地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

細気管支炎には食塩水吸入?

公開日 2013-12-15, 最終更新日 2016-07-05

質問

 急性細気管支炎の乳児に高張食塩水の吸入は効きますか?

 

冬に猛威をふるうRSウイルス

 冬になると例年、乳児を中心にRSウイルス(respiratory syncytial virus)が流行します。

 流行状況やRSウイルスに関する情報はこちらの公的情報をご参照ください。

東京都感染症情報センター » RSウイルス感染症の流行状況(東京都)

RSウイルス感染症に関するQ&A|厚生労働省 

 

 2歳までにはすべての乳児がRSウイルスに感染するといわれ、40-50%には下気道症状がみられます。しつこく咳や喘鳴がつづくことがあります。乳児では1-2%が重症化し、入院が必要になることもあります。

 

 急性細気管支炎は主にウイルスによっておこりますが、RSウイルス以外の病原体でもおこります。代表的なものは以下のとおり。

  • パラインフルエンザウイルス
  • アデノウイルス
  • インフルエンザA、B
  • ライノウイルス
  • ヒトメタニューモウイルス
  • マイコプラズマニューモニエ

 

細気管支炎に高張食塩水吸入 

 急性細気管支炎には効果的な治療法はないとされ、対症療法が基本です。吸入療法では、エピネフリンはある程度の効果がみられるとの報告があり、使われることがあります。

 そんな中、吸入するなら高張食塩水がよい、という報告もあります。2013年にメタ分析が発表されれていますので、確認しておきましょう。

メタ分析(Zhang, 2013年) *1

研究の概要
 急性細気管支炎と診断された24か月未満の乳児に高張食塩水の吸入を行うと、0.9%生理食塩水の吸入に比べて入院期間、入院率は少ないかを検討した、治療に関するランダム化比較試験のメタ分析。

主な結果
 11のランダム化比較試験の結果を統合(対象乳児1090人)。

入院期間
高張食塩水群 254人、生理食塩水群246人
入院期間は高張食塩水群で1.15日短い(95%信頼区間 -1.49~-0.82日)

入院率
高張食塩水群 16人/191人、生理食塩水群 25人/189人
入院は高張食塩水群でリスク比 0.63(95%信頼区間 0.37~1.07)

 

 高張食塩水吸入群では入院も少ない傾向となり、入院期間も短くなる、という結果でした。この11研究では深刻な有害事象もみられていません。

 効果的な治療があまりない中では、実施する価値はあるかもしれません。

 

 ちなみに、ここで使用されている高張食塩水は3%(一部で5%が使用)となっていました。また、急性細気管支炎の診断の定義は、以下のとおりとなっています。

臨床的にウイルス感染と考えられる症状(咳、鼻汁、発熱)に伴う、初めての急性喘鳴のエピソード 

 

新しいエビデンスでは議論がある

 さらに新しい研究が次々と発表されています。代表的なものを確認しておきましょう。

メタ分析(Maguire, 2015年) *2

研究の概要

 急性細気管支炎で入院した乳児が高張食塩水の吸入を行うと、生理食塩水の吸入または吸入なしに比べて入院期間が短いか、を検討したランダム化比較試験または準ランダム化比較試験のメタ分析。

 

主な結果

 15研究の結果を統合(1,922人)。高張食塩水群では平均在院日数は0.36日(95%信頼区間 0.50, 0.22)短かった。しかし、結果の異質性は高かった(I(2)=78%)。

 

 入院日数の差が0.36日ですから、ぼくの印象としてはほとんど差がない、といったところでしょう。異質性が高いため感度分析も行われておりますが、その結果として結論にはこのようにあります。

There is disparity between the overall combined effect on LoS as compared with the negative results from the largest and most precise trials. Together with high levels of heterogeneity, this means that neither individual trials nor pooled estimates provide a firm evidence-base for routine use of HS in inpatient acute bronchiolitis.

 

 研究結果に乖離がみられ、特に大規模で質の高い研究においてはネガティブな結果がみられます。

 いずれにしてもどちらが正しいか結論は下せない、ということのようです。

 

 同じ研究グループがランダム化比較試験と医療経済分析を行った論文 *3 も発表しています。

 こちらも結論もこのようになっています。

In this trial, HS had no clinical benefit on LoS or readiness for discharge and was not a cost-effective treatment for acute bronchiolitis.

 

 ランダム化比較試験では両群で差がなく、費用効果もなかった、とのことです。

メタ分析(Zhang, 2015年) *4

研究の概要

 急性細気管支炎で入院中の乳児が高張食塩水吸入を行うと、生理食塩水吸入または標準的な治療に比べて入院期間が短いかを検討した、ランダム化比較試験または準ランダム化比較試験のメタ分析。

 

主な結果

 24研究(3,209人)が該当。入院期間(15研究、1,956人)は高張食塩水吸入群で平均差 -0.45日(95%信頼区間 -0.82, -0.08)と有意に短かった。

 入院のリスク比も生理食塩水吸入に比べて、リスク比 0.80(95%信頼区間 0.67, 0.96)と高張食塩水群で少なかった。

 有害事象は有意差がみられなかった。

 

 こちらも同じような結果となっています。

Nebulized HS is a safe and potentially effective treatment of infants with acute bronchiolitis.

 

 結論については、害もないのでやってはどうか、という論調です。他に有効な治療法もありませんので、一理あるように思います。

 ひきつづき注視していきたいと思います。

 

*1:Zhang L, Mendoza-Sassi RA, Wainwright C, Klassen TP. Nebulised hypertonic saline solution for acute bronchiolitis in infants. Cochrane Database Syst Rev. 2013 Jul 31;7:CD006458. doi: 10.1002/14651858.CD006458.pub3. PubMed PMID: 23900970.

*2:Maguire C, Cantrill H, Hind D, Bradburn M, Everard ML. Hypertonic saline (HS) for acute bronchiolitis: Systematic review and meta-analysis. BMC Pulm Med. 2015 Nov 23;15:148. doi: 10.1186/s12890-015-0140-x. Review. PubMed PMID: 26597174; PubMed Central PMCID: PMC4657365.

*3:Everard ML, Hind D, Ugonna K, Freeman J, Bradburn M, Dixon S, Maguire C, Cantrill H, Alexander J, Lenney W, McNamara P, Elphick H, Chetcuti PA, Moya EF, Powell C, Garside JP, Chadha LK, Kurian M, Lehal RS, MacFarlane PI, Cooper CL, Cross E. Saline in acute bronchiolitis RCT and economic evaluation: hypertonic saline in acute bronchiolitis - randomised controlled trial and systematic review. Health Technol Assess. 2015 Aug;19(66):1-130. doi: 10.3310/hta19660. PubMed PMID: 26295732; PubMed Central PMCID: PMC4781529.

*4:Zhang L, Mendoza-Sassi RA, Klassen TP, Wainwright C. Nebulized Hypertonic Saline for Acute Bronchiolitis: A Systematic Review. Pediatrics. 2015 Oct;136(4):687-701. doi: 10.1542/peds.2015-1914. Review. Erratum in: Pediatrics. 2016 Apr;137(4). pii: e20160017. doi: 10.1542/peds.2016-0017. PubMed PMID: 26416925. [abstruct]

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