地域医療というコトバの曖昧さに意味があったのだ - 地域医療日誌 のつづき記事になるのかもしれません、強いて言えば。(ほとんど個人的なふりかえり記事です。)
「地域医療って何?」は難問
このブログ、ずっと「地域医療日誌」というタイトルでやってきました。
「地域医療」という言葉に格別の想い入れがあるわけではないのですが、専門を聞かれたときなど、解釈の幅があって便利に使える、ゆるい(許容範囲の広い)言葉で重宝しています。
ところが、「地域医療って何ですか?」と聞かれた途端、説明がむずかしく、ややこしい話になってしまうのが難点です。なぜなら、確立された明確な定義がない言葉だから。それがいいところでもあるのですが、仇になることもあります。
各論は地域医療を伝えるために
ぼくのブログでは、「地域医療とは何か」を正面から論じたりはしてきませんでした。そうしないほうがいいと考え、敢えて説明してこなかったわけです。ぼくのつぶやきを並べてみます。
そもそも定義するのが難しいのが地域医療の特徴。
— 地域医療日誌 (@bycomet) 2018年6月27日
専門性の論争には加担するつもりもない。
— 地域医療日誌 (@bycomet) 2018年6月27日
地域医療について書けば書くほど、嘘くさくなる。
— 地域医療日誌 (@bycomet) 2018年6月27日
だからこそ、記事全体から伝わるのではないか、と書いてきたんですが、伝えることは簡単ではなかったですね。
— 地域医療日誌 (@bycomet) 2018年6月27日
曖昧で不確実なものを取り扱うことが地域医療の専門性、というか特徴のひとつです。幅広い意味を包含している言葉だからこそ、敢えて便利に使っているわけです。そこを「地域医療とは何か」と定義をはっきりさせようとすること自体、地域医療のポリシーには合わない、ということになります。
地域医療とは何かを論じるより、何をしているのかを書き連ねていけば、そのうち全体を通して伝わるはずだ。そう考えてブログを書いてきたわけで、今もそのように考えています。
地域医療を記述した痕跡
それでも、ぼくのブログを少し遡ってみますと、それを書こうとした痕跡がありましした。ふりかえりながら、いくつか拾ってみます。
五十嵐の10の軸
地域医療について概観するには、最もよく整理された概念だと思います。
総合医療の基本要素
自治医科大学地域医療学 前教授 五十嵐正紘編
*10の項目から成っているため、『五十嵐の10の軸』と呼ばれています
学習、研修に当たっては、以下10項目の知識、技能、態度を身につける (類似語:プライマリ・ケア、総合診療、包括医療、全人医療、家庭医療、地域医療)◆総合医療の最も重要な基盤は、
1 近接性
無差別性:患者を選ばない問題を選ばない
精神的:良好な医師患者関係
時間的:時間外の初期救急を含め
経済的:費用効果思考に基づく行動2 日常性
日常問題、日常病
単純な頻度でなく,頻度×重要度(重症度,影響度)の大きい順に◆この基盤のもと以下の場で、そのニーズを反映して仕事をする。
3 全人
生物医学的:視点と並行して
心理的
社会的
倫理的:視点からも思考と行動ができる4 家庭
家庭を一診療単位とした思考と行動ができる5 地域
地域を一診療単位とした思考と行動ができる
保健、医療、福祉を統合した地域医療を実践する◆この基盤と場を背景にして、総合医療は次のことを実現する。
6 質の保証
quality of life(いきがい、自己実現)の維持向上を尺度とした医療,保健,福祉の質を保証する思考と行動ができる7 個別性
個別の事情に応じた思考と行動ができる
多くの選択肢を示しつつ、患者の自己決定の支援ができる8 生態学的接近
多面的、学際的、有機的、総合的な思考と行動ができる◆これらを実現するために、以下の役割と責任が必要である。
9 役割
患者の道案内役、弁護士役
患者や医療関係者の調整役、聴き役、説明役、連絡役を担う思考と行動ができる10 責任
五十嵐の10の軸 - 地域医療日誌 by COMET
継続性(当面の問題の継続性,生涯にわたる継続性)
責任性(主治医としての)
民主性(患者との対等な関係) を実現する思考と行動ができる
「地域医療とは何ですか?」と問われたら、こんどから「地域医療とは五十嵐の10の軸だよ」と答えるようにしよう。
これは事例をふりかえったり、整理するのにも役立つような気がします。「10の軸ふりかえり」やってみようかな。
0、1、3、5の軸
この記事を書こうと思ったきっかけは、たまたまこの雑誌を目にしたから。
特集「地域医療 はじめの一歩」です。
ここには「地域医療を整理するための軸」として、「10の軸」ならぬ、「0の軸」「1の軸」「3の軸」「5の軸」が紹介されています。
これも参考になるでしょう。引用しておきます。
0の軸
- 万物は流転する
1の軸
- あらゆる問題に対応する
3の軸
- 多様な視点
- 境界なし
- 物語
5の軸
- 患者によって自分を変える
- 患者や問題の種類により差別をしない
- 生物学的問題だけでなく心理社会的問題も重視する
- 臓器、ヒトにとどまらず、家庭・地域も視点とする
- 診察室に来ない人のことも考慮する
こうした整理の仕方を取り入れ、見直しながら、考えていきたいと思います。
動的な医療の実践
このブログで定めていた地域医療の説明はどんなだったのでしょう。
日誌を新たな気分ではじめるにあたり、ここで地域医療とは何か、確認しておきたいと思います。
「変化する動的な地域に対して行う、動的な医療の実践そのもの」
どのような医療をやりたいか、ではなく、どのような医療が求められているかに敏感になりたいと思います。
日誌のはじめに - 地域医療日誌
いまだにこれはこれでひとつの記述の方法だと思っています。
毎日の実践が地域医療そのもの
何が地域医療で、何が地域医療ではない、と示すことは難しいでしょう。ただひとつ言えること、それは、今取り組んでいる医療の実践は地域医療そのものだ、ということです。
今、毎日取り組んでいる仕事は「地域医療そのもの」だと確信しています。ひとつの地域を通して、全体が見えてくることもあります。
地域あるいは地域医療という視点から、医療の構造を明らかにしていく試みを通して、医療全体をよくするための問題提起ができれば、という気持ちにはまったくゆるぎはありません。
地域医療というコトバの曖昧さに意味があったのだ - 地域医療日誌
これまでブログでは地域医療をどのように記述してきたのか、整理してみました。
これをもとに、今後の活動展開などを考えてみたいと思います。