アロプリノールと総死亡
高尿酸血症で使われるアロプリノールと総死亡に関する論文が発表されています。
コホート研究(Dubreuil, 2014年) *1
- P▶ 40歳以上の高尿酸血症の患者に
- E▶ アロプリノールを投与すると
- C▶ アロプリノール投与なしに比べて
- O▶ 総死亡は少ないか
- T▶ 予後、コホート研究
《結果》※※
propensity scoreでマッチしたコホートを対照群として設定。
5,927人のアロプリノール群(平均年齢67.4歳)と5,927人のマッチした対照群(平均年齢67.6歳)とで比較。
開始時の尿酸値平均 9.2mg/dL
2.9年の平均追跡期間で総死亡はアロプリノール群 654人、対照群 718人。
総死亡のハザード比 0.89(95%信頼区間 0.80-0.99)
痛風ありに限定した場合:
総死亡のハザード比 0.81(95%信頼区間 0.70-0.92)
アロプリノールを投与した群のほうが総死亡が少なかった、という結果となっています。
ここでpropensity scoreが出てきました。こちらの過去記事をご参照ください。
Propensity score(傾向スコア)とは? - 地域医療日誌 by COMET
同様のpropensity scoreを使ったコホート研究はこちら。
ジスロマックで死亡増加の懸念 - 地域医療日誌 by COMET
こちらはちょっと恐ろしい研究結果でした・・・。
Allopurinol hypersensitivity syndrome
さて、この論文の研究動機について書かれた序文に、次のような一文があります。
A rare but potentially fatal adverse reaction (ie, allopurinol hypersensitivity syndrome) that affects approximately 1 in 260–1540 allopurinol users, usually during the 1st year of use, has led to reluctance among some physicians to prescribe allopurinol, even when clinically indicated.
アロプリノールには致死的な有害事象のおそれが潜在的にあり、それが最初の1年間で260-1540人に1人の割合で起こる、とあります。重篤な有害事象であるがゆえに、やや発生頻度が高いことが気になります。
ここに "allopurinol hypersensitivity syndrome" という用語が出てきます。
以前、国内では、腎機能障害のある患者への投与による死亡例が報告されています *2 。しかし、こちらの有害事象はあまり耳にしたことがありませんでした。
添付文書にも、"allopurinol hypersensitivity syndrome" との表記はありません。
一体どんな症候群なのでしょうか。確認しておきましょう。
Case series(Lee, 1994) *3 の抄録から。
Allopurinol hypersensitivity syndrome (AHS) is an infrequent but life-threatening adverse reaction of allopurinol therapy. The records of 38 patients with the allopurinol hypersensitivity syndrome evaluated at the Veterans General Hospital-Taipei were reviewed. The clinical pictures included fever, rash, leukocytosis, eosinophilia, impaired renal function and hepatocellular injury. Nine patients died (24%) and the major cause of death was infection. The use of corticosteroids increased neither survival nor mortality rate. Twenty-six percent of patients were treated with allopurinol for asymptomatic hyperuricemia, which was not an established indication of the drug, should be avoided.
AHSの臨床症状としては、発熱、発疹、白血球増多、好酸球増多、腎機能障害、肝障害となっています。
AHS 38例の症例シリーズですが、9例が死亡し、致死率 24%となっています。26%の患者は無症候性高尿酸血症に対するもので、適応がないので投与すべきでなかった、と断じています。
ほかにもいくつかレビューや症例シリーズの報告がありますが、今のところ有効な治療はない、診断基準が報告により定まっていない、などの問題点が指摘されています。
国内では死亡例の症例報告(行徳, 2009) *4 がありました。
アロプリノールの内服約1ヵ月後に,発熱とともに全身の紅斑や口唇のびらんが生じ,当院を受診した.血液検査で肝・腎機能障害がみられた.皮膚の紅斑部の病理組織学的検査では,真皮上層の血管周囲にリンパ球,好酸球を主体とする高度の炎症細胞浸潤を認めた.内服薬をすべて中止し,ステロイドパルス療法を施行した.皮疹は1週間で軽快し,ステロイド治療(PSL 15mg/day)を継続したが,肝機能障害は遷延した.その後,敗血症およびDICが生じ,集学的治療を行うも死亡した.
AHSは発生頻度は低いですが、致死率の高い重篤な有害事象のようです。まず、本当にアロプリノール投与が必要かどうか判断すべきでしょう。不必要な投与はすべきではありません。
やむを得ず投与する際には、投与前に必ず腎機能、肝機能が正常であることを確認し、投与開始後1年は発熱、発疹に十分注意が必要でしょう。
そのような前提を理解した上で、今回の論文があります。アロプリノールによって全体としては総死亡を押し下げる効果があり、重篤な有害事象のデメリットは小さい、といった論調でしょう。
しかし、アロプリノールの投与開始は慎重にすべきであることには変わりありません。十分注意したいと思います。
高尿酸血症ならアロプリノール?
- アロプリノールで総死亡が11%少ないとするコホート研究がある。
- アロプリノール投与開始後、重篤な有害事象であるAHSが260-1540人に1人発症する。
- アロプリノールの投与開始後は発熱、発疹や腎機能障害などに十分注意しながら慎重に経過観察する必要がある。
*1:Dubreuil M, Zhu Y, Zhang Y, Seeger JD, Lu N, Rho YH, Choi HK. Allopurinol initiation and all-cause mortality in the general population. Ann Rheum Dis. 2014 Mar 24. doi: 10.1136/annrheumdis-2014-205269. [Epub ahead of print] PubMed PMID: 24665118; PubMed Central PMCID: PMC4222989.
*3:Lee SS, Lin HY, Wang SR, Tsai YY. Allopurinol hypersensitivity syndrome. Zhonghua Min Guo Wei Sheng Wu Ji Mian Yi Xue Za Zhi. 1994 Aug;27(3):140-7. PubMed PMID: 9747344.
*4:CiNii 論文 - アロプリノールによるDrug-Induced Hypersensitivity Syndrome(DIHS)の1死亡例