質問
静脈血栓塞栓症の再発予防でワーファリンをずっと内服していますが、高齢でも必要でしょうか?
予防という理由で、漫然と続けられてしまう薬は多いものです。やめ時のタイミングの取り方や切り出し方が難しいからでしょう。
私も決してうまくできているわけではありません。
例えば、今回の質問のように、深部静脈血栓症や肺塞栓症の再発予防として、ワルファリン(ワーファリン)が長らく使用されている人。高齢でもあり、予防効果と出血リスクのバランスについて、考えてみたいと思います。
静脈血栓塞栓症の予防
どの程度の効果が期待できるのか、どの程度の潜在的リスクがあるのか。そもそも、経験的には判断することができません。
そこで、役立つのが予測スコアです。
QThronbosis
静脈血栓塞栓症の予測には、QThrombosis *1 という予測スコアが参考になります。
こちらのウェブサイトでスコアを計算できます。
対象事例について算出すると、塞栓症のリスクは5年で2.1%(1年で0.4%)となりました。(対象事例は84歳以上でしたが、スコアは84歳までしか算出できないため、あくまでも概算。)
HAS-BLED
それでは、ワーファリンによる出血リスクはどの程度でしょうか。HAS-BLEDスコア *2 が参考となります。
こちらのウェブサイトでスコアを計算できます。
対象事例について算出すると、抗凝固療法による重篤な出血のリスクは1年で1%、中等度リスクとなりました。
この試算による効果と害を単純比較すると、ワーファリンの予防効果 < 害となるように思われます。
本人の意向やこれまでの治療経緯を考慮しながら、どうするのか個別に判断していく必要があるでしょう。
参考までに、人口動態調査(2014年) *3 によると、85-89歳男性の死亡率は11.39%となっています。(年々死亡率が低下しているのがわかります・・・。)
残された時間をどう過ごすか、ワーファリンは重要な決断になるでしょう。
*1:Hippisley-Cox J, Coupland C. Development and validation of risk prediction algorithm (QThrombosis) to estimate future risk of venous thromboembolism: prospective cohort study. BMJ. 2011 Aug 16;343:d4656. doi: 10.1136/bmj.d4656. PubMed PMID: 21846713; PubMed Central PMCID: PMC3156826.
*2:Pisters R, Lane DA, Nieuwlaat R, de Vos CB, Crijns HJ, Lip GY. A novel user-friendly score (HAS-BLED) to assess 1-year risk of major bleeding in patients with atrial fibrillation: the Euro Heart Survey. Chest. 2010 Nov;138(5):1093-100. doi: 10.1378/chest.10-0134. Epub 2010 Mar 18. PubMed PMID: 20299623.