地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

解熱薬はかぜに効きますか?

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 かぜ(かぜ症候群、急性上気道感染症)は日常で最もよくみられる病気のひとつです。かぜについての研究結果は、最近でも少しずつ発表されています。

 ここでは、かぜについての新しい医学的知見をふまえ、医療のかかり方について一緒に考えていきたいと思います。

 

 

 

アセトアミノフェンはかぜに効くの?

 ぼくがかぜに最もよく処方するのは、アセトアミノフェンです。高熱があるので下げたい、痛みがあるので痛み止めがほしい、という時には、副作用も少ないため重宝します。

 しかし、あくまでも一時的に症状を緩和する「対症療法」(頓用処方することが多い)であり、全然効かなかったという人もいるはずです。もちろん、それは承知しています。

 アセトアミノフェンはどの程度効果があるのでしょうか。臨床研究で検証されているでしょうか。調べてみました。

 

 情報検索に入る前に、疑問を整理します。どのような研究を探すのか、明確にしておきたいと思います。(「疑問の定式化」という作業です。)

  • かぜの患者に
  • アセトアミノフェンを投与すると
  • プラセボに比べて
  • 症状改善が早まるか  

という疑問になります。

 このような「よくある病気」についての疑問は、システマティックレビューと呼ばれる総説論文から検索してみます。代表的なデータベース「コクラン・ライブラリー」にて"common cold"で検索すると、すぐに目的の論文がひとつみつかりました。

 論文はこちらです。

システマティックレビュー(Li S, 2013)*1

研究の概要
 12歳以上のかぜ患者にアセトアミノフェンを投与すると、プラセボ投与または治療なしと比べて、主観的な症状スコア・症状持続期間は少なくなるか、を検討した、治療に関するシステマティックレビュー。

主な結果
 4つのランダム化比較試験(対象者数758人)が確認されたが、結果を統合指標で示すことができず。
 2つのランダム化比較試験では鼻閉症状が著明に改善し、1つのランダム化比較試験では鼻汁が改善した。しかし、2つのランダム化比較試験では、咽頭痛や倦怠感は差がみられなかった。

 

 短時間で評価した研究が多く、質の高い研究がたった4研究しかなかった、という結果です。社会的にインパクトのある病気の割に、良質な研究が少なかったという実態が明らかになっています。

 さらに、アセトアミノフェンは鼻閉や鼻汁などの鼻症状に効果がある可能性があり、咽頭痛や倦怠感については効果がなかった、という予想外の結果でした。

 

 ところで、アセトアミノフェンで本当に鼻閉症状が改善するのでしょうか?

 コクラン・ライブラリーの場合、批判的吟味は十分になされていることが多いため、まあ信用しておきたいところですが、今回は引用文献の内容が気になりますので、もう少し詳しく確認してみたいと思います。

 本文にはこのようにありました。

 Sperber 2000 assessed common cold symptoms using a zero to four-point scale which represented "absent, mild,moderate, moderately severe, or severe”. Symptoms were scored before and at two hours after the first and second doses. The mean scores for headache, nasal obstruction and rhinorrhoea were significantly decreased after the first or second dose in the pseudoephedrine and the acetaminophen group. There was no statistical difference in scores for sneezing, sore throat, cough and malaise between the acetaminophen group and the placebo group. The score values were reported in Table 2 of their study.

 Graham 1990 used the same scale described in Ryan 1987. These scores were recorded daily for day 0 to 14. Scores for each cold symptom were totalled by adding scores from days one to 14 and subtracting the baseline score. Nasal obstruction was significantly increased in the acetaminophen group compare to the placebo group (P < 0.05).No significant differenceswere seen for headache, malaise and achiness between the acetaminophen group and the placebo group.

 

 Sperber 2000 の研究では、プソイドエフェドリンとアセトアミノフェンを使用した群で鼻閉症状が改善した、ということのようです。それは当然のことのように思えますが、アセトアミノフェン単独の症状改善とはいえませんよね。雲行きがあやしくなってきました。

 Graham 1990 の研究では、鼻閉がプラセボに比べて有意に増加、とあります。スコアが増加ということでしょうか? こちらは原著論文を取り寄せてみることにしました。

 

アセトアミノフェンは鼻閉に効果があるの?

