地域医療日誌

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ワクチンで自閉症はおこりやすくなりますか?

 

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 ワクチンで自閉症(自閉症スペクトラム障害、ASD)が起こりやすくなるのではないか、という仮説があり、過去に論争が繰り広げられてきました。

 現在、ワクチンとASDには関連がないと結論が出ています。

 

ねつ造論文の歴史―MMRワクチン

Wakefieldらのねつ造論文 *1

 1998年、Wakefieldらはひとつの論文を発表しました。この論文では、麻疹・おたふくかぜ・風疹の新3種混合(MMR)ワクチンによって自閉症が引き起こされている、といった主張でした。

 

 その後、このWakefieldらの論文には、いくつかの決定的な誤りがあることが明らかとなり、2010年に取り下げられました *2

 取り下げの理由には、このように記載されています。

it has become clear that several elements of the 1998 paper by Wakefield et al are incorrect。

In particular, the claims in the original paper that children were “consecutively referred” and that investigations were “approved” by the local ethics committee have been proven to be false.

 

 倫理委員会の認可がなかったことも理由のひとつに挙げられていました。

 

 さて、Wakefieldらの論文の誤りは、どのような点だったのでしょうか。

 この取り下げに先立つ2010年、ジャーナリストのブライアン・ディアー氏は、論文の対象となった患者の親への聞き取り調査や診療記録の調査を実施しました。そして、MMRワクチン接種後に自閉症の症状が出たとされる12人のうち、5人は接種前から症状があり、3人は自閉症ではなかったことを明らかにしました *3

How the link was fixed

The Lancet paper was a case series of 12 child patients; it reported a proposed “new syndrome” of enterocolitis and regressive autism and associated this with MMR as an “apparent precipitating event.” But in fact:

Three of nine children reported with regressive autism did not have autism diagnosed at all. Only one child clearly had regressive autism

Despite the paper claiming that all 12 children were “previously normal,” five had documented pre-existing developmental concerns

Some children were reported to have experienced first behavioural symptoms within days of MMR, but the records documented these as starting some months after vaccination

In nine cases, unremarkable colonic histopathology results—noting no or minimal fluctuations in inflammatory cell populations—were changed after a medical school “research review” to “non-specific colitis”

The parents of eight children were reported as blaming MMR, but 11 families made this allegation at the hospital. The exclusion of three allegations—all giving times to onset of problems in months—helped to create the appearance of a 14 day temporal link

Patients were recruited through anti-MMR campaigners, and the study was commissioned and funded for planned litigation

 

 1998年の研究は、ワクチン反対活動家らを通して対象者が集められた「ねつ造」だったのです。

 このことが判明するまでに、12年以上の年月を要しています。

 

チメロサールと自閉症

Bernardの仮説*4

 ワクチンに添加されている水銀化合物(チメロサール)は、ワクチンをバイアルで提供する際に、殺菌作用を期待して添加されているものです。

 2001年、Bernardらは、ワクチンに添加されているチメロサールによって自閉症が発症するのではないか、という仮説を発表しました 。

 

 この論文を受けて、米国の医学協議会(Institution of Medicine, IOM)の予防接種安全性検討委員会では、チメロサールを含有するワクチン接種を受けることと、自閉症・注意欠陥多動性障害(ADHD attention deficit/ hyperactivity disorder)・言語発達障害などの神経発達障害との因果関係については十分な証拠がないため、一時チメロサールを含有しないワクチンの使用を勧告しました。

 

 2003年には、デンマークのコホート研究が発表されます。

コホート研究(Hviid, 2003年) *5

研究の概要

 小児のうちチメロサール含有ワクチンを受けた人は、チメロサール含有ないワクチンを受けた人に比べて自閉症のような神経発達障害が多いか、を検討した、害に関するコホート研究。

 

主な結果

  467,450人の小児が対象(2,986,654人年)。440例の自閉症と787例のその他のASDが発症。

  自閉症の発症は、チメロサール含有なし群に比べてチメロサール群では相対危険 0.85(95%信頼区間 0.60, 1.20)とほぼ同等であった。

 その他のASDの発症についても、チメロサール含有なし群に比べてチメロサール群では相対危険 1.12(95%信頼区間 0.88, 1.43)とほぼ同等であった。

 さらに、水銀と発症には量反応関係も認めなかった。

 

