地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

HPVワクチン、10年の成果は?

 

人類のHPVとの戦い

 ヒトパピローマウイルス(HPV)は全世界的にはびこる最も代表的な性感染ウイルスとなっています。このウイルスはぼくらの知らぬ間にいろいろなHPV関連疾患を引き起こし、死に至らしめることもあります。

 世界的には子宮頸がんは女性のがんの第4位となっており、2012年には約53万人が発症し、約27万人が命を落としています。(全女性死因の7.5%を占めています。)

 HPVと人類の戦いは、はじまったばかりです。

 

4価ワクチン発売から10年

 HPVワクチンは2価(2vHPV 16/18、サーバリックス)と4価(4vHPV 6/11/16/18、ガーダシル)が広く使われています。

 4vHPVは、2006年ガボン共和国で最初に認可されてから、現在129カ国で認可されています。60カ国以上では国の接種プログラムに含まれていますが、接種率はまちまちのようです。

 4vHPV発売から10年。2015年末までに、2億500万本のワクチンが世界に流通しています。

 

 その効果はどのようになっているのでしょうか。

 子宮頸がんの発症など、その効果の検証までに時間がかかるものもあるでしょう。しかし、10年での成果はまずどうなっているのか、検討した研究(システマティック・レビュー)が発表されていますので、ご紹介いたします。

システマティック・レビュー(Garland, 2016年) *1

研究の概要

 各国女性の対象者が4vHPVワクチンの予防接種プログラムに参加すると、参加していない人に比べて、HPV感染率、性器疣贅、子宮頸部の細胞診異常や組織診異常は少なくなるか、を検討したシステマティック・レビュー。

 

主な結果

 該当する研究は58あり。そのうち子宮頸部の組織診異常について検討した研究数は、オーストラリア:5、カナダ:1、デンマーク:3、スウェーデン:1、アメリカ:4。

  • オーストラリアの4vHPVワクチンプログラム(12-26歳、導入後5年)では、ワクチン非接種者に比べて接種者では細胞診軽度異常が34%、細胞診高度異常が47%少ない。
  • 細胞診についてはその他の報告でも、若い年代に対して2-3回接種したものでは、同様の効果が得られている。
  • スウェーデンの17歳未満では、ワクチン非接種者に比べて接種者では組織診CIN2+ *2 が75%、CIN3+ *3 が84%少ない。20-29歳ではそれぞれ22%、25%少ない。
  • オーストラリアでも、CIN2/CIN3/AIS*4 については、非接種者に比べて、16歳未満の接種では39%少なく、20-23歳では5%少なくなっており、やはり年齢とともに効果は小さくなる。
  • アメリカでは、平均22歳での1回以上の接種で、接種4年後での効果が最も大きくなり、被接種者に比べてCIN2+では72%少なく、CIN3+/AISでは45%少ない。

 

 HPVワクチンを接種すると、被接種者に比べて、子宮頸部の細胞診異常や組織診異常が少ない、という結論です。さらにこれらは、接種年齢が早く、接種回数が多く、接種後の経過年数が長いほうが効果が大きくなっている、ということのようです。

 

 今のところ、子宮頸がん発症や子宮頸がん死亡について検討された論文は採用されていませんでした。まだないのでしょう。

 

HPVワクチン宣伝論文?

 さて、残念ながらこの論文では、有害事象については調べられておりませんでした。

 いや、これは調べるべきでしょう?

 穿った見方をするなら、ワクチンの有効性を宣伝するための論文、という見方もできます。気をつけないといけません。

 

 そのあたりを確認しておきましょう。本文から一部引用させていただきます。

Disclaimer. The opinions expressed in the manuscript represent the collective views of the authors and do not necessarily reflect the official positions of Merck or Sanofi Pasteur MSD.

 

 Disclaimerは免責事項です。公式スポンサーの見解を必ずしも反映したものではない、となっております。 

Financial support. The literature extraction was jointly sponsored and supported by Sanofi Pasteur MSD (Lyon, France) and Merck & Co, Inc (Kenilworth, New Jersey), which manufactures the quadrivalent and nonavalent human papillomavirus (HPV) vaccines under the brand names of Gardasil or Silgard and Gardasil 9, respectively.

 

 論文の選択にはスポンサーが関わっているようです。

 ここはたいへん気になるところです。どのような論文が選ばれるかによって、結論が変わることがあるからです。

 効果がないという論文を、何らかの理由づけで除外している可能性はないのでしょうか? このあたり、興味がある方は調べてみてもよいと思います。

Potential conflicts of interest. All academic authors have been investigators for Merck. S. M. G. has received funding through her institution to perform HPV vaccine studies for Merck and GlaxoSmithKline, received payment for board membership on the Merck Global Advisory Board, and received honoraria for lectures including services on speaker’s bureaus conducted during her personal time; she also serves as co-chair of the PATRICIA publication steering committee. S. K. K. has received lecture fees and payments for membership on scientific advisory boards from Merck and Sanofi Pasteur MSD, and received unrestricted institutional research grants to perform HPV natural history and vaccine studies from Merck. N. M. has received honoraria for serving on the Merck Global Advisory Board. S. L. B. has received grant support and speaker’s fees from Merck. Co-authors who are employees of Merck (as indicated on the title page) own stock and/or stock options in the company. Two co-authors (G. D.-F. and Rosybel Drury) are employees of Sanofi Pasteur MSD. All authors have submitted the ICMJE Form for Disclosure of Potential Conflicts of Interest. Conflicts that the editors consider relevant to the content of the manuscript have been disclosed.

 

 まあいろいろと書かれていますが、著者はすべてメルク社の調査員とのことです。

 こういった背景の論文ということを押さえながら、しっかりと批判的吟味しておきたいものです。

 

 2011年のメタ分析はこちらもどうぞ。

vaccine.hatenablog.jp

 こちらの関連記事もどうぞ。

www.bycomet.tokyo

*1:Garland SM, Kjaer SK, Muñoz N, Block SL, Brown DR, DiNubile MJ, Lindsay BR, Kuter BJ, Perez G, Dominiak-Felden G, Saah AJ, Drury R, Das R, Velicer C. Impact and Effectiveness of the Quadrivalent Human Papillomavirus Vaccine: A Systematic Review of 10 Years of Real-world Experience. Clin Infect Dis. 2016 May 26. pii: ciw354. [Epub ahead of print] Review. PubMed PMID: 27230391.

*2:子宮頸部上皮内腫瘍グレード2以上

*3:子宮頸部上皮内腫瘍グレード3以上

*4:上皮内腺がん

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