地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

水素水ってどうなの?

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水素水は本当に効果がある? 

 最近話題の水素水。ちょっとしたブームになっているとか。

 いろいろな効果がまことしやかに語られておりますが、実際のところ科学的に検証されているものはどこまでなのでしょうか?

 

 国民生活センターではこのような発表をして注意喚起しています。

活性酸素の一種を抑制する水をつくるとうたった装置−飲用による効果を表したものではありません−(発表情報)_国民生活センター

 

 ちょっと気になってはいたのですが、調べてみたいと思います。

 

 その前に、念のため前提を確認しておきます。

 いまここで検索しようとしている研究は「人に対して水素水の効果を検討した臨床研究」です。ラットやマウスの実験ではありません。あくまでも人に対する確認された効果が何か、ということです。

 

やはり臨床研究は少なかった

 PubMed *1 で調べてみました。

 もちろん、検索式にはこれまで何度も登場している優秀な自動検索式 Clinical Queries *2 を使います。

 用語が適切かわかりませんが、"hydrogen water" *3 で検索したところ・・・

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 (Clinical Queries の検索結果をスクリーンショットしています。)

 

 絞り込み検索では、何と1件のみ!! それもプロトコール論文でした。

 Broad検索では18件がヒットしましたが、そのほとんどが動物実験。

 仕方なく、さきほどのプロトコール論文の関連論文から探し、パーキンソン病に対する人の研究をひとつ発見しました。

 日本の研究です。確認しておきたいと思います。

ランダム化比較試験(Yoritaka, 2013年) *4

研究の概要

 パーキンソン病の患者に水素水(Aquerablue *5 を使用)を毎日1000mL、48週間飲用すると、プラセボ水(プラセボ機を使用)の飲用に比べて、Unified Parkinson’s Disease Rating Scale (UPDRS) *6 スコアの改善度は大きいか、を検討した二重盲検ランダム化比較試験。

 

主な結果

  対象は17人(平均 62.7歳、女性11人)。うち水素水群9人、プラセボ群8人。プラセボ群のうち1人が多尿のため脱落。

 開始時から48週間までのUPDRSスコア変化値(1次アウトカム)は水素水群で中央値 -1.0、平均 -5.7。プラセボ群では中央値 4.5、平均 4.1となり、水素水群で有意に症状改善がみられた。

 

中央値で5.5点差

 小規模ランダム化比較試験ですが、48週間水素水を毎日1L飲んだ群でパーキンソン病重症度スコアの改善が確認された、という結果です。

 その差は中央値で5.5点差。

 こういった微妙な差の判断にはMCID(minimal clinically important difference、臨床的有意な最小変化量)を確認します。

 以前MCIDを紹介したこちらの関連記事もご参照ください。

認知症にサアミオン? - 地域医療日誌

ローヤルゼリーにはどんな効果があるか? - サプリメントの効果と害

 

 この論文にはMCIDは記載されていませんでした。検索するとこのような論文 *7 がありました。一部抄録を引用します。

RESULTS: A minimal CID was 2.3 to 2.7 points on the UPDRS motor score and 4.1 to 4.5 on the UPDRS total score. 

 

 UPDRSのMCIDは4.1~4.5とあります。

 今回の論文ではこの差よりは大きくなっています。

 小規模研究でもあり、真の値にこのような差が本当に存在するのか、なんともいえません。パイロット研究でもあり、次の研究に期待したいところです。

 

 今のところ、他にめぼしい臨床研究は見当たりませんでした。

 あえて水素水の効果について言及したとしても、現状ではパーキンソン病についての小規模研究があるが、まだ結論は出ていないということまででしょう。

 それ以上の水素水の効果については誇張(あるいは誤り)ということになります。

 ご注意ください。

 

*1:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/

*2:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/clinical

*3:hydrogen waterで検索するとhydrogen, waterが含まれる論文が大量に混入するため

*4:Yoritaka A, Takanashi M, Hirayama M, Nakahara T, Ohta S, Hattori N. Pilot study of H₂ therapy in Parkinson's disease: a randomized double-blind placebo-controlled trial. Mov Disord. 2013 Jun;28(6):836-9. doi: 10.1002/mds.25375. Epub 2013 Feb 11. PubMed PMID: 23400965.

*5:エコモ・インターナショナル株式会社、福岡県 http://www.aquelajapan.com/aquela_blue.html

*6:パーキンソン病統一スケール:パーキンソン病を総合的に評価し、重症度を点数化したもの。世界中で広く利用されており、ヤールの重症度分類に比べてはるかに細かく評価することができる。
 1.精神機能、行動、および気分
 2.日常生活動作
 3.運動能力検査 
 4.治療の合併症
に分類され、全体で42項目を5段階に分けて点数で評価する。

*7:Shulman LM, Gruber-Baldini AL, Anderson KE, Fishman PS, Reich SG, Weiner WJ. The clinically important difference on the unified Parkinson's disease rating scale. Arch Neurol. 2010 Jan;67(1):64-70. doi: 10.1001/archneurol.2009.295. PubMed PMID: 20065131.

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