地域医療日誌

地域医療日誌

変化しつづける地域でともに悩み、考える医療

犠牲で成り立つ地域医療を変えるひとつのモデル

スポンサーリンク

 

 地域医療に関する記事の紹介です。

「地域医療日誌」というブログ名から、これまでこのような記事を期待して来られた方も多かったのではないかと思います。でも、ぼくはへき地医療からしばらく遠ざかっておりますし、へき地医療の最新情報を十分にフォローできていません。このような記事は久しぶりの投稿です。

 都会の医療に「魂を売った」というわけではもちろんなく、むしろ同じような問題が日本全国どこでも起こっている、と日々実感しているところです。

 

 今回、岐阜県での取り組みについて、県北西部地域医療センター長 後藤忠雄さんのインタビュー記事がハフィントンポストに掲載されていました。

 後藤さんは岐阜県のへき地を支えるひとつの地域医療モデルを展開しています。いろいろと参考になるところがありそうです。

 

 インタビュー記事を一部引用しながら要点をまとめてみます。

www.huffingtonpost.jp

 

へき地の複数の診療所を複数の総合医が支える

  • 郡上市や高山市、白川村は岐阜県北西部に位置していて、飛騨山脈などの山々に囲まれた山岳地域。
  • 面積は約1710㎢で、東京23区の2倍強。人口10万人に対する医師数は163.0人 *1。これは10万人対医師数がワースト1位の埼玉県161.38人をわずかに上回る程度。
  • 白川村の2つの診療所長を兼任していた医師は約10年プライベートな休暇を取れていなかった
  • 私が自治医科大学に入学してから約30年、そのさらに前から「へき地には医師が来ない」「一人の医師の自己犠牲のもとにその地域の医療が成り立っている」という構造が変わっていない
  • 地域医療やへき地医療は、「医師がたった一人で一生懸命地域の健康を守っている」という美談として取り上げられる。しかし、そんな「犠牲的」な医療を前のめりにやりたがる人はあまりいない。若手医師がもっと気軽に飛び込める仕組みが、地域医療には求められている。
  • へき地医療を支えるモデルとしては従来、中核病院に医師を集め、へき地に定期的に派遣するというモデルが主流。しかし、医療の進歩に伴い臓器専門性の高い医師が増える医療界では、こうしたモデルがへき地のニーズに一致しないことは明らか
  • 中核病院には臓器専門医を配置し、へき地の複数の診療所を複数の地域医療を専門とする総合医によって支えるというモデルにした。
  • 郡上市と白川村、そして高山市の一部、2市1村の山間部にある公立の8診療所と介護老人保健施設、歯科診療所を、センター基幹病院に位置付けている白鳥病院に所属する医師と各診療所の医師たちがローテーションを組んで出向き、各地域の医療をサポートしている。
  • 代診ではなく、住民にとっては慣れ親しんだ医師に診てもらえるよう一定のシフトの中で診療するという方法を取っている。
  • へき地の診療所を一人で守る医師でも、知識のアップデートのためにへき地診療所勤務であっても学会に行ける、気軽に先輩医師に相談できるように他の医師と接することができる、そして冠婚葬祭休暇や夏休み、年末年始休暇も取れる――。 このようなことが可能になり、少しでも地域医療への敷居を低くするために、この複数医師で山間部の地域医療を支えるネットワークを立ち上げた。

 

一人の犠牲ではなくネットワークで支える

 医師不足地域の自治体では、地域の医療を支える中核病院の充実にばかり目が行きがちです。周辺の診療所は中核病院から派遣すればいい、というのはもっともらしい考えと思われがちです。

 しかし、これは素朴な机上の論理です。

 中核病院に赴任するような臓器専門医では、へき地の一次医療のニーズにはなかなか応えきれないものです。

 そこで、後藤さんは複数の診療所に属する総合医がネットワークを組んで支えていく、という合理的な仕組みを立ち上げた、ということでしょう。

 

幅広い診療ができる医師がカバーする

 少ない医師数で多くの人口をカバーするには、幅広い診療ができる医師のほうが適しています。当然のことですね。臓器専門医が多くなればなるほど、その地域の必要な医師数が増えていくことになります。

 裏を返せば、専門に特化した臓器専門医の必要数は、人口規模によって自ずと規定されます。

 へき地や人口の少ない地域では、総合医(あるいは総合診療医、家庭医などと呼称されています)のほうが需要に応えやすくメリットが大きくなります。

 

 成人1000人あたり、1か月でクリニックの外来受診するのが217人ですが、臓器専門医のいる病院外来を受診するのは21人、医療センターなどの高次医療機関へ入院するのは1人という報告があります(図) *2

f:id:cometlog:20170522215220p:plain

 日本で同様の研究が追試されていますが、同じような結果となっています。

 医師が(あるいは人口が)少ない地域で必要となるのは需要がある分野から、という基本に徹するべきでしょう。

 

 これから19番目の基本領域として専門研修が導入されようとしている総合診療専門医は、こうした偏った日本の地域医療の立て直しに一役買われることになりそうです。

 地域でしっかりとネットワークを組んで、一人の犠牲で成り立つ地域医療からの脱却を目指したいものです。

 

*1:平成26年人口から計算

*2:Green LA, Fryer GE Jr, Yawn BP, Lanier D, Dovey SM. The ecology of medical care revisited. N Engl J Med. 2001 Jun 28;344(26):2021-5. PubMed PMID: 11430334.

 Copyright © 2003, 2007-2017 地域医療ジャーナル