地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

癌の痛みが軽くなる魔法の薬はないですか?

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ステロイドが安易に使われている

 癌の緩和療法のひとつとして、ステロイドがよく使われています。

 一時的には大きな効果がみられることがあり、「魔法のような薬」に思われがちですが、実はその効果はあまりよくわかっていないようです。

 今回紹介する論文 *1 の冒頭部分には、このように述べられています。

There is little objective evidence in the literature to support the use of corticosteroids for symptom control, and concerns have been raised about the ’uncontrolled’ use of steroids in cancer patients (Gannon 2002; Twycross 1985). Patients who are started on steroids in the palliative care setting are often not closely monitored, allowing for the development of debilitating side effects, often in the context of limited clinical benefit. 

There is a relevant gap in the body of knowledge, in that most patients with cancer will be prescribed steroids at some stage during their disease course with very little evidence of effectiveness.

 

 ステロイドの効果は証明されていないにも関わらず、ほとんどの癌患者に使われています。しかし、癌の治療効果がもはや望めないという状況で使われることから、ステロイドの副作用の確認が十分なされず、多少の副作用には目をつぶる、というようなことが起きているようです。

 短期間ではただちに重篤な副作用が出にくいため、刻一刻と全身状態が悪化しつつある癌患者にまずは一時的な効果を期待して使ってみる、ということが現実でしょう。

 ステロイドの長期使用による代表的な副作用として、下記のものが挙げられています。

  • proximalmyopathy
  • oral candidiasis
  • symptomatic hyperglycaemia
  • psychological disturbances
  • gastrointestinal irritation
  • increased susceptibility to infections
  • development of osteoporosis
  • insomnia, delirium, depression, anxiety and psychosis

 

 ステロイドの使用が長期にわたる場合には、これらの副作用に対する配慮が必要です。不眠、せん妄、抑うつ、不安などの精神症状を来たすこともあり *2 、これにも注意が必要です。

 

ステロイドの効果

 さて、それではステロイドにどの程度の効果があるのか、癌性疼痛に対する効果を確認しておきましょう。

ガイドライン(日本緩和医療学会 2014) *3

 日本緩和医療学会ではウェブサイトでガイドラインを公開しています。「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2014年版)」を確認してみましょう。

 今回の疑問については、臨床疑問19「オピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において、オピオイドとコルチコステロイドの併用は、オピオイド単独に比較して痛みを緩和するか?」で取り上げられていました。

 ここでは2つのランダム化比較試験(Bruera 1985, Mercadante 2007)が引用されており、「疼痛効果を向上するという根拠は乏しい」と記載されています。

 

メタ分析(Haywood 2015) *4

 最近、コクランのメタ分析が発表されています。 

P▶ 18歳以上の癌性疼痛がある患者に
E▶ コルチコステロイドを使用すると
C▶ プラセボ、治療なし、通常のケアなどと比べて
O▶ 自己評価による痛みは少ないか
T▶ 治療、ランダム化比較試験のメタ分析

《結果》★★★ *5
6つのランダム化比較試験 *6 の統合(n=315人)。
エビデンスの質:低。
1週間後の痛みスケール(0から10):C群 平均 3.77に対して、
E群では平均の差 -0.84(95%信頼区間 -1.38~-0.3) 

 

 こちらはガイドラインで採用されていた2研究を含めた6研究の結果が統合されていましたが、やはりコルチコステロイドを追加することで、痛みに対する効果は小さい、という結果となっています。

 

 これらのランダム化比較試験では、コルチコステロイドはどれくらい使用されているのでしょうか。メタ分析で検討された15研究について、ステロイドの1日投与量を調べてみました。

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 デキサメタゾンでの検討が多かったようですが、いずれの研究も高用量で検討されていたことがわかります。

 

癌の痛みが軽くなる薬はないですか? 

  •  ステロイドが癌の緩和療法として広く使われているが、効果が明らかになっていない。
  • 2015年のメタ分析によると、ステロイドを使うと10点満点の痛みスケールで0.84点差と、ほぼ同等である。
  • ステロイドは癌の痛みが軽くなる魔法の薬ではなかった。

 

*1:Haywood A, Good P, Khan S, Leupp A, Jenkins-Marsh S, Rickett K, Hardy JR. Corticosteroids for the management of cancer-related pain in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2015 Apr 24;4:CD010756. doi: 10.1002/14651858.CD010756.pub2. PubMed PMID: 25908299.

*2:Vyvey M. Steroids as pain relief adjuvants. Can Fam Physician. 2010 Dec;56(12):1295-7, e415. English, French. PubMed PMID: 21156893; PubMed Central PMCID: PMC3001922.

*3:がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2014年版)|日本緩和医療学会 - Japanese Society for Palliative Medicine

*4:Haywood A, Good P, Khan S, Leupp A, Jenkins-Marsh S, Rickett K, Hardy JR. Corticosteroids for the management of cancer-related pain in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2015 Apr 24;4:CD010756. doi: 10.1002/14651858.CD010756.pub2. PubMed PMID: 25908299.

*5:研究デザインの質を★☆☆低~★★★高の3段階で評価

*6:Basile 2012; Bruera 1985; Bruera 2004; Mercadante 2007; Paulsen 2014; Yennurajalingam 2013

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