地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

【かぜの研究】総合感冒薬はかぜに効きますか?

f:id:cometlog:20200814102935j:plain*1

 

 かぜ(かぜ症候群、急性上気道感染症)は日常で最もよくみられる病気のひとつです。かぜについての研究結果は、最近でも少しずつ発表されています。

 ここでは、かぜについての新しい医学的知見をふまえ、医療のかかり方について一緒に考えていきたいと思います。

 

 尚、この記事は「地域医療ジャーナル」2015年3月号~2019年2月号に掲載された連載「かぜの研究」記事をもとに、加筆再編しています。

 バックナンバーはこちら。

cmj.publishers.fm

 

 この記事についても、今後順次更新していく予定です。

 

質問

 市販のかぜ薬はかぜに効きますか?

 

かぜ薬にはどのくらいの効果がありますか?

  それでは、市販のかぜ薬にはどの程度の効果があるのか、確認しておきたいと思います。まずは疑問の定式化から。

  • かぜ症状のある人が
  • かぜ薬(いろいろな組み合わせ)を服用すると
  • プラセボまたは治療なしに比べて
  • 治癒までの期間は短いか、合併症は少ないか

 

 ここでは、アウトカムの評価方法(O)をどのように設定するかが問題でしょう。医療機関を受診する人は、どちらかといえば合併症を起こさないことよりも、早く治ることを期待しているように感じます。

 検索してみると、2012年にメタ分析が発表されていました。

メタ分析(De Shtter, 2012)*2

研究の概要

 かぜ症状のある小児または成人が、鎮痛薬・鼻閉薬・抗ヒスタミン薬の合剤を使用すると、他の治療やプラセボまたは治療なしと比べて全般的症状改善度は大きいか、有害事象は多いか、を検討した治療についてのランダム化比較試験のメタ分析。

 27研究、5,117人が対象。ほとんどが成人の研究で、小児は8研究、うち生後6か月からを含むもの2研究、2歳からもの4研究のみ。

 抗ヒスタミン薬+鼻閉薬 14研究、抗ヒスタミン薬+鎮痛薬 2研究、鎮痛薬+鼻閉薬 6研究、鎮痛薬+鼻閉薬+抗ヒスタミン薬 5研究。

 研究デザインや対象患者、介入やアウトカム評価にはばらつきがある。

主な結果

抗ヒスタミン薬+鼻閉薬(6研究)
全般的改善度における治療失敗
 相対危険 0.27(95%信頼区間 0.15-0.50)、治療必要数 4.4
有害事象
 介入群 128人/419人(30.5%)
 対照群 100人/423人(23.6%)
 相対危険 1.58(95%信頼区間 0.78-3.21)

 

 アウトカム(O)がそれぞれの研究によって異なるため、メタ分析では結果を全般的改善度として統合して示されています。

 抗ヒスタミン薬+鼻閉薬以外の治療薬の組み合わせでは、研究数が少ないなどの理由でメタ分析に統合されていませんでした。1研究の結果が表記されていますが、効果・有害事象ともにほぼ同様の傾向がみられています。

 低年齢層の小児については、有効性の情報が不十分のため解析されていませんでした。

 成人・学童期以降の小児については、かぜ症状に対して抗ヒスタミン薬+鼻閉薬の合剤を使ったほうが、全般的症状の改善しない人が73%少ない(4.4人の治療あたり1人の効果)という結果になっています。有害事象は1.5倍となっています。

 症状改善という観点からは、かぜ薬に効果がありそうにも思えます。

 

 このメタ分析以降に発表されたランダム化比較試験があります。 

ランダム化比較試験(Picon, 2013)*3

研究の概要

 中等症・重症のかぜやインフルエンザ様症候群の18-60歳の人が、アセトアミノフェン・クロルフェニラミン(抗ヒスタミン薬)・フェニレフリン(アドレナリン作動薬)の合剤を2-3日服用すると、プラセボに比べて、症状スコア(10症状について0-3点のLikertスケールで評価、0-30点*4)が軽減するのか、を検討した二重盲検ランダム化比較試験。

