地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

副甲状腺ホルモンは骨折後の骨折予防になりますか?

質問

 骨折したあとで、骨折予防の注射をしたほうがよいですか?

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 転倒して腰椎の圧迫骨折を患ってしまった、閉経後の高齢女性。整形外科では注射をするようにすすめられたそうです。

 治療の内容については、担当医によく聞いて決めてもらえばいいと思うのですが、相談に来たのはこういった理由でした。

「それが、あまり説明がなくて、ただ注射したほうがいいと。副作用のこととか、心配でしょう? でも、先生忙しそうだし、質問すると不機嫌になっちゃうんです。どうしたらいいでしょうか?」

 

 整形外科の先生もお忙しかったのでしょうか。こういった悩みは、病院では黙っていて、診療所に「頻繁に」持ち込まれる、という実態があります。

 治療内容がわからなかったり、情報がない中で、ゆっくりお話を聞いてあげるようにしています。

 もちろん、そういった中には、実際にはよく説明されていても、本人の不安が解消しない、といった事例もあるでしょう。

 もし、本当にまったく説明もしないで治療を「強制する」ようなことがあったとしたら、ぼくはちょっと問題だと思います。

 

 この女性が勧められた注射が一体何であるか、わからないことも多いのですが、おそらく副甲状腺ホルモンではないか、という憶測のもとで、その効果について一応調べてみることにします。

 

副甲状腺ホルモンの効果

システマティックレビュー(Cranney, 2006年) *1

研究の概要

 骨粗鬆症の閉経後女性、コルチコステロイドによる骨粗鬆症の閉経後女性、骨粗鬆症の男性に対して、ヒト副甲状腺ホルモン(hPTH) *2 を使用すると、使用なしに比べて骨密度(bone mineral density (BMD))が改善するか、または骨折が少なくなるか、を検討したランダム化比較試験のシステマティックレビュー。

 

主な結果

 12のランダム化比較試験が選択基準に該当。骨折についての結果のみ抜粋*3

 重度の骨粗鬆症があり、骨折の既往歴もある閉経後の女性に対してhPTH(1–34)をカルシウムとビタミンDとともに使用すると、新たな骨折が少ないという1つの大規模研究 *4 がある。これは1,637人を対象に1.5年間の追跡期間のランダム化比較試験である。

 新たな椎体骨折の相対危険は、20 µgと40 µgのhPTH(1–34)群ではプラセボ群に比べて、それぞれ0.35 (95%信頼区間 0.22, 0.55)、0.31 (95%信頼区間 0.19, 0.50)と少なかった。(絶対危険減少 9-10%)

 非椎体骨折の相対危険は、20 µgのhPTH(1–34)群ではプラセボ群に比べて 0.47 (95%信頼区間 0.25, 0.88)と少なかった。(絶対危険減少 3%)

 

10人に1人の骨折予防効果

 閉経後女性のうちでも骨折のリスクの高い人を対象としていますが、2001年の研究では、hPTH群でかなりの骨折予防効果がみられています。

 

 椎体骨折については、絶対危険減少が9-10%となっていますので、治療必要数は10。10人治療すると1人の骨折が予防できるという効果です。

 非椎体骨折についてはやや効果が小さくなりますが、それでも33人治療すると1人の骨折予防という結果です。

 

 その他の研究をみても、いずれもhPTH群で骨折が少ない傾向がみられており、結果に一貫性がありそうです。

 

 もう少し新しい論文も漁ってみたいと思います。

 

 つづく 

副甲状腺ホルモンで骨折が少ない - 地域医療日誌

 

*1:Cranney A, Papaioannou A, Zytaruk N, Hanley D, Adachi J, Goltzman D, Murray T, Hodsman A; Clinical Guidelines Committee of Osteoporosis Canada. Parathyroid hormone for the treatment of osteoporosis: a systematic review. CMAJ. 2006 Jul 4;175(1):52-9. Review. PubMed PMID: 16818910; PubMed Central PMCID: PMC1482742.

*2:hPTH(1–34)またはhPTH(1–84)

*3:もちろん、骨折は真のアウトカム、骨密度は代用のアウトカムだからです。

*4:Neer RM, Arnaud CD, Zanchetta JR, et al. Effect of parathyroid hormone (1-34) on fractures and bone mineral density in postmenopausal women with osteoporosis. NEngl J Med 2001;344:1434-41.

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