lancet Haematol. 2015 Jul;2(7):e276-e281. PubMed PMID: 26436129; PubMed Central PMCID: PMC4587986.

*3:the Atomic Energy Commission, AREVA Nuclear Cycle, or the National Electricity Company in France, the Departments of Energy and Defence in the USA, and nuclear industry employers included in the National Registry for Radiation Workers in the UK

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