地域医療日誌

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がん検診を受けたほうがよいですか?

質問

 40歳女性。特に症状もないのですが、どんながん検診を受けておいたほうがよいでしょうか?

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 国が推奨するがん検診がありますが、必ずしも科学的根拠に基づく推奨とはなっていません。

 海外の情報源では、厳密に検討がなされているものが多く、代表的なものをご紹介したいと思います。

 

米国予防医学専門委員会

 米国予防医学専門委員会(US Preventive Services Task Force, USPSTF)の情報はよく参照しますが、優れた情報源だと思います。

Index - US Preventive Services Task Force

 

 個別の情報はガイドラインを参照していただければよいのですが、ここに「myhealthfinder」という検索ツールがついています。米国保健福祉省が作成・公開しているツールです。

 ここに年齢・性別、妊娠しているかを入力するだけで、推奨する検診が検索でき便利です。

 

 40歳女性、妊娠なしで検索してみましょう。

myhealthfinder - Results

Doctors recommend that all women age 40:

 

 推奨する予防策について、リストアップされます。葉酸摂取、ワクチン、血圧測定、心血管疾患のリスク評価、HIV、うつ、タバコ、アルコール、家庭内暴力などが並んでいます。ぜひご確認ください。

 リスクのない40歳女性に対して推奨されるがん検診は、この項目のみです。

Get Tested for Cervical Cancer
Get a Pap test every 3 years. If you get a Pap test and an HPV test, you can get screened every 5 years instead. (USPSTF)

 

 子宮頸部擦過細胞診を3年ごとに、ということになります。

 

 子宮頸がんについては、このように解説されています。

If you are age 30 to 65: Get screened every 3 years if you have a Pap test only. Get screened every 5 years if you have both a Pap test and an HPV test.

Get Tested for Cervical Cancer - healthfinder.gov

 

 30歳から65歳までの女性では、とくに医師からの指示がない限り、子宮頸部擦過細胞診を3年に1回が推奨されています。HPV検査と併用した場合は、5年に1回の推奨となります。

 

国立がん研究センター

 日本の情報源を確認しておきましょう。

子宮頸部擦過細胞診(従来法・液状検体法)
 子宮頸がん死亡率減少効果を示す相応な証拠があるので、対策型検診・任意型検診として、細胞診(従来法・液状検体法)による子宮頸がん検診を実施することを推奨します。
HPV検査を含む方法(HPV検査単独・HPV検査と細胞診の同時併用法・HPV検査陽性者への細胞診トリアージ法)
 子宮頸がん死亡率減少効果の有無を判断する証拠が不十分であるため、集団を対象とした対策型検診としての実施は勧められません。個人を対象とした任意型検診(人間ドックなど)として実施する場合には、子宮頸がん死亡率減少効果が不明であることと、過剰診断などの不利益についても適切に説明する必要があります。

子宮頸がん検診:[国立がん研究センター がん情報サービス 医療関係者の方へ]

 

 有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドラインにはこのように推奨されています。

■細胞診(従来法):推奨グレードB  
 子宮頸がん死亡率減少効果を示す相応な証拠があるので、対策型検診及び任意型検診として、細胞診(従来法)による子宮頸がん検診を実施することを勧めます。 

■細胞診(液状検体法):推奨グレードB  
 子宮頸がん死亡率減少効果を示す相応な証拠があるので、対策型検診及び任意型検診として、細胞診(液状検体法)による子宮頸がん検診を実施することを勧めます。

■HPV検査(単独法)・HPV検査と細胞診の同時併用法・HPV検査陽性者への細胞診トリアージ法:推奨グレード I  
 子宮頸がん死亡率減少効果の有無を判断する証拠が不十分であるため、対策型検診として実施は勧められません。任意型検診として実施する場合には、子宮頸がん死亡率減少効果が不明であることと不利益について適切に説明する必要があります 。

がん検診ガイドライン 子宮頸がん

 

 やはり子宮頸部擦過細胞診による検診が推奨されていますが、年齢や検査間隔についての記載はありませんでした。

 

子宮頸がん死亡率減少効果を示す相応な証拠?

  ここで、思わずアンダーラインをしてしまいましたが、「子宮頸がん死亡率減少効果を示す相応な証拠がある」と記載されています。この証拠は何でしょうか?

