地域医療日誌

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低線量でも白血病が多いという論文には異論も

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血液がん論文への異論

 

 過去記事 放射線は低線量でも白血病になりやすいですか? - 地域医療日誌 で紹介した論文に、公益財団法人 放射線影響協会がウェブサイト上で見解を公表しています。

 たいへん興味深い内容のため、一部引用の上、ご紹介させていただきます。

放射線影響協会の反論

放射線影響協会疫学センター » Lancet掲載のINWORKS白血病論文に対する見解 より引用

 

論文への疑問  

 当協会は、筆者らの論文に対して次のような疑問を持ち、Lancetに意見を提出した。

① なぜこの3ヶ国を選択したのか  

 この共同研究は、以前実施された15カ国共同研究に参加した国のうち、フランス、英国、米国の3カ国の放射線作業者調査を選び、新たなデータも加え3カ国統合したデータを解析したものであるが、なぜ、この3カ国を選択したのかは当然の疑問として残る。15カ国研究では、慢性の低線量放射線被ばくと白血病死亡率との間には有意な関連がなかったにも拘わらず、なぜこの3カ国では有意なのかという疑問である。他の3カ国を選び共同研究すると有意な結果が得られるとは限らないだろう。  

 低線量の放射線被ばくと白血病死亡率との関連について結論を導くためには1つの疫学調査の結果からではなく、多くの調査で同じような結果が得られることが必要である。今回の3カ国研究は1つの調査である。

② 放射線以外の要因等をどのように解析上処理したのか  

 更に、内部被ばくや中性子被ばく作業者は、15カ国研究では除外して解析されたが、この3カ国共同研究では、なぜ解析に含めたのか、また、低線量域放射線では問題となる放射線以外の要因等をどのように解析上処理したのかなど、この論文からは明確に読み取れない。この調査の妥当性を議論するには更に多くの情報が必要である。

 

 上記の2点が疑問点として提示されています。

 ②については、交絡因子の調整が不十分であるという、この論文の弱点を突く質問になっています。

 さらに、内部被曝や中性子被曝の作業員を含めて解析したため白血病が多くなってしまったのではないか、という指摘です。

 まあ、ここはごもっともな指摘ですね。

 

 ①については、なぜ3カ国のみで解析したのか?という疑問です。

 3カ国だけで検討したひとつの調査だけでは、決して低線量被曝と白血病死亡の関係を結論付けられるものではない、という主張です。

15カ国のコホート研究(Cardis, 2005年) *1 

 放射線影響協会の指摘にもありますが、2005年には15カ国の共同研究として論文が発表されていました。

The excess relative risk for cancers other than leukaemia was 0.97 per Sv, 95% confidence interval 0.14 to 1.97. Analyses of causes of death related or unrelated to smoking indicate that, although confounding by smoking may be present, it is unlikely to explain all of this increased risk. The excess relative risk for leukaemia excluding chronic lymphocytic leukaemia was 1.93 per Sv (< 0 to 8.47). On the basis of these estimates, 1-2% of deaths from cancer among workers in this cohort may be attributable to radiation.

 

 この時点では、白血病死亡の過剰相対危険は1Sv当たり0.97 となっています。

 

 当時は15カ国で共同研究していたようですが、今回の報告ではなぜ3カ国のみになってしまったのでしょうか。

 確かに不思議ではあります。 

血液がんのコホート研究(Leuraud, 2015年) *2

 ふりかえって、血液がん論文を確認してみると、冒頭に引用部分がありました。

The INWORKS cohort consists of nuclear workers from three of the major partners included in the previously published 15-country study of cancer among workers in the nuclear industry: France, the UK, and the USA. Less than 20% of deaths from leukaemia were contributed by the other 12 countries. These cohorts have been updated since the 15-country study. INWORKS includes fewer partners than the earlier 15-country study because of the limited resources and the consequent need for efficiency in project coordination.

 

 15カ国のうち、残りの12カ国は白血病死亡の発生が2割以下と少なく、限られた研究資金やプロジェクト調整の効率化の観点から3カ国で実施された、といった理由が書かれています。

 まあ、資金も限られているでしょうから、仕方のない理由です。

 

 しかし、もしこれが意図的な情報操作(つまり、白血病死亡が多い国だけで分析した、などという理由)だとすれば、由々しき事態となります。

 まあ、そんなことはないだろう、と思いたいところですが、このご時世、簡単に信じるわけにもいきません。

 

 それがまた、日本のデータと結果が一致していない、といういささか困った状況になっているようです。

 

(つづく)

低線量では白血病は多くない―日本の疫学調査から - 地域医療日誌

*1:Cardis E, Vrijheid M, Blettner M, Gilbert E, Hakama M, Hill C, Howe G, Kaldor J, Muirhead CR, Schubauer-Berigan M, Yoshimura T, Bermann F, Cowper G, Fix J, Hacker C, Heinmiller B, Marshall M, Thierry-Chef I, Utterback D, Ahn YO, Amoros E, Ashmore P, Auvinen A, Bae JM, Solano JB, Biau A, Combalot E, Deboodt P, Diez Sacristan A, Eklof M, Engels H, Engholm G, Gulis G, Habib R, Holan K, Hyvonen H, Kerekes A, Kurtinaitis J, Malker H, Martuzzi M, Mastauskas A, Monnet A, Moser M, Pearce MS, Richardson DB, Rodriguez-Artalejo F, Rogel A, Tardy H, Telle-Lamberton M, Turai I, Usel M, Veress K. Risk of cancer after low doses of ionising radiation: retrospective cohort study in 15 countries. BMJ. 2005 Jul 9;331(7508):77. Epub 2005 Jun 29. PubMed PMID: 15987704; PubMed Central PMCID: PMC558612.

*2:Leuraud K, Richardson DB, Cardis E, Daniels RD, Gillies M, O'Hagan JA, Hamra GB, Haylock R, Laurier D, Moissonnier M, Schubauer-Berigan MK, Thierry-Chef I, Kesminiene A. Ionising radiation and risk of death from leukaemia and lymphoma in radiation-monitored workers (INWORKS): an international cohort study. Lancet Haematol. 2015 Jul;2(7):e276-e281. PubMed PMID: 26436129; PubMed Central PMCID: PMC4587986.

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