 取り寄せた論文はこちらです。

ランダム化比較試験(Graham, 1990)*2

研究の概要  
 ライノウイルス2型を鼻腔内投与した健康なボランティア(大学生、18-30歳)に、上気道炎症状が出た1-3日目から7日間アスピリン500mg、アセトアミノフェン500mg、イブプロフェン200mgのいずれかを投与すると、プラセボ投与に比べて、ウイルス量・抗体価・臨床症状・白血球数は少ないか、を検討した治療についてのランダム化比較試験。

主な結果  
 真のアウトカムである臨床症状(14日目まで)について
全体での症状スコア平均値(点数が高いほうが重症)  
 アスピリン(15人):19.1
 アセトアミノフェン(15人):27.7
 イブプロフェン(15人):24.5  
 プラセボ(15人):24.8
鼻閉スコア5点超の人数  
 アスピリン:6/15人  
 アセトアミノフェン:3/14人  
 イブプロフェン:2/14人  
 プラセボ:0/14人

 

 健康な人にウイルスを投与してかぜを意図的に発症させて治療効果を検討する、という介入研究になっています。主に抗体価などの検査値で評価する、いわゆる「代用のアウトカム」の研究でした。  

 鼻閉症状が強かった人数はプラセボに比べてアスピリンで有意に多く、アセトアミノフェンでも多い傾向にある、という結果のように読めます。

 もしそうであるならば、Li 2013 のシステマティックレビューの結論が間違っているように思えます。問い合わせてみる価値はありそうです。*3  

 少なくとも、アセトアミノフェンで鼻閉が改善するということはなさそうです。

 

アセトアミノフェンにはどんな効果があるの?

 それでは、アセトアミノフェンにはどんな効果が確認されているのか。再びLi 2013 のシステマティックレビューに戻って確認してみます。

A significant decrease was seen in the mean intensity score for headache, achiness and feverish discomfort in the acetaminophen group at most time points (P < 0.001) compared to the placebo group. However, the study did not show a significant difference in sore throat between the two groups at ant time point.  

 

 頭痛や痛みや熱っぽい違和感などには効果が確認されているようです。ついでに、こちらの論文も確認してみましょう。

ランダム化比較試験(Bachert, 2005)*4

研究の概要  
 発熱がありウイルス性が疑われる急性上気道炎患者に、アスピリン500mgまたは1000mg、またはアセトアミノフェン500mgまたは1000mgを1回投与すると、プラセボ投与に比べて、投与4時間後までの口腔内体温は低くなるかを検討した、治療についてのランダム化比較試験。

主な結果
 1次アウトカムは口腔内体温という代用のアウトカム。対象は392人。症状(0~10、投与2,4,6時間後)は2次アウトカムのひとつであるが、アセトアミノフェンとプラセボについて一部抜粋して示す。
頭痛(投与時→6時間後)   
 アセトアミノフェン1000mg:6.86→3.95  
 プラセボ:6.12→5.78 熱感(投与時→6時間後)   
 アセトアミノフェン1000mg:7.23→3.80
 プラセボ:6.53→6.00  

 

 ウクライナとロシアで行われた多施設研究です。こちらもこの研究で検証しようとする主要評価項目の「1次アウトカム」が体温という、いわゆる代用のアウトカム研究です。

 症状は2次アウトカムとなっていますが、みておきましょう。0(症状なし)から10(重症)までのスコアで評価されていますが、頭痛、熱感ともに有意にアセトアミノフェン群で症状改善がみられているようです。

 2次アウトカムのため評価には十分注意が必要ですが、自覚症状に対しては1回投与で効果がみられる可能性がある、ということでしょう。

 自覚症状を1次アウトカムにしたかぜの研究は意外と少ないようです。

 

ここまでのまとめ

  • かぜの自覚症状に対するアセトアミノフェンの効果については、意外にも質の高い研究が少ないようです。
  • アセトアミノフェン服用6時間後の頭痛、熱感は改善がみられますが、鼻閉に対する効果ははっきりしません。

 

アセトアミノフェンは思ったほど安全ではないの?

