10月から定期接種化
2016年10月から、B型肝炎ウイルス(HBV)ワクチンが定期接種化されます。対象者は原則無料で接種が可能となります。
ただし、対象年齢は2016年4月以降に生まれた0歳児となります。
先進国としてはHBVが蔓延している日本としては、ようやく対策がとられることとなり、一歩前進となります。
HBVは世界で蔓延
世界では20億人以上がHBVに持続感染していると推定され、年間60万人がHBVによる肝硬変や肝細胞癌で死亡しています。
WHOは、①新生児全員に対して出生後24時間以内からのワクチン接種を、さらに、②すべての未接種者にも接種することを推奨しています *1 。
真のアウトカム研究は少なかった
HBVワクチンは先進国ではすでに導入済みで、広く接種されています。そのため、効果を検証した研究は少なく、HBVワクチン接種で肝細胞癌の発症や死亡が少なくなるか、という「真のアウトカム」を検討した介入研究はほとんどありません *2。
1984年からHBVワクチン接種が導入された台湾において、ワクチン接種と29歳までの肝細胞癌発症を検討した観察研究が、唯一行われているものと思われます。
その観察研究を確認しておきましょう。
観察研究(Chang, 2009年) *3
研究の概要
小児で1984年のHBVワクチン導入前に生まれた人は、1984年以降に生まれた人に比べて、6-19歳で肝細胞癌発症の予後因子となるか、を検討した観察研究。
主な結果
1983年から2004年の20年間で、1958人が肝細胞癌と診断(6-29歳)。肝細胞癌の発症は導入前 444人(78,496,406人年)に対して、導入後 64人(37,709,304人年)。年齢性別調整オッズ比 0.31(95%信頼区間 0.24, 0.41)と、HBVワクチン導入後で肝細胞癌の発症が少なかった。
導入後、小児の肝細胞癌が7割減少
もともと小児の肝細胞癌は少ないこと、自然減少などワクチン以外の要素が交絡している可能性がありますが、HBVワクチン導入後にかなり減っているようです。
さらに、HBVワクチン導入後であっても、接種が不完全な人(3回未満の接種)はオッズ比 4.32(95%信頼区間 2.34, 7.91)と肝細胞癌の発症が多くなっていました。
これらのことから、ぼくはHBVワクチンの肝細胞癌発症予防効果は、やはりある程度大きなものだったのではないかと考えます。
25万人で1人予防
ただし、小児の肝細胞癌自体、発症が極めて少ないため、このデータだけをみて判断することは難しいでしょう。
相対危険では7割減少ですが、1000万人年当たりの絶対危険ではきわめて小さい効果(1人の発症を予防するための予防必要数 NNTB =250,000)となります。小児の肝細胞癌予防という観点だけでは、社会的インパクトは小さいものとなってしまいます。
成人の肝細胞癌発症や死亡の予防効果がどの程度か興味深いですが、これから先、すでにワクチンが普及してしまってから研究が実施されることは期待薄でしょう。
これまで深刻な有害事象も発生していないようです。先進国など諸外国の状況から、接種は検討してよいのでは、と思います。
*1:WHO. Hepatitis B vaccines. WHO position paper. Weekly epidemiological record 2009;40(84):405–420 http://www.who.int/wer/2009/wer8440.pdf
*2:そのような意味ではまだHBVワクチン未接種者の多い日本では、研究の余地があると思われます。
*3:Chang MH, You SL, Chen CJ, Liu CJ, Lee CM, Lin SM, Chu HC, Wu TC, Yang SS, Kuo HS, Chen DS; Taiwan Hepatoma Study Group. Decreased incidence of hepatocellular carcinoma in hepatitis B vaccinees: a 20-year follow-up study. J Natl Cancer Inst. 2009 Oct 7;101(19):1348-55. doi: 10.1093/jnci/djp288. Epub 2009 Sep 16. PubMed PMID: 19759364.