地域医療日誌

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せん妄の治療には抗精神病薬がよいですか?

質問

 せん妄には抗精神病薬がよいですか?

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 せん妄に対する治療について、最近気になる研究がいくつか発表されています。ここで確認しておきたいと思います。

 

やはりリスパダール、セレネース?

ランダム化比較試験(Agar, 2017年) *1 

研究の概要

 治癒が期待できない進行性の疾患(多くはがん)があり、入院で専門チームから緩和ケアを受けているせん妄患者に対して、リスペリドンまたはハロペリドールを1mg/日経口投与すると、プラセボに比べて投与3日目でのせん妄症状スコアは改善するか、について検討したランダム化比較試験。

 せん妄は症状スコア Nursing Delirium Screening Scale(NuDESC)*2で評価。 

 

主な結果

 対象患者は249人、3群に割り付け。

 投与開始時のせん妄スコアはリスペリドン2.54(82人)、ハロペリドールは2.60(81人)、プラセボは2.54(84人)。

 投与3日目でのスコアの変化は、プラセボ群を0とすると、リスペリドン+0.48(95%信頼区間 +0.09~+0.86)、ハロペリドール+0.24(95%信頼区間 +0.06~+0.42)と、プラセボ群のほうが改善度が大きかった。

 

リスパダール、終末期患者ではプラセボに敗北 

 せん妄を症状スコアで評価(1次アウトカム)していますが、 マスキングも二重で、脱落も2人のみと少なく、質の高い研究です。

 結果としては、リスパダール(リスペリドン)、セレネース(ハロペリドール)がプラセボに敗北。緩和ケアにおけるせん妄治療には、抗精神病薬はあまり効果が期待できない、という結果となっています。

 

さらに有害事象も心配

 有害事象は2次アウトカムとなっていますが、錐体外路症状は抗精神病薬群で有意に多くみられています。

 死亡については、終末期患者ですから追跡期間中に34人が死亡していますが、プラセボ群に比べてリスペリドン群ではハザード比 1.29(95%信頼区間 0.91, 1.84)、ハロペリドール群ではハザード比 1.73(95%信頼区間 1.20, 2.50)と死亡が多くなっていました。

 2次アウトカムとはいえ、死亡までも多くなる可能性があるということになります。これは大きな懸念材料です。効果がなく、死亡を含む有害事象が多い可能性があるというのなら、あえて選択する理由はなさそうです。

 

 この論文はこちらでも取り上げられています。

cmj.publishers.fm

 

つづく

やはり抗精神病薬は安全ではなかった? - 地域医療日誌

 

*1:Agar MR, Lawlor PG, Quinn S, et al. Efficacy of Oral Risperidone, Haloperidol, or Placebo for Symptoms of Delirium Among Patients in Palliative Care: A Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med. 2017 Jan 1;177(1):34-42. doi: 10.1001/jamainternmed.2016.7491. PubMed PMID: 27918778.

*2:合計スコアは0(症状なし)から6(重度)と大きいほうが重症

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