ベイズの定理でわかるインフルエンザ診療
毎年、インフルエンザの迅速検査が話題になります。検査結果の解釈がちょっと難しいからでしょう。
ベイズの定理を理解していればごく簡単なことなのですが、医療者にもまだ普及していないようです。
インフルエンザの診療は多くの医師が関わっているかと思います。診断の基本ですから、ここだけは押さえましょう。
詳細は2018年の記事を
過去記事のこちらの内容を簡単にして記事にしたものです。詳しくはこの過去記事をご参照ください。
迅速検査の感度はたったの62%
インフルエンザ迅速検査についての論文情報を、もう一度のせておきます。
メタ分析(Chartrand, 2012年) *1
研究の概要
インフルエンザを疑う患者にインフルエンザ迅速検査を行うと、rt-PCRまたはウイルス培養に比べて感度・特異度はどれほどかを検討した、診断に関する研究のメタ分析。
主な結果
159研究(35%がH1N1パンデミックの研究)の結果を統合。
- 感度 62.3%(95%信頼区間 57.9% to 66.6%)
- 特異度 98.2%(95%信頼区間 97.5% to 98.7%)
- 陽性尤度比 34.5(95%信頼区間 23.8 to 45.2)
- 陰性尤度比 0.38(95%信頼区間 0.34 to 0.43)
検査陰性でもインフルエンザでないとはいえない
インフルエンザ迅速検査の感度は62%となっています。
つまり、インフルエンザと確定している患者のうち、迅速検査で陽性になるのは62%、残りの38%はインフルエンザでも陰性になる、ということです。
よく使われている検査はそんなに精度がよくないのか、と驚かれるかもしれません。別の論文(メタ分析)では感度 54%という報告もあります。
診断には検査結果をあまり当てにしないようがいい、という理由はここにあります。検査結果が陰性だからといって、インフルエンザではないと判断できないことになります。
流行期では検査陰性でもインフルエンザ
特に流行期には、高熱があるだけで(上気道症状を伴うとさらに)インフルエンザの可能性(診断確率)はかなり高くなっています。そのような状況では、たとえ検査が陰性でもインフルエンザという判断になります。
つまり、流行期に入り典型的なインフルエンザ様症状がみられた場合、検査はほとんど意味をなさないということになります。
検査が陰性でも陽性でもインフルエンザという判断になるなら、検査する意味がありませんよね。
A型もB型も対応は同じ
A型かB型知りたい(上司に報告しなければならない)ので検査してください、と言われることもよくあります。
A型であってもB型であっても、基本的にインフルエンザの対応は同じです。上司や会社が指示することは、検査の強要となります。決してそのような指示はしないようにお願いします。
*1:Chartrand C, Leeflang MM, Minion J, Brewer T, Pai M. Accuracy of rapid influenza diagnostic tests: a meta-analysis. Ann Intern Med. 2012 Apr 3;156(7):500-11. doi: 10.7326/0003-4819-156-7-201204030-00403. Epub 2012 Feb 27. Review. PubMed PMID: 22371850.