 146人が対象。平均年齢33.5歳。

主な結果

全般的症状スコア
 治療群:介入前 14.09 (±3.78)、介入後 4.64
 プラセボ群:介入前 14.23 (±4.09)、介入後 3.54
 介入群で有意に低下(p = 0.015)

有害事象は同等。

  

 治療開始2-3日後の症状スコアにおいて、30点満点で1点程度の差がついています。この差は統計学的には有意差ありということになりますが、効果ありとしてよいのか微妙なところでしょう。

 治療直後の症状で評価した研究もありました。

ランダム化比較試験(Zhang, 2018)*5

研究の概要

 かぜやインフルエンザ様症状(発症48時間以内)のある人が、アセトアミノフェン・プソイドエフェドリン(血管収縮薬)・デキストロメトルファン(鎮咳薬)・クロルフェニラミンの合剤を1回服用すると、プラセボに比べて、4時間以内の症状スコア*6改善がみられるのか、を検討した二重盲検ランダム化比較試験。

主な結果

 53人の成人が対象。ベースラインから服用4時間後の症状スコア改善度はほぼ同等(-1.91 to 8.94%)であった。

 

 こちらは合剤の1回服用の効果を検討した研究です。

 服用直後から4時間までの、いわゆる「薬が効いた感じ」についても、かぜ薬合剤はプラセボと差がみられなかったという結果になります。

 

 これらの研究結果から、かぜ薬合剤の症状改善効果は微妙だなあと感じますが、いかがでしょうか。

 

かぜ薬の効果とは何か

 ところで、かぜ薬の効果とは何でしょうか。どんな効果を期待しているのでしょうか。

 かぜの原因はライノウイルスが30-50%を占め、200以上の原因ウイルスが知られています*7。いずれも合併症や重症化は少なく、ほとんど自然治癒が期待できる病気です。

 自然に治ってしまう病気では、死亡や合併症の発生率どころか、症状改善率でも薬の効果を評価できなくなります。両群ともに時間が経てば100%改善してしまうからです。

 そこで、全員がまだ治っていないある時点における症状改善率を比べるしかないということになります。

 全員が治ってしまうからこそ、治る早さを競う。これがかぜの研究の大きな特徴ということになります。

 

ここまでのまとめ

  • 合剤のかぜ薬によって、全般的な症状改善が早まる傾向がみられますが、その差は小さいようです。
  • 合剤のかぜ薬によって、有害事象は多くなります。
  • 症状改善の効果判定をする時間によって、薬の評価が異なってくる可能性があります。

 

市販のかぜ薬規制の国々 

 さて、日本国内ではいまだによく使われている小児用かぜ薬ですが、海外では使用が規制されている国もあります。

 2008年、アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration, FDA)は2歳未満に市販のせき止め・かぜ薬を使わせないように、という勧告を出しました。また、2-11歳については結論保留としながらも、かぜ薬はかぜを治したり、症状を早く止めたりしないことをよく理解して使うこと、との勧告*8になっています。

 アメリカの他に、カナダ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドの4か国でも、2007~2009年頃に2歳未満または6歳未満の小児へ市販のせき止め・かぜ薬を使用しないよう、規制が強化されました。せき止め・かぜ薬の有効性と安全性に関する調査で、症状を緩和するという根拠が十分ではなく、稀に重篤な有害事象のおそれがあることが明らかになったため、と理由を説明しています。

 

かぜ薬による突然死

 それでは、科学的には小児にかぜ薬は使わないほうがよい、ということでしょうか。かぜ薬の有害事象についての研究を確認しておきましょう。

 まずは死亡例の症例報告から。

ガイドライン(CDC, 2007)*9

 2005年にアメリカでせき止めやかぜ薬で死亡した生後6か月未満の乳児は3人。この3人はすべて、死亡時点での血中プソイドエフェドリン濃度が高値であった。

観察研究(Rimsza, 2008)*10

 2006年にアリゾナ州で突然死した乳児90人の死因に関する後向き調査。

 そのうち10人(生後17日から10か月)にかぜ薬に関連した突然死がみられた。

 死亡前にプソイドエフェドリン、抗ヒスタミン、デキストロメトルファンや、その他のかぜ薬の成分が与えられていたことが検死で確認された。

 死亡前に医療機関を受診していたのは4人で、そのうち医師に処方を受けていたのは1人のみだった。

 

