地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

まだやるんですか?

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 アリセプト(一般名ドネペジル)をはじめとした「コリンエステラーゼ阻害薬」は、認知症にあまり大きな効果が期待できなかったことが判明したことは、これまでも取り上げてきました。

cmj.publishers.fm

 

 認知症に対する効果、特に進行抑制効果がはっきりしなかったとき、次にどのような研究が行われたのか。

 ひとつの論文をご紹介したいと思います。

 

効果がないなら増やしてみたら?

ランダム化比較試験(Farlow, 2010年) *1

研究の概要

 中等度から重度のアルツハイマー病(45-90歳、MMSE 0-20点)にドネペジル 23mg/日を24週間投与すると、ドネペジル 10mg/日継続に比べて、認知機能(SIB *2)、全般的機能評価(CIBIC+ *3)は改善するかを検討した、二重盲検ランダム化比較試験。

 

主な結果

 1371人(平均73.8歳、女性62.7%)が対象。23mg群では296/981人(30.2%)、10mg群では87/486人(17.9%)が脱落。効果判定は最終観察データにて補完して判定 *4

 SIBスコアは23mg群 +2.6 [SE 0.58]、10mg群 +0.4 [SE 0.66]と23mg群で有意に改善がみられた。CIBIC+スコアでは有意差がなかった(4.23 [SE 1.07] vs 4.29 [SE 1.07])。

 

2.2点の改善

 アリセプトと通常の10mg/日ではなく、23mg/日に増量してみたらどうなるか、検討した研究です。

 23mg/日群では随分と脱落しています。脱落データを見越して、最終観察データで補完するという手段までとって解析しています。

 

 認知機能改善には効果ありという結果となっていますが、それでも100点のスケールで2.2点の差。

 う~ん。

 

エーザイが資金源

 先日、助成金バイアスについて学んだところです。

www.bycomet.tokyo

 ここは、しっかりと確認しておきましょう。

 The design, conduct, analysis, and publication of this study were sponsored by Eisai Inc.

 The authors are grateful for the assistance of the clinical investigators and their site staff, the global Eisai study team, and the patients and their caregivers who volunteered their time and effort for this clinical program. The authors acknowledge Lisa Pierchala, MPH, MMS Holdings Inc., for her editorial assistance, including technical editing, text revision, and document formatting. 

 

 ということです。

 研究の質やデザインに関わらず、結果を差し引いて判断すべきでしょう。

 

 歴史的経緯を紐解くことは、その時何が起こったのかをふりかえることで、そこから得られた教訓を未来につなぐことができる、という観点から意味があると思います。

 これだから医学論文っておもしろいですね。

 

*1:Farlow MR, Salloway S, Tariot PN, Yardley J, Moline ML, Wang Q, Brand-Schieber E, Zou H, Hsu T, Satlin A. Effectiveness and tolerability of high-dose (23 mg/d) versus standard-dose (10 mg/d) donepezil in moderate to severe Alzheimer's disease: A 24-week, randomized, double-blind study. Clin Ther. 2010 Jul;32(7):1234-51. doi: 10.1016/j.clinthera.2010.06.019. PubMed PMID: 20678673; PubMed Central PMCID: PMC3068609.

*2:Severe Impairment Battery, 40項目, 重症0から軽症100

*3:Clinician’s Interview-Based Impression of Change Plus Caregiver Input scale, 患者と介護者へのインタビューで改善度を評価, 顕著に改善1から顕著に悪化7

*4:The primary effectiveness analyses used the last-observation-carried-forward (LOCF) method to impute missing values.

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