 アセトアミノフェンの副作用に関する衝撃的な論文も発表されています。論文はこちらです。

メタ分析(Roberts, 2015)*5

研究の概要  
 健康な成人について、アセトアミノフェン(paracetamol)内服量はプラセボまたはアセトアミノフェン使用なしと比べて、総死亡などの予後因子となるかを検討した、害に関するメタ分析。

主な結果
 8つのコホート研究のメタ分析。総死亡については2研究で報告あり。そのうちのひとつは量反応関係が認められ、総死亡の相対危険は0.95(95%信頼区間 0.92 to 0.98)~1.63(95%信頼区間 1.58 to 1.68)と、アセトアミノフェンによって多くなるという関係が認められた。

 

 採用基準に該当する研究数が意外と少なかったようですが、8研究の結果を統合したメタ分析です。

 採用されているそれぞれの研究結果について、もう少し詳しくみておきましょう。コホート研究のため、交絡の可能性があり、解釈には注意が必要です。

コホート研究(De Vries, 2010)*6

アセトアミノフェンまたはイブプロフェンの処方を受けた18歳以上の患者(英国、382,404人)
総死亡の相対危険:初回処方 1.95 (95%信頼区間 1.87 to 2.04)

コホート研究(Lipworth, 2003)*7

アセトアミノフェンが処方された16歳以上の成人(デンマーク、49,890人)

標準化死亡比(standardised mortality ratio):1.9 (95%信頼区間 1.88 to 1.94) 

 

 総死亡についてはこの2研究がメタ分析に採用されていました。アセトアミノフェンの初回処方で総死亡が1.95倍。これはかなり気になる結果です。

 

コホート研究ではアセトアミノフェンによる死亡が多い

 引用されている論文を確認してみたいと思います。

コホート研究(De Vries, 2010)*8

研究の概要
 英国のGeneral Practice Research Database (GPRD)に登録され、1987~2007年にアセトアミノフェンやイブプロフェンが処方された18歳以上の患者(382,404人)について、アセトアミノフェン単独、イブプロフェン単独またはアセトアミノフェンとイブプロフェンの両者が処方されていると、総死亡、上部消化管合併症、心筋梗塞、脳梗塞、急性腎不全、うっ血性心不全、過量投与、自殺行為は多くなるかを検討した、害に関する後向きコホート研究。

主な結果
 総死亡について抜粋して作図した。  

画像4

 

 英国の家庭医の有名なデータベース GPRD(現在はThe Clinical Practice Research Datalink (CPRD)となっています)からの後向きコホート研究です。相対危険はポアソン回帰モデルで算出されています。 

 アセトアミノフェン単独群で総死亡が1.28倍と多くなっています。イブプロフェン単独群に比べて年齢も高く、併存疾患や他剤内服も多くなっていました。鎮痛剤を開始した人は重症疾患を発症した人が多く、総死亡も多くなる、という「交絡」の可能性がありますが、気になる結果ではあります。  

 デンマークの研究も確認しておきましょう。

コホート研究(Lipworth, 2003)*9

研究の概要  
 デンマーク北部、北ユトランドのデータベースに登録されている16歳以上の住民(49,890人、1989~1995年)について、アセトアミノフェンを処方された人は、一般人口に比べて総死亡は多いかを検討した、害に関するコホート研究。

主な結果
総死亡の標準化死亡比(standardised mortality ratio)   
 全体:1.9(95%信頼区間 1.88–1.94, 15,342人)  
 男性:2.2(95%信頼区間 2.2–2.3, 6326人)  
 女性:1.7(95%信頼区間 1.7–1.8, 9016人)  

 

 デンマークの研究でも、アセトアミノフェンを処方された人は総死亡が1.9倍多いという結果でした。

 英国の研究と同様、交絡の可能性はあります。交絡の影響を除外して検証するためには、ランダム化比較試験が必要ですが、実現の可能性は低いかもしれません。

 少なくとも、このようなエビデンスがあるということに配慮しながらアセトアミノフェンを使うか判断することが大切です。

 

ここまでのまとめ

  • アセトアミノフェンを処方されている人の総死亡が最大で1.9倍多くなっているとする、海外の気になるコホート研究があります。

 

子どもの熱をしっかり下げるには?

