地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

老いがいの時代へ

 

 本の紹介です。今回は岩波書店から。

 

老いることー倫理ー映画がつながる

 地域医療ジャーナル では、2018年10月号に特集「医療倫理とその教育」を企画いたします。編集者としては、編集作業をしながら、あらためて医療倫理について考えてみたいと思います。記者のみなさんの論考、楽しみにしております。

 

 日ごろ、倫理的な医療は何か、と考えながら診療をしているわけではありません。過ぎ去っていく医療行為のなかに、倫理的ではなかった判断はなかっただろうか、とふりかえることはあるのですが、立ち止まって考える余裕がなければなかなかできないことかもしれません。

 この企画特集をひとつの機会ととらえて、日常診療をふりかえってみたいと思っています。

 

 そんなとき、この本を手にしました。

〈老いがい〉の時代――日本映画に読む (岩波新書) 

 

 ちょうど、地域医療編集室でも「映画の中の医療」という活動がはじまっています。テキストにはない「何か」が伝わる映画を通して学ぶことの意義を、再確認しているところでした。

 老いること、倫理、そして映画が一本線につながった感覚です。

 

汲み取る水の味を楽しもう

 この本では、日本映画を通して「老いる」とは何かを著者が深く考察されています。

 あとがきから引用します。

若い頃には印象に残らなかったシーンやせりふが、いま見直すと、深い味わいを持つことに胸をつかれる。観る側の人生経験の厚みによって、汲み取る水の味が違うことに気付いたひとときであった。(略)気が付いてみたら、映画を観るのが日常となり、<老いがい>になっていた。(略)

日本映画を通して、それぞれの世代がそれぞれの「もう一つの時間」としてのわが老いに辿り着くその手がかりを、この本が与えるものになればうれしい。そして、それぞれの流儀で老いとの出会いを求めていくうちに、老いというのぞき窓の向こうに、日本社会の全体像が見えてくるかもしれない。その社会が、老いを有能・無能という一元的な価値から解放し、老人にのびやかな生を約束するためには、何をすればよいかが浮かび上がってくるかもしれない。そういう楽しみも味わってほしい。

 

「人生経験の厚みによって汲み取る水の味が違う」なかなか味わい深い表現です。

 巻末には作品リストもついており、まだ観ていないたくさんの気になる作品を、これからチェックしてみたいと思います。

 まず観てみたいのは、デンデラ [DVD] でしょうか。感想はまたいずれ地域医療編集室「映画の中の医療」でも共有します。

 

 興味のある方は、ぜひどうぞ。

〈老いがい〉の時代――日本映画に読む (岩波新書)

〈老いがい〉の時代――日本映画に読む (岩波新書)

 

 

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