 この出典は「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン 2009年10月31日」のようです。ちょっと古い資料でした。

 このガイドライン本文を紐解いておきましょう。

細胞診(従来法)
直接的証拠

 子宮頸部擦過細胞診(従来法)による子宮頸がん検診の死亡率減少効果について無作為化比較対照試験が行われたことはなく、観察研究であるコホート研究3編、症例対照研究(死亡率)2編、症例対照研究(罹患率)9編、地域相関・時系列研究20編が存在した。子宮頸がん検診の開始は1950-1960年代に遡り、先進国ではすでに国策として行われている国が多く、近年は主として検診間隔や組織型検診の評価に関する検討が行われている。

 

 相応な証拠、とありましたが、やはりランダム化比較試験は行われていませんでした。デンマークの1960年代のコホート研究 *1 と、日本の1988-2003年のコホート研究 *2 が主なものとなるでしょう。

 日本のコホート研究では、45市町村を対象とした70,157人の住民に追跡調査を行い、検診受診者の子宮頸がん死亡率は、非検診受診者に比べて70%少ない(ハザード比 0.30, 95%信頼区間 0.12, 0.74)という結果となっています。

 ガイドラインでは、子宮頸部擦過細胞診を受けている人は子宮頸がん死亡が少ない、というコホート研究の結果を論拠としているようです。

 コホート研究ですから、交絡やバイアスの影響は避けられません。少なくなった70%のうち、純粋に検診の効果がどの程度だったのか、知る術もありません。

 

子宮がん検診の効果、その後

 ぼくが以前、子宮がん検診について調べた際、一連の記事にしたことがあります。2015年のことですから、前出のガイドラインが出版されてからだいぶ時間が経過した時点のものです。

子宮頸がん検診には効果がありますか?(1) - 地域医療日誌

子宮頸がん検診には効果がありますか?(2) - 地域医療日誌

子宮頸がん検診には効果がありますか?(3) - 地域医療日誌

HPV検査には他の方法はないですか? - 地域医療日誌

 

 その時には、このような結論だったと思います。

 さて、これまで子宮頸がん検診の有効性を検討したランダム化比較試験は1つしかありません。

 この研究では、子宮頸がん検診のうちHPV検査のみで有意に子宮頸がん死亡の低下が示されています。細胞診検査では子宮頸がん死亡は少ない傾向でしたが、有意ではありませんでした。

 他には観察研究などの間接的な知見しかありません。つまり、これが子宮頸がん検診が有効かどうかを検証することを目的とした唯一の介入研究です。

子宮頸がん検診には効果がありますか?(2) - 地域医療日誌

 

 唯一のランダム化比較試験が行われたインドでは、日本の3~6倍の子宮頸がんの発症がある国です。それを試算に入れると、日本における子宮頸がん検診の効果は、最大でもこのようになると考えられます。

 従来の細胞診群だけではなく、より効果が高かったHPV検査群を加えた子宮頸がん検診の効果としては、4千人から8千人検診して1人の子宮頸がん死亡が少なくなるという効果になります。

子宮頸がん検診には効果がありますか?(2) - 地域医療日誌

 

 今のところ、この記事を書いた当時から結論は大きく変わっていないようです。

 子宮頸がん検診を受けた人は、受けていない人に比べて子宮頸がん死亡が少ない、ということは確かです。

 ただし、子宮頸部擦過細胞診とHPV検査を併用した検診でも、せいぜい数千人に1人子宮頸がん死亡が少なくなる程度の検診効果である、という点は押さえておくべきでしょう。

 

*1:Berget A. Influence of population screening on morbidity and mortality of cancer of the uterine cervix in Maribo Amt. Dan Med Bull. 1979 Apr;26(2):91-100. PubMed PMID: 436462.

*2:Aklimunnessa K, Mori M, Khan MM, Sakauchi F, Kubo T, Fujino Y, Suzuki S, Tokudome S, Tamakoshi A; JACC Study Group, Motohashi Y, Tsuji I, Nakamura Y, Iso H, Mikami H, Inaba Y, Hoshiyama Y, Suzuki H, Shimizu H, Toyoshima H, Wakai K, Ito Y, Hashimoto S, Kikuchi S, Koizumi A, Kawamura T, Watanabe Y, Miki T, Date C, Sakata K, Nose T, Hayakawa N, Yoshimura T, Shibata A, Okamoto N, Shino H, Ohno Y, Kitagawa T, Kuroki T, Tajima K. Effectiveness of cervical cancer screening over cervical cancer mortality among Japanese women. Jpn J Clin Oncol. 2006 Aug;36(8):511-8. Epub 2006 Jul 14. PubMed PMID: 16844732.

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