 さて、次は小児についてです。ここであらためて疑問を整理しておきましょう。

  • かぜの小児の患者に
  • アセトアミノフェンを投与すると
  • プラセボまたは他剤に比べて
  • 症状改善が早まるか?

 小児の難しいところは、症状改善をどのように判定するのか、という点です。研究ではアウトカムをどのように設定しているのでしょうか。  

 小児の解熱剤について調べてみると、最新のメタ分析はまたもコクラン・ライブラリーにありました。アセトアミノフェンとイブプロフェンをどのように使うかというメタ分析でした。確認しておきましょう。

メタ分析(Wong, 2013)*10

研究の概要
 感染源の特定されている18歳未満の発熱患者にイブプロフェンとアセトアミノフェンを同時投与または交互投与すると、イブプロフェンやアセトアミノフェンを単独投与に比べて、小児の不快感、薬の投与量、保育園・幼稚園・学校の欠席、1, 4, 6時間後の有熱者は少ないかを検討した、治療に関するメタ分析。

主な結果
 6研究、患者数915人が該当。主な結果のみ抜粋。(95%信頼区間)
同時投与と単独投与の比較
 6時間後の平均体温の差 -1.30℃ (-2.01~-0.59)  
 6時間後の有熱者 リスク比 0.10 (0.01~0.71)
交互投与と単独投与の比較  
 Non-communicating Children’s Pain Checklist (NCCPC) score -3.24 (-3.82~-2.67)  
 欠席日数の差 -0.85日 (-0.95~-0.75)  
 6時間後の平均体温の差 -1.60℃ (-2.27~-0.93)  
 6時間後の有熱者 リスク比 0.25 (0.11~0.55)
同時投与と交互投与の比較  
 6時間後の平均体温の差 0.30℃ (0.01~0.59)  
 6時間後の有熱者 リスク比 3.0 (0.13~69.52)  

 

 メタ分析といっても、ほとんどが1研究の結果を示しているにすぎませんでした。研究が少なくまだ十分な検討がなされていない、というのが現状でしょう。また、体温などで評価した「代用のアウトカム」研究が多くを占めています。

 交互投与と単独投与のアウトカムとしてNCCPCスコアという項目で評価されていますが、これが小児の不快感を判断するスコアとなっています。

The NCCPC scoring system was designed to be used for children (3 to 18 years) who are unable to speak; a total score of seven or more indicates a child is experiencing pain.

 30項目を0から3点で評価するスコアとなっており、点数が多いほど不快感が強いという指標です。7点以上がカットオフ値となっているようです。

Combined therapy is defined as simultaneous administration of paracetamol and ibuprofen at regular intervals. Alternating therapy is defined as one antipyretic (either paracetamol or ibuprofen) administered immediately and the second medication (either paracetamol or ibuprofen) administered only if fever does not subside within one to four hours.

 同時投与とはイブプロフェンとアセトアミノフェンを同時に投与する治療ですが、交互投与とはイブプロフェンかアセトアミノフェンのどちらか一方を投与し、1-4時間で解熱がみられない場合にもう一方を投与する、という治療です。

 いずれも単剤投与に比べて、平均体温は低く、有熱者は少なく、不快感や欠席日数も少ない、という結果となっています。また、同時投与と交互投与を比較すると、わずかに交互投与のほうがよい傾向となっています。

 害(有害事象)はどうでしょうか。2次アウトカムとなっていますが、本文にはこのように書かれています。

Overall, there were no serious adverse effects thought to be associated with alternating, combined or monotherapy found in any studies. However, no study had sufficient power in terms of number of participants to make a definitive statement about frequency of severe adverse effects.