 突然死の報告もあり、すぐにかぜ薬を使いたくなくなるような、恐ろしい情報です。

 乳児にかぜ薬を飲ませると、ごくまれに突然死に至ることがあります。かぜは自然に治りますので、安易に乳児にかぜ薬を使うことは慎まなければならないでしょう。

 

 他にも、救急部への受診について検討した研究があります。これらはすべて同じ研究グループからの報告ですが、乳児に対するかぜ薬規制後の変化についても報告しています。

観察研究(Schaefer, 2008)*11

 アメリカの63の救急部を抽出して後向き調査。

 1年間で7,091人の12歳以下の小児がせき止めやかぜ薬による有害事象のために受診している。これは薬の有害事象全体の5.7%にあたる。

観察研究(Shehab, 2010)*12

 2007年10月より2歳未満へのせき止め・かぜ薬の使用は自主規制されたが、その14か月前と14か月後の比較調査。アメリカの63の救急部を抽出して後向き調査。

 規制前後で、2歳未満のせき止め・かぜ薬関連有害事象による受診は半減した。2,790件(28.7%)から1,248件(13.3%)へ。差は-15.4%(95%信頼区間 -25.9%から-5.0%)。同時期の12歳未満のせき止め・かぜ薬関連有害事象には変化なし。9,727件から9,408件(95%信頼区間 6,874から11,941)へ。

観察研究(Hampton, 2013)*13

 National Electronic Injury Surveillance System Cooperative Adverse Drug Event Surveillance Projectによる2004年から2011年までのデータから、アメリカ全土での薬の有害事象による救急部受診者数を推計。

 せき止め・かぜ薬の有害事象による救急部受診を自主規制前後で検討。

 2歳未満のせき止め・かぜ薬関連有害事象は、規制前は2,138人(全有害事象関連受診 52,543人、4.1%)、規制後は1,529人(同 63,517人、2.4%)と減少した。差は-1.7%(95%信頼区間 -2.7%から–0.6%)。

 2-3歳のせき止め・かぜ薬関連有害事象についても同様に、規制前9.5%から規制後6.5%と減少。差は-3.0%(95%信頼区間 -5.4%から-0.6%) 

 

 前後比較の観察研究ですが、社会的意義のある優れた研究だと思います。有害事象のサーベイランスがちゃんとなされていることは、見習うべきところです。

 アメリカでは2007年に2歳未満に対するせき止め・かぜ薬の自主規制、2008年からはFDAの支援を受け、「4歳未満には使用すべきでない」とラベルに記載する対策を行なっています。その後、薬の有害事象による救急部の受診者数が減りつつある、という報告です。

 

国内の状況

 一方、日本では、添付文書上に「小児に服用させる場合には、保護者の指導監督の下に服用させること」、「2歳未満の乳幼児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ服用させること」と記載することを、厚生労働省が求めたまででした。

 事実上、注意喚起のみの対策で、2歳未満への販売や使用規制はありません。

 製薬会社からの自主規制がなければ、薬剤師が販売しないという対応ができるかもしれません。しかし、小児用かぜ薬はいつも店頭に並んでいます。おそらく、いまだに情報提供が不十分なまま、安易に販売・使用されというのが実態でしょう。

 厚生労働省の見解*14を一部抜粋しておきます。

  • 日本における平成16年以降のかぜ薬等に関連した副作用報告件数は、820症例(死亡例16例)。4歳未満は12症例報告(死亡例の報告はない)。適正使用されれば問題はなく、米国のような問題は考えにくい。※日本の製剤は濃度が1/10以下であることも影響している可能性はある。
  • 我が国の副作用報告等の状況においては、小児用のかぜ薬等において顕著な安全性上の問題が発生しているということは考えにくく、消費者が小児のかぜ薬に対して俄に心配をする状況にはない。

 

