ほんの紹介(宣伝)です。
ぼくも関わっていることをあらかじめお断りしておきますが、なかなか豪華なテキストが出来上がりました。
中山書店のスーパー総合医シリーズ(全10冊)の最新刊「総合診療医の果たす役割」です。
総合診療医であるわれわれはどんな医者で、どんな診療をし、どんな教育や研究をしているのか。日本の総合診療の歴史的経緯についても正面から書き記された、後世に残るであろう大著に仕上がっています。
総合診療とは残渣の総合
印象に残るのは冒頭、専門編集 名郷直樹さんの「総合診療医とは何か」。
総合診療とは臓器別専門医の総合したものでは決してなく、それらを除いてもなお残っている「残渣の総合」であるというものです。
総合診療とは王道ではなく今の邪道、すなわり残りものであるという表現は、今ではしっくりときます。
専門医療に特化していった医療のはざまに残されたもの。医療の谷間に灯をともすことが、ぼくら自治医科大学卒業生に受け継がれている精神でもあります。
これはへき地などの地理的な谷間だけを指しているのではなく、まさしく総合診療の姿勢そのものを指し示しているとも言えるのではないか、と解釈しています。
五十嵐の10の軸、生態学的接近からひもとく
後半は「五十嵐の10の軸」*1 のなかの「生態学的接近」がキーワードに。
高血圧についてどのように対応するのが「残渣の総合」らしいのか、具体例で説明されています。
専門性を強調する総合診療は最も総合診療らしくない
スーパー総合医などと専門性を強調すればするほど、最も総合診療らしくなくなっていきます*2。総合診療とは、残りものなんだから。
一見すると、本書のコンセプトに矛盾していると感じられるかもしれません。しかし、そこが理解できてこそ総合診療医といえるでしょう。
名郷直樹さんの「序にかえて」の一文に、そのメッセージが垣間見えます。
むしろ書かれないことのほうが重要なのではないか。ただ書かれないことを浮き彫りにできるのは、書くことによってだけである。
書かれなかった「残りもの」は何か。それが次世代のキーワードになるでしょう。
高価な本ですが、ぜひお手にとってみてください。