地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

東北地方の医学部設置に課された条件

医学部設置の目的

 

 東北地方の医学部設置については、2013年12月17日に公表された基本方針 *1 に基づいて選定されています。この基本方針によると、医学部の設置目的は、以下の通りです。

震災からの復興,今後の超高齢化と東北地方における医師不足原子力事故からの再生といった要請を踏まえつつ,将来の医師需給や地域医療への影響も勘案し,東北地方に1校に限定して,一定の条件を満たす場合に医学部新設について認可を行うことを可能とする。

 

 すなわちこの医学部は、以下の三点を主な目的として設置されることになります。

  1. 震災からの復興
  2. 超高齢化と東北地方における医師不足
  3. 原子力事故からの再生

まずはここをしっかり押さえておきたいです。

 

設置のための条件

 

 先日、文部科学省から「東北地方における医学部設置に係る構想選定結果」が発表されました *2

 

 選定されたのは「東北薬科大学」でしたが、下記のように設置のための条件が付されています。

 「東北医科薬科大学」(応募主体:学校法人東北薬科大学)の構想を選定する。 ただし、同構想は、現時点において確認できる限りにおいてはおおむね基本方針に掲げる留意点に即していると考えられるものの、より適切に対応することを明確にするため、二に掲げる条件を着実に実施することを選定に当たっての条件とする。これらの条件について適切に対応ができていると認められるまでは、設置認可を行わないこととする。

 

 選定に当たっての条件の詳細は原文をご参照いただきたいですが、着目しておきたい点があります。

(3)東北地方の各地域の医療機関と連携した教育について、医療現場の負担が過重とならないことや、異なる実習場所でも同じ目的のもとで教育効果が上げられるよう配慮しつつ、早期体験実習から卒前・卒後を通じ、「地域全体で医師を育てる」という観点から、総合診療医養成に積極的に取り組むこと。その際、こうした教育及び教育設計に卓越した指導力を有する教員・指導医を確保し、仙台以外の宮城県各地(例えば医師不足に悩む宮城県北部等)、東北各地域において滞在型の教育もできるよう体制や環境を整備していくこと。

 

地域全体で医師を育てる」という観点、そして総合診療医養成に積極的に取り組むことが明記されています。

 医学部設置の要件としては当然のことだと思っていたことが、ようやく現実味を帯びてきています。

 これまでの医学教育の歴史から考えると、隔世の感があります。

 

 さらに、「(別紙)構想の実施に当たり参酌すべき意見*3 には、教育内容にまで言及されています。一部を抜粋します。

(教育内容に関して)

地域立脚型の医学教育に関するカリキュラム設計ができる適切な人材を確保すること。

・1年次の早期体験実習、2年次以降の地域医療実習、臨床実習等に当たり、学生がそれぞれ同じ地域に、まとまった期間、何度も訪問、滞在し、愛着や使命感を持って学ぶことができる仕組みとすること。

・臨床実習においては、地域の中核病院で長期間滞在して実習を行い、そこを拠点に地域の診療所等での医療も経験できるようにすること。例えば石巻地域医療教育サテライトセンターを拠点に、石巻市立病院だけでなく、より前線の診療所や在宅医療の現場等も経験できるようにすること。

 

 地域医療教育で長年取り組んできた内容が、書かれています。

 完成したものがどのようになるのか、そして実現できるのか、期待しながら見守りたいと思います。

 

地域医療の文脈

 

 ところで、この 東北地方における医学部設置に係る構想選定結果」には、「地域医療」という言葉が10か所に出てきます。そのうち、4か所では「地域医療に支障を来さない」という文脈で使われています。

 

 超高齢化と東北地方における医師不足が設置の目的のひとつに掲げられているように、地域医療に支障を来さないようにするために設置するはずの医学部で、敢えて「地域医療に支障を来さない」ことを強調することには、かなり違和感を覚えます。

 

 地域医療を支えるための医学部を設置することによって、地域医療を崩壊させてしまうという、本末転倒リスクが大きいことを、早くも物語っているかのようです。

 

 それでは、そのようにならないよう対策はどのように講じられるのでしょうか。「選定結果」には2か所に記載されているのみです。

・地域医療に支障を来さない方策としては、例えば応募に当たり施設長の意見を求めること等が考えられるが、運営協議会において十分に検討すること。

・開学後に予定されている附属病院の拡張に当たっても、地域医療へ支障を来さないように進めること。増床に関しては宮城県当局と十分に相談すること。

 

 医師引き抜きには施設長の意見を求める、病床数は検討局と相談するなど、古典的な対策が書かれているのみです。

 

 地域医療に支障を来さないことが強調されている割には、具体的な方策やアイディアは出なかった、(あるいは書けなかった、)ということでしょう。

 

 うまくいくのかどうか、あたたかく見守っていきたいと思います。

 

 まあ、それでも医師は関東で不足すると思います。

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*1:東北地方における医学部設置認可に関する基本方針について(3省庁合意):文部科学省

*2:東北地方における医学部設置に係る構想選定結果:文部科学省

*3:「一つ一つに対して対応することを設置認可の条件とするものではないが、これらの意見を可能な限り採り入れ、構想内容のさらなる充実を図ること。」とある。

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