地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

研究はひっそりと消えていく

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どんな研究が中断されたのか?

 発表された2014年当時に読んで、おもしろそうなのでブログ記事にしようと思いながらも、そのまま候補論文フォルダで塩漬けになっていた論文を見つけました。

 読み返してみたところ、やはりおもしろい論文でしたので、ちょっと古くなりましたが、ご紹介しておきます。

後向きコホート研究(Kasenda, 2014年) *1

研究の概要

 2000-2003年の間に、スイス、ドイツ、カナダの6つの倫理委員会においてプロトコールが承認された臨床研究(ランダム化比較試験)について、中断に至った研究にはどのような因子があったのか、を検討した予後に関する後向きコホート研究。

 

主な結果

 追跡期間中央値 11.6年(8.8-12.6年)
 1017 対象となった研究
 253/1017 中断となった研究
  (24.9% [95% CI, 22.3%-27.6%])
 96/253 倫理員会に中断の報告あり
  (37.9% [95% CI, 32.0%-44.3%])

 中断となった理由で最も多いのは、リクルート失敗(101/1017, 9.9% [95% CI, 8.2%-12.0%])であった。中断となった研究では、目標サンプルサイズの40.9%(中央値)しか集まっていなかった。目標サンプルサイズの80%以上リクルートできたのは3研究のみであった。

 多変量解析では、研究が中断しにくい因子には以下のものがあげられた。

  • 企業のスポンサーがついている(8.4% vs 26.5%、調整オッズ比 0.25 [95% CI, 0.15-0.43])
  • 各群100人以上の目標サンプルサイズ(−0.7%、調整オッズ比 0.96 [95% CI, 0.92-1.00])

 

リクルート失敗が最大の原因

 研究が中断された原因は、対象者のリクルート失敗だったことがわかりました。プロトコール通りにはなかなか集まらないもののようです。

 目標の8割以上集まった研究は、1017研究のうち、なんと、たったの3研究。現実は厳しいですね。

 結局、企業のスポンサーがついたり、規模の大きい研究というものが成功しやすい、ということになりそうです。

 

消えていった研究の数々 

 こうして、スポンサーがつかなかったような弱小研究が消えています。その反面、売上につながるような新薬の研究は、次々に出版されていきます。

 その結果は推して知るべし。本当は効果が小さかった、害があるかもしれない、といった研究はあまり出版されないことになるでしょう。

 

 これを出版バイアスといいます。先日の記事でもとりあげましたね。

www.bycomet.tokyo

 

 だからこそ、出版されなかったことによる結果の解釈の影響を十分考慮する必要があるわけです。

 新薬の効果を大きく宣伝して売りたい、という見えない圧力に負けないよう、臨床家は十分な批判的吟味力を身につけるべき、というわけです。

 

*1:Kasenda B, von Elm E, You J, Blümle A, Tomonaga Y, Saccilotto R, Amstutz A, Bengough T, Meerpohl JJ, Stegert M, Tikkinen KA, Neumann I, Carrasco-Labra A, Faulhaber M, Mulla SM, Mertz D, Akl EA, Bassler D, Busse JW, Ferreira-González I, Lamontagne F, Nordmann A, Gloy V, Raatz H, Moja L, Rosenthal R, Ebrahim S, Schandelmaier S, Xin S, Vandvik PO, Johnston BC, Walter MA, Burnand B, Schwenkglenks M, Hemkens LG, Bucher HC, Guyatt GH, Briel M. Prevalence, characteristics, and publication of discontinued randomized trials. JAMA. 2014 Mar 12;311(10):1045-51. doi: 10.1001/jama.2014.1361. PubMed PMID: 24618966.

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