ここまでのまとめ

  • アメリカではかぜ薬による突然死の報告が年間数件以上みられています。
  • 2歳未満のかぜ薬使用の自主規制によって、有害事象が少なくなったとする観察研究が複数あります。
  • 日本では2歳未満への販売・使用規制は行われておらず、店頭で入手可能となっています。

 

ゆっくり休める社会へ

 早く症状を押さえたいから、かぜ薬に頼る。やむを得ないことです。

 ただし、かぜ薬の症状改善効果は小さく、突然死などの危険な副作用が起こるかもしれません。

 薬でかぜの症状だけ鎮めて、社会生活へ早すぎる復帰をするよりも、ゆっくり休めるような環境づくりのほうが大切。このことを新型コロナウイルス感染症の流行では改めて思い知らされました。

 かぜ薬の成分や効果について議論する以前に、かぜに社会がどう向き合うのかが問われているのでしょう。

 

www.bycomet.tokyo

*1:image: マロンマロンさん

*2:De Sutter AI, van Driel ML, Kumar AA, Lesslar O, Skrt A. Oral antihistamine-decongestant-analgesic combinations for the common cold. Cochrane Database Syst Rev. 2012 Feb 15;2:CD004976. doi: 10.1002/14651858.CD004976.pub3. Review. PubMed PMID: 22336807.

*3:Picon PD, Costa MB, da Veiga Picon R, et al. Symptomatic treatment of the common cold with a fixed-dose combination of paracetamol, chlorphenamine and phenylephrine: a randomized, placebo-controlled trial. BMC Infect Dis. 2013;13:556. Published 2013 Nov 22. doi:10.1186/1471-2334-13-556

*4:本文にはThe maximum and minimum scores for each measurement were 40 and zero respectively.とあるが最高点は30点の誤りと思われる

*5:Zhang Y, Mallefet P. Time-to-onset of cold and flu symptom relief: A randomized, double-blind, placebo-controlled pilot study for a multi-symptom combination product. Int J Clin Pharmacol Ther. 2018;56(12):604-611. doi:10.5414/CP203259, abstract

*6:Participants rated severity of each symptom (sore throat, headache, extremity pain, nasal congestion, sneezing, runny nose, and cough) from 0 (absent) to 3 (severe) at 15 and 30 minutes and 1, 2, 3, and 4 hours post administration. The total symptom score (TSS) was calculated as the sum of the individual symptom scores (primary endpoint).

*7:20-30%はいまだ原因が特定されていません

*8:FDA Warns Against Use of OTC Cough/Cold Products in Young Children https://www.medscape.org/viewarticle/569429

*9:Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Infant deaths associated with cough and cold medications--two states, 2005. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2007 Jan 12;56(1):1-4. PubMed PMID: 17218934.

*10:Rimsza ME, Newberry S. Unexpected infant deaths associated with use of cough and cold medications. Pediatrics. 2008 Aug;122(2):e318-22. doi: 10.1542/peds.2007-3813. PubMed PMID: 18676517.

*11:Schaefer MK, Shehab N, Cohen AL, Budnitz DS. Adverse events from cough and cold medications in children. Pediatrics. 2008 Apr;121(4):783-7. doi: 10.1542/peds.2007-3638. Epub 2008 Jan 28. PubMed PMID: 18227192.

*12:Shehab N, Schaefer MK, Kegler SR, Budnitz DS. Adverse events from cough and cold medications after a market withdrawal of products labeled for infants. Pediatrics. 2010 Dec;126(6):1100-7. doi: 10.1542/peds.2010-1839. Epub 2010 Nov 22. PubMed PMID: 21098150.

*13:Hampton LM, Nguyen DB, Edwards JR, Budnitz DS. Cough and cold medication adverse events after market withdrawal and labeling revision. Pediatrics. 2013 Dec;132(6):1047-54. doi: 10.1542/peds.2013-2236. Epub 2013 Nov 11. PubMed PMID: 24218462.

*14:小児用かぜ薬・鎮咳去痰薬等の安全対策について. 医薬食品局安全対策課 医薬品医療機器総合機構安全部. 平成 21 年5月8日

 Copyright © 2003, 2007-2020 地域医療ジャーナル