 重篤な有害事象はなかったということではなく、両群間に差がなかったということのようです。結果の表を確認すると、ひとつの研究で5例の重篤な有害事象が発生しています。

Five serious AE occurred (Admission to hospital - reasons not reported) with no difference between groups

 入院した理由は書かれていなかった、ということです。気になりますが、この有害事象についても両群間に差がなかったということでしょう。

 他には有害事象がないか、有害事象の報告されていない研究です。わかっているだけで、915人のうち重篤な有害事象は5人(0.55%)ということになるでしょう。有害事象についてはまだ十分な検討する例数にはなっていませんので、注意が必要です。

 まだ十分な検討がなされているとは言えませんが、子どもの熱をどうしても早く下げたいという場合には、交互投与はひとつの選択肢になるかもしれません。

 

ここまでのまとめ

  • アセトアミノフェンやイブプロフェンを単独で使用するよりも、同時または交互に使用したほうが解熱効果は高くなります。

 そもそも、子どもには解熱薬を使って熱を下げたほうがよい、ということはありません。子どもの解熱薬の使いかたについて、もう少し調べてみました。

 

発熱に対する基本的な考え方

 小児の発熱と解熱薬の基本的な考え方については、2011年の米国小児科学会のレビューが参考になります。概要を確認しておきましょう。

レビュー(Sullivan, 2011)*11

  • 発熱はそもそも病気ではなく、感染と戦うためには有益な作用もある。発熱によってウイルス感染からの回復は早まるという報告がある。
  • 発熱によって病気の経過を悪化させたり、脳損傷を引き起こすことはない。40℃以上で高体温による有害事象が増えると信じている医療従事者がいるが、それは正しくない。
  • 解熱することで合併症や死亡が少なくなるというエビデンスはない。発熱した小児の治療目標は体温の正常化にあるのではなく、不快感の改善にあるべきである。
  • 親や介護者には、発熱した子どもの全般的な健康状態や活動性に注意する、重篤な病気の徴候がないか観察する、水分を十分にとるようにすすめる、解熱薬を備える、などの対処方法を説明する。

 

 小児の場合には、特に脳損傷などの後遺症を心配されることがあります。単純な発熱のみではそのような危険性はなく、解熱薬の使用を焦ることはない、ということをまず確認しておきます。

 

熱性けいれんの予防としての解熱薬

 さらに、小児の場合にはけいれんを心配されることがあります。特に、一度熱性けいれんを起こしたことがある小児の場合、どのようにしたらよいかと質問されることもしばしばあります。

 ここで確認しておきましょう。臨床上の疑問は

  • 熱性けいれんの既往がある小児に
  • 解熱薬を投与すると
  • 解熱薬を投与しないのに比べて
  • 熱性けいれんの再発は少ないか

と設定してみます。

 検索すると、2013年のメタ分析が見つかりました。これがおそらく現時点での最新情報になるでしょう。確認しておきましょう。

メタ分析(Rosenbloom, 2013)*12

研究の概要
 熱性けいれんの既往がある18歳未満の小児に解熱薬を投与すると、プラセボに比べて熱性けいれんの再発は少なくなるかを検討した、予防に関するランダム化比較試験のメタ分析。

主な結果
 3研究(小児540人、6-72か月)が該当。E群(348人)ではアセトアミノフェン15mg/kg、イブプロフェン5-10mg/kg、ジクロフェナク1.5mg/kgが投与。C群(192人)ではプラセボが投与。1-2年間の追跡期間での熱性けいれんの再発が検討された。
熱性けいれん再発  
 E群 79人/348人(22.7%) 
 C群 47人/192人(24.4%)
 オッズ比 0.9(95%信頼区間 0.57, 1.43)

 

 1995年、1998年、2009年にそれぞれ発表された、主要な3つのランダム化比較試験の結果が統合されています。結論は、解熱薬を使っても使わなくても、熱性けいれん再発はほぼ同等であったということです。

 この論文の序文には、解熱薬が熱性けいれん再発予防に役立つと考えられてきたことの具体例として、日本の小児科医へのアンケート調査の結果(Sakai, 2010)*13 も引用されていました。

A study from Japan, reported that about 40% of experienced pediatricians recommend the use of antipyretics for febrile seizure prevention and 84% of parents believe that if their child’s fever is untreated febrile convulsions will occur. 

 医師からは熱性けいれん予防として解熱薬を使用するよう説明があるかもしれませんし、親も熱を下げないと熱性けいれんがおこると信じているかもしれません。

 しかし、このメタ分析からわかることは、熱性けいれんの既往がある小児についても、解熱薬の使用を焦る必要がない、ということになるでしょう。

 

ここまでのまとめ

  • 発熱時に解熱薬を使用してもしなくても、熱性けいれんの再発率はほぼ同じです。

 

NSAIDsはかぜに効くの?

