2020年からの新型コロナ感染症流行期において、医療の姿は大きく変貌しました。
主に重症患者の治療を行う医療機関における医療逼迫の状況は、メディア等で頻繁に報道され、広く知られるようになりました。
それと同時に、地域で一般診療を担う診療所などの医療機関においても、診療スタイルに大きな影響を受けたことは、あまり報じられていません。
どのような影響を受けることになったのか、備忘録をかねて、ここに記録しておきたいと思います。*1
外来診療
診療所を受診する人は、慢性疾患を抱えており、新型コロナ感染症(以下、コロナ)にかかってしまうと重症化しやすい「ハイリスク」の人が多いものです。
また、発熱などの急性疾患の人も受診されます。しかし、新型コロナウイルス感染症にかかっているかどうかは、症状だけでは見分けがつきません。そこで、疑われる人についてはすべて、感染対策を行う必要があります。
ハイリスクの人をしっかり守るには、受診することのメリットがリスクを上回る場合に限って受診してもらう、という方針になるでしょう。
ぼくらの診療所で行ってきた主な対策は、以下のとおりです。
発熱・感染症症状が疑われるすべての人
- 時間分離:急性疾患の人を診察する時間を制限する。
- 電話診療:まず電話診療を行い対応する。受診は直接対面診察がどうしても必要な人のみに制限する。
- コロナPCR検査:必要な人はPCR検査センター*2への紹介を迅速に行う。(検査混雑による遅延はみられなかった。)
- 発熱者などコロナが否定できない人には10日間かつ解熱後72時間の自宅隔離を指示。
- 電話フォロー:PCR検査結果説明、症状経過確認、コロナ陽性自宅療養者に対する経過確認など、電話での経過観察を行う。
- 個室隔離・個人用防護具(PPE*3):直接対面診察や検査などが必要な場合には、時間分離だけではなく、個室隔離、PPE装着などの対策を行う。(PPE入手できない時期は雨具を活用した。個室は一室のみ、完全動線分離ができない構造上の問題で、対応数に制約があった。)
- 感染リスクの高い検査の回避:溶連菌、インフルエンザなどの迅速検査は中止し、臨床判断や経験的治療で対応する。胸部レントゲンは超音波検査で代用する。
慢性疾患のある人
- 受診回避:症状に変化がなければ電話診療に変更、受診間隔を延長などの対策を行う。
- 時間分離:急性疾患の人が来院しない時間帯を設定する。
訪問診療
訪問診療を行っている在宅患者は、特にハイリスクとなります。医療者がコロナを持ち運び、持ち込むのではないか、という不安も大きくなっています。
そこで、上記外来診療での対策のほか、以下のような対策を行いました。
- 本人・全同席者のマスク着用・換気を励行する。
- 体温測定、発熱者がいる場合には事前に連絡する。
- 本人・同居者に発熱や感染症症状があれば、PPE対応する。
- 原因特定のために必要な検査(PCR検査以外)を自宅で行う。
- 電話フォロー:重症化・入院適用を見逃さないよう慎重に経過観察を行う。
コロナによる肺炎を発症したハイリスクの在宅患者を自宅で治療し、改善した事例もあります。慎重な経過観察で自宅療養を支えていくことも、ぼくらの役割といえるでしょう。
医療者の感染対策
医療機関内は常にコロナと隣合わせ。院内でクラスターが発生しないよう、最大限の配慮が必要となります。
- 孤独な食事:食事の会話は禁止。
- 換気と消毒:室内や移動車内の換気と消毒の実施。
- 会議開催の中止(オンラインのみ)
- 外部からの施設立ち入り制限
- 体調管理と休める体制づくり
- 体調不良者の対応:職員や家族が体調不良となった場合は規定日数の出勤停止。
全国民を挙げてのコロナ対策によって、インフルエンザの流行も回避し、医療に対する依存度も低下しているようです。
苦痛を伴う対策についての悪影響ばかり話題になりますが、このことがもたらす福音もきっとあるはずです。
コロナ克服までには、まだ時間がかかることでしょう。もう少し、がんばっていきたいものです。