 このコホート研究からは、チメロサールとASD発症との関連は否定的という結果でした。

 2004年のIOMでは、チメロサール含有ワクチンの接種と自閉症の因果関係については否定する、という結論に至っています。

 

 国内においては、2009年に公開された厚生労働省の資料から。

保存剤(チメロサール等)が添加されている新型インフルエンザワクチンの使用について[pdf]

 日本小児神経学会の声明から。

日本小児神経学会 自閉症における水銀・チメロサールの関与に関する声明

 医薬品医療機器総合機構の調査結果報告書(厚生労働省資料)から。

(独)医薬品医療機器総合機構 調査結果報告書[pdf]

 関連文献の評価、諸外国における評価、国内における関連症例報告の状況、関連学会の見解等を踏まえ、これまでの知見ではチメロサール含有ワクチンと自閉症等との因果関係を示す根拠は得られていないと判断した。

 

胎児への影響

 小児に対するワクチン接種によって、ASD発症が多くならないことがわかってきました。それでは、妊娠中の女性がワクチン接種すると、胎児への影響はないでしょうか。

 2018年にコホート研究が発表されています。

Becerra-Culqui(コホート研究, 2018年) *6

研究の概要

 病院で出生した児(81,993人)のうち、妊娠中に成人用三種混合ワクチン(Tdap)を接種(39,077人)すると、接種なし(42,916人)に比べて、児のASD発症は多くなるのか、を検討した害に関する後ろ向きコホート研究。

 ASDの診断は電子診療録のコードによるもので、1歳以上の臨床診断。

 

主な結果

  ASD発症はTdap接種群では569人(1000人年当たり 3.78)、接種なし群では772人(1000人年当たり 4.05)。

 ASD発症の相対危険(ハザード比)は0.98(95%信頼区間 0.88, 1.09)とほぼ同等であった。調整後*のハザード比も0.85(95%信頼区間 0.77, 0.95)と、むしろTdap接種群でASD発症が少なかった。

*Adjustments were made for child’s birth y, gestational age at birth (<37 or ≥37 wk); maternal age, race and/or ethnicity, and education; Medicaid insurance, medical center of delivery, parity, start of prenatal care, and influenza vaccination during pregnancy. 

 

 妊娠中に成人用三種混合ワクチン(国内未発売)を接種しても、出生後の児にASDの発症が多くなることもありませんでした。

 

 結論としては、今のところワクチンでASD発症が多くなることはない、ということになるでしょう。

 今後も注目していきたいと思います。

 

*1:Wakefield AJ, Murch SH, Anthony A, Linnell J, Casson DM, Malik M, Berelowitz M, Dhillon AP, Thomson MA, Harvey P, Valentine A, Davies SE, Walker-Smith JA. Ileal-lymphoid-nodular hyperplasia, non-specific colitis, and pervasive developmental disorder in children. Lancet. 1998 Feb 28;351(9103):637-41. Erratum in: Lancet. 2004 Mar 6;363(9411):750. Retraction in: Lancet. 2010 Feb 6;375(9713):445. PubMed PMID: 9500320.

*2:Retraction--Ileal-lymphoid-nodular hyperplasia, non-specific colitis, and pervasive developmental disorder in children. Lancet. 2010 Feb 6;375(9713):445. doi: 10.1016/S0140-6736(10)60175-4. PubMed PMID: 20137807.

*3:Deer B. How the case against the MMR vaccine was fixed. BMJ. 2011 Jan 5;342:c5347. doi: 10.1136/bmj.c5347. PubMed PMID: 21209059.

*4:Bernard S, Enayati A, Redwood L, Roger H, Binstock T. Autism: a novel form of mercury poisoning. Med Hypotheses. 2001 Apr;56(4):462-71. Review. PubMed PMID: 11339848.

*5:Hviid A, Stellfeld M, Wohlfahrt J, Melbye M. Association between thimerosal-containing vaccine and autism. JAMA. 2003 Oct 1;290(13):1763-6. PubMed PMID: 14519711.

*6:Becerra-Culqui TA, Getahun D, Chiu V, Sy LS, Tseng HF. Prenatal Tetanus, Diphtheria, Acellular Pertussis Vaccination and Autism Spectrum Disorder. Pediatrics. 2018 Sep;142(3). pii: e20180120. doi: 10.1542/peds.2018-0120. Epub 2018 Aug 13. PubMed PMID: 30104424.

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