地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

味覚が低下すると寿命が短くなる?

質問

 味覚がなくなった人を経過観察すると、味覚がある人に比べて認知症発症が多くなりますか? (予後に関する問題)

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情報検索はPubMedから

 ひさびさの #エビリク (エビデンスリクエスト)です。ツイッター経由で受け付けました。ご質問、ありがとうございます。

 PubMed検索しました。いつものClinical Queriesでポンッ! 簡単です。

 検索式は

(Prognosis/Broad[filter]) AND (dementia taste)

 

 本当は5分もかかっていません。

 嗅覚障害と認知症発症の関係は多数の文献があるようです。 *1

 味覚障害(味覚の検査をして低スコア)の人については、急性期の入院患者ですが、総死亡が多くなるという衝撃的な研究が2014年に発表されていました。

 認知症発症ではなく、総死亡ですよ。ちょっと驚きました。本当でしょうか? 見ておきますか?

コホート研究(Solemdal, 2014年) *2

研究の概要

 これまで自宅生活しており、大学病院の急性期病棟に入院した70歳以上の患者のうち、“taste strips method”による total taste score (TTS) *3 が低スコアの人は、高スコアの人に比べて、総死亡は多くなるかを検討した、予後に関する前向きコホート研究。

 

主な結果

 2009年11月から2010年10月に入院した174人(平均 84歳)が対象。2012年1月までの追跡調査。

 TTSのスコアが最も低い第1四分位数(Q1)に比べて、総死亡の調整相対危険 *4 は以下のとおり。

 Q2 versus Q1 0.42(95%信頼区間 0.21, 0.86) p=0.017
 Q3 versus Q1 0.52(95%信頼区間 0.24, 1.12) p=0.097
 Q4 versus Q1 0.31(95%信頼区間 0.14, 0.69) p=0.004

 1年死亡率(調整後)はQ1 30%に対してQ4 9%味覚低下があると総死亡が多い

 

味覚低下で3.2倍総死亡が多い 

 ちょっと驚きでした。何らかの交絡もありそうですが、調整因子について引用しておきます。

age, gender, CIRS, smoking status, and education level

 

 ここでのCIRSはこちらです。

Comorbidity was assessed with the Cumulative Illness Rating Scale (CIRS; Miller et al. 1992; Salvi et al. 2008) by a physician in geriatric medicine. This index describes medical burden and comorbidity in older people. The CIRS comprises 14 different organ systems, rating severity of illness from 0 to 4.

 

 並存疾患の重症度を0~56点(高値が重症)で評価したものですね。なるほど。

 こうした交絡を調整してもなお、味覚低下が総死亡と関係していたという結果になっています。

 だからどうすればいいか、という処方箋まではわからない研究結果ですが、味覚についてもっと気をつけてみてもよいのかもしれません。

 

感覚が鈍くなると・・・

 そういえば、先日主催した映画上映・意見交換会イベントで、コーヒーや魚の味についての話題が出ていたことをふと思い出しました。

 

 味覚も聴覚と同様に、感覚器官の老化や廃用がおこるのではないか。それが認知機能や身体機能に、思いのほか影響を与えているのかもしれません。

 

嗅覚低下も関連あり 

 この論文のイントロにも注目の一文が。引用しておきます。

Sensory functions weaken with increasing age. Vision and hearing, as well as olfaction (Schiffman 1997), exhibit deteriorating changes. Interestingly, problems with odor identification have also been linked to increased mortality in older adults (Wilson et al. 2011; Gopinath et al. 2012).

 

 嗅覚低下も総死亡と関係があるとの先行研究が紹介されていました。気になりますね。これ、実は文献検索でもひとつ論文が釣れていました。

 こちらも、いずれご紹介したいと思います。

 

味覚低下で認知症が2.2倍

 ところで、味覚と認知症のほうはどうなったのでしょうか?

 総死亡が多くなるなんて、認知症どころの話ではなくなったのでやや関心が薄れましたが、一応回答をご紹介しておきましょう。

 認知症の発症については2019年1月に発表された観察研究がありました。一定の閾値以下の味覚障害がある方はオッズ比 2.2倍発症が多く、嗅覚障害の併存では3.1倍多くなる、という結果です。こちらは原文入手できませんでしたが、孫引きできそうですから読む価値ありそうです。

 

 何らかの原因で経口ができなくなった人は、すでに脳梗塞を発症していたり、ADL低下し廃用が進んでいる人が含まれるため、認知機能は低下しやすくなります。そのような対象集団で味覚低下だけを取り出して検証することは、おそらく研究デザインとして難しい(つまり先行研究が見つからない)と思われます。以上です。

  

 いやあ、本当にいい質問でした。いつか調べようと思っていたのですが、ちょうどよかった。勉強になりましたね。

 ありがとうございます。

*1:一例として
Roberts RO, Christianson TJ, Kremers WK, Mielke MM, Machulda MM, Vassilaki M, Alhurani RE, Geda YE, Knopman DS, Petersen RC. Association Between Olfactory Dysfunction and Amnestic Mild Cognitive Impairment and Alzheimer Disease Dementia. JAMA Neurol. 2016 Jan;73(1):93-101. doi: 10.1001/jamaneurol.2015.2952. Erratum in: JAMA Neurol. 2016 Apr;73(4):481. PubMed PMID: 26569387; PubMed Central PMCID: PMC4710557.

*2:Solemdal K, Møinichen-Berstad C, Mowe M, Hummel T, Sandvik L. Impaired taste and increased mortality in acutely hospitalized older people. Chem Senses. 2014 Mar;39(3):263-9. doi: 10.1093/chemse/bjt116. Epub 2014 Jan 21. PubMed PMID: 24448597.

*3:0-16点、低スコアが重度の味覚障害

*4:Associations between total taste score and mortality, adjusted for gender, age, smoking, education level, and Cumulative Illness Rating Scale sum

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