 「かぜひいたので、びしっとすぐに効く薬ください!」  

 このような希望は外来ではよく聞かれます。もしかすると薬局でも同じかもしれません。

 こんな時には、解熱鎮痛薬の非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)が処方されることが多いでしょう。例えば、ロキソプロフェン(ロキソニン)やイブプロフェン(ブルフェン)などの薬です。

 「昔は、よく注射をしてもらったものだ」 のように、暗に注射を求められることもあります。この注射の中身もおそらくNSAIDsだったのでしょう。

 ところが、かぜの治療でははっきりと「効く」(早く治る)と証明されているものはありません。そのうえ、副作用には十分な配慮が必要です。副作用が少ないとされるアセトアミノフェンでさえも、気になるデータがあることは、前述したとおりです。

 それでは、かぜに対するNSAIDsの効果はどうでしょうか。整理しておきたいと思います。

NSAIDs 対 プラセボ

 まず疑問の定式化しておきましょう。

  • かぜの人が
  • NSAIDsを服用すると
  • プラセボまたは治療なしと比べて
  • かぜの自覚症状は早く消失するか

 これまでの「かぜの研究」からもわかるように、アウトカム(O)は自覚症状の消失となっているものが多いようです。まずはこのように疑問を定式化して、検索に入りたいと思います。

 検索はまたもコクランの登場です。今回もコクランで一発解決となるでしょうか。確認しておきましょう。

メタ分析(Kim, 2015)*14

研究の概要
 感冒(common cold)の成人または小児がNSAIDsを使用すると、プラセボに比べて (1) 治療効果の全般的評価はよいか、(2) 症状のある人数や期間は少なくなるか を検討した、治療に関するランダム化比較試験のメタ分析。

主な結果
 採用基準を満たしたランダム化比較試験は9研究、1,069人。
全般的症状スコア(3研究、293人)  
 スコアの標準化平均差(SMD) -0.40(95%信頼区間 -1.03, 0.24)
かぜ症状の日数(2研究、214人)
 平均差(日) -0.23(95%信頼区間 -1.75, 1.29)  

 

 いずれも比較的質の高い(バイアスリスクの低い)ランダム化比較試験ではありますが、対象者数が少ない少数の小規模研究となっています。結果にはばらつきがみられます。

 全般的症状スコアのSMD(平均の差を標準偏差で割ったもの)が-0.40という値は、NSAIDsのほうがスコアが低いということですが、偏差値に換算すると4の違いという程度の差でしかありません。また95%信頼区間も広く、明らかにNSAIDsが優れているとは言えない結果となっています。

 また、かぜ症状の日数についても同様に、-0.23日の差ですから、ほぼ同等と言えるでしょう。

 つまり、感冒に対してNSAIDsを使っても、プラセボを使っても、早く症状がよくなることはない、という結果となります。

 ところで、ここでの感冒(common cold)の定義はこのようになっていますので、念のため確認しておきます。

The case definition of the common cold used was: recent onset of symptoms of runny or stuffy nose (or both), and sneezing, with or without symptoms of headache and cough.

 

NSAIDs 対 アセトアミノフェン

 これまではプラセボとの比較の論文を中心に見てきましたが、アセトアミノフェンとの比較ではどうでしょうか。

 疑問を定式化しておきます。

  • かぜの人が
  • NSAIDsを服用すると
  • アセトアミノフェンを服用するのに比べて
  • かぜの自覚症状は早く消失するか

 先ほどの論文を検索中に、ちょうどよいメタ分析がありましたので、ご紹介します。

メタ分析(Choi, 2013)*15

研究の概要
 感冒の小児または成人がNSAIDsを服用すると、アセトアミノフェンに比べて感冒症状は少ないかを検討した、治療に関するランダム化比較試験のメタ分析。

主な結果
 採用基準を満たしたランダム化比較試験は5研究、3,074人。
鎮痛効果(3研究、2,942人)
 E群 1,466/1,945人
 C群 748/997人
 リスク比 1.00(95%信頼区間 0.96, 1.05)

