本の紹介です。
記念すべき第1回
岩波書店の本を少しずつ読み漁ろうという、ぼくの勝手なプロジェクト。
記念すべき第1回はこちら。
書店の本棚を眺めていると、いきなりストライクの本が。
今までこの本の存在を知りませんでした。本棚を眺めるのは、ほんとに大事ですね。
著者は臨床疫学を専門とする岡山大学の教授、津田敏秀さん。
データを読めないエリート医師たちが招いた現状を、鋭く批判しています。
医学的な正しさには派閥がある
これまで「医学的な正しさ」は、メカニズム派、直感派、数量化派の医師たちで論争が繰り広げられてきました。
- 生物学的研究を重視するメカニズム派
- 医師としての個人的経験を重視する直感派
- 臨床データの統計学的分析(臨床疫学)を重視する数量化派
日本では永らくメカニズム派、直感派が主流派として大勢を占め、臨床研究データに基づく判断や臨床研究の実施や教育がないがしろにされてきました。
データを読めないエリート医師たち
その結果として、何が起こったのか。
データを読めないエリート医師たちがはびこり、数量化の知識がない医師たちが誤った判断を下してきたと批判します。
この本では、福島原発事故に端を発した放射線被ばく(100ミリシーベルト)、O157による大規模食中毒事件、水俣病事件、乳児突然死症候群などが具体例として挙げられています。
メカニズム派や直感派はデータで判断しないため、データがなくても研究をしようという意識がなかなか生まれません。
そして、臨床研究の国際競争力も大きく後退することになります。日本の主要臨床論文数(2008-2011年)は世界で第25位と低迷しています。
EBMと診察室からの情報発信
統計学的手法の導入の遅れは取り返せるのでしょうか。
専門家は今、何をすべきでしょうか。
Evidence-based medicine(EBM、根拠に基づく医療)の実践と教育、それを診察室のデータから行うことが必要—こうした著者の主張には、まったく同意します。
ぼくらの役割
ぼくらの役割は、診察室でおこっていることを記述し分析し、それを診察室の実践に生かしていくことだと思っています。
まさしくそのようにやってきたのですが、まだまだ力が及んでいませんでした。
医療をアップデートするために、これからも地道につづけていきたいと思います。