認知症の話題、もう少しつづきます。
新薬から患者予測急増までのシナリオ
アリセプト(ドネペジル)の発売で認知症が多くなったのではないか?
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そして、認知症の将来患者予測が過大なのではないか?
新薬が発売され、病気が増加し、さらに将来予測までも急増する。そんな熱狂のあとには、いろいろな疑念がつきものです。
作られたものではないのか?
この疑念を明らかにすべく、正面から立ち向かった勇気ある論文がありましたので、ご紹介しておきます。
メタ分析(Killin, 2014年) *1
研究の概要
アルツハイマー病患者の認知機能に対するドネペジルの効果を検討した研究のうち、製薬企業から資金提供を受けた研究は、資金提供を受けていない研究に比べて、よい結果となっているのか、を検討したメタ分析。
主な結果
14研究が採択基準に該当。全研究のメタ分析ではドネペジル群で認知機能に有意差がみられた。
標準化平均差 0.43(95%信頼区間 0.36, 0.50)
このうち製薬企業から資金提供を受けた研究(10研究)では、資金提供を受けていない研究(4研究)に比べて効果が大きい傾向がみられた。
資金提供研究 標準化平均差 0.46(95%信頼区間 0.37, 0.55)
資金提供のない研究 標準化平均差 0.33(95%信頼区間 0.18, 0.48)
差 0.13(95%信頼区間 -0.1, 0.36)
資金提供群で効果が大きい傾向
14研究の検討ですが、資金提供のない研究に比べて、資金提供研究のほうがドネペジルの効果がやや大きい傾向がみられた、という結果です。
標準化平均差で0.13、偏差値で1.3程度の差ということですから、差はわずか。
資金提供を受けたことが大きく影響していたとは今のところ考えにくい、という結果になるでしょう。
よかったというか、ほっとしたというか。
助成金バイアス
この論文の序文にはこのように書かれています。
This is important because industry-sponsored clinical trials are more likely to find preferential outcomes for the industry’s product than non-sponsored studies, demonstrating a pervasive effect of ‘industry bias’.
ここでは"industry bias"と書かれていますが、funding biasやsponsorship biasとも呼ばれています。助成金バイアスということになるでしょうか。
そもそも製薬企業から助成金をもらうと研究結果はよい結果になりがちだ、ということは一般的に言われており、実証もされています *2。
論文を読むときには、研究の資金源も一応確認しておく必要があるでしょう。
*1:Killin LO, Russ TC, Starr JM, Abrahams S, Della Sala S. The effect of funding sources on donepezil randomised controlled trial outcome: a meta-analysis. BMJ Open. 2014 Apr 7;4(4):e004083. doi: 10.1136/bmjopen-2013-004083. PubMed PMID: 24710130; PubMed Central PMCID: PMC3987717.
*2:ちょうど今年のコクランがありました。
Lundh A, Lexchin J, Mintzes B, Schroll JB, Bero L. Industry sponsorship and research outcome. Cochrane Database Syst Rev. 2017 Feb 16;2:MR000033. doi: 10.1002/14651858.MR000033.pub3. Review. PubMed PMID: 28207928.