 

 他にも鼻汁、有害事象についても検討しているが、両群でほぼ同等。

 こちらはやや研究の質にばらつきのある(バイアスリスクが高いまたは不明)ランダム化比較試験でした。結果の異質性にはあまり問題がなさそうです。

 感冒に対してはアセトアミノフェンと比べてみても、NSAIDsのほうが効くということはなかったようです。

 どうやら今のところ、感冒にはNSAIDsを服用してもあまり効果が期待できない、という結論になりそうです。

 

ここまでのまとめ

  • かぜに対してNSAIDsを使っても、アセトアミノフェンを使っても、早く症状がよくなることはないようです。

 

 

www.bycomet.tokyo

 

 この記事は「地域医療ジャーナル」2015年3月号~2019年2月号に掲載された連載「かぜの研究」記事をもとに、加筆再編しています。

 バックナンバーはこちら。

cmj.publishers.fm

 

 この記事についても、今後不定期で更新していく予定です。

*1:Li S, Yue J, Dong BR, Yang M, Lin X, Wu T. Acetaminophen (paracetamol) for the common cold in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2013 Jul 1;7:CD008800. doi: 10.1002/14651858.CD008800.pub2. Review. PubMed PMID: 23818046.

*2:Graham NM, Burrell CJ, Douglas RM, Debelle P, Davies L. Adverse effects of aspirin, acetaminophen, and ibuprofen on immune function, viral shedding, and clinical status in rhinovirus-infected volunteers. J Infect Dis. 1990 Dec;162(6):1277-82. PubMed PMID: 2172402.

*3:フィードバックしたところ、回答は Edited (no change to conclusions), comment added to review, published in Issue 10, 2015.)とのことでした。

*4:Bachert C, Chuchalin AG, Eisebitt R, Netayzhenko VZ, Voelker M. Aspirin compared with acetaminophen in the treatment of fever and other symptoms of upper respiratory tract infection in adults: a multicenter, randomized, double-blind, double-dummy, placebo-controlled, parallel-group, single-dose, 6-hour dose-ranging study. Clin Ther. 2005 Jul;27(7):993-1003. PubMed PMID: 16154478.

*5:Roberts E, Delgado Nunes V, Buckner S, Latchem S, Constanti M, Miller P, Doherty M, Zhang W, Birrell F, Porcheret M, Dziedzic K, Bernstein I, Wise E, Conaghan PG. Paracetamol: not as safe as we thought? A systematic literature review of observational studies. Ann Rheum Dis. 2015 Mar 2. pii: annrheumdis-2014-206914. doi: 10.1136/annrheumdis-2014-206914. [Epub ahead of print] PubMed PMID: 25732175.

*6:de Vries F, Setakis E, van Staa TP. Concomitant use of ibuprofen and paracetamol and the risk of major clinical safety outcomes. Br J Clin Pharmacol. 2010 Sep;70(3):429-38. doi: 10.1111/j.1365-2125.2010.03705.x. PubMed PMID: 20716244; PubMed Central PMCID: PMC2949916.

*7:Lipworth L, Friis S, Mellemkjaer L, Signorello LB, Johnsen SP, Nielsen GL, McLaughlin JK, Blot WJ, Olsen JH. A population-based cohort study of mortality among adults prescribed paracetamol in Denmark. J Clin Epidemiol. 2003 Aug;56(8):796-801. PubMed PMID: 12954473.

*8:de Vries F, Setakis E, van Staa TP. Concomitant use of ibuprofen and paracetamol and the risk of major clinical safety outcomes. Br J Clin Pharmacol. 2010 Sep;70(3):429-38. doi: 10.1111/j.1365-2125.2010.03705.x. PubMed PMID: 20716244; PubMed Central PMCID: PMC2949916.

*9:Lipworth L, Friis S, Mellemkjaer L, Signorello LB, Johnsen SP, Nielsen GL, McLaughlin JK, Blot WJ, Olsen JH. A population-based cohort study of mortality among adults prescribed paracetamol in Denmark. J Clin Epidemiol. 2003 Aug;56(8):796-801. PubMed PMID: 12954473.

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