地域医療日誌

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忘れられた病気、レミエール症候群

 

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 かぜに抗菌薬が不必要であることは、賢明なこのブログ読者のみなさんには常識かと思います。

 地域医療ジャーナルに連載中の「かぜの研究」には、抗菌薬をへらすとどうなるのか、について書かせていただきました。

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 このなかで、レミエール症候群(Lemierre症候群)が登場しています。どんな病気なのか忘れないように、ここにも書き残しておきたいと思います。

 

レミエール症候群とは 

 ところで、レミエール症候群とはどんな病気でしょうか。論文 *1 から引用します。

Lemierre’s syndrome, from thrombophlebitis of the internal jugular vein associated with Fusobacterium necrophorum infection, is a rare complication of sore throat, but F necrophorum might be frequently detectable in patients with symptoms of sore throat. The annual number of cases of Lemierre’s syndrome in England was reported to have increased from 19 in 1997 to 34 in 1999, prompting a reminder from the chief medical officer that some symptoms of sore throat may require antibiotic treatment.

 

 フソバクテリウム・ネクロフォーラムとは嫌気性のグラム陰性菌です。この口腔咽頭感染を契機として、内頸静脈の血栓性静脈炎を引き起こすという、まれな合併症がレミエール症候群です。英国では年間発症数が1997年で19例、1999年で34例とのことです。  

 かつては致死的な病気でしたが、抗菌薬の普及によって近年ではまれになっており、"fogotten disease"(忘れられた病気)と言われているようです。

 

症例報告から

 国内での症例報告がありましたので、確認しておきましょう。

症例報告(内藤, 2011) *2 

症例は 20 歳男性.発熱・右頸部違和感・胸痛,胸部 X 線写真での浸潤影に対してセフェム系抗菌薬 処方されるも改善せず,当科紹介受診.胸部 CT では空洞を伴う多発結節影を認め,敗血症性肺塞栓症が疑 われた.レボフロキサシン(Levofloxacin;LVFX)与薬にても改善が得られず当科入院.血液培養にて嫌 気性菌である Fusobacterium necrophorum を検出した. また右頸部違和感に対して頸部造影 CT を施行, 右内頸静脈内血栓を認めた.以上の所見より Lemierre 症候群と診断し抗菌薬を変更,また抗凝固療法を併 用した.炎症所見の改善は得られたが内頸静脈内血栓は残存した.頸部痛を伴う肺の多発性結節影を認める感染症として,Lemierre 症候群も考慮すべきと考えられた.

 

 頭痛、発熱、右頸部違和感で発症し、5日後に医療機関を受診されています。発症7日後に胸痛がみられ、胸部X線で肺炎を認めました。しかし、外来での内服治療で改善がみられず、発症14日後に入院となっています。

 最終的には血液培養とCT検査でレミエール症候群と診断されています。

 治療はABPC/SBT 4.5g/日とCLDM 1200mg/日の併用、ヘパリン・ワーファリンによる抗凝固療法でした。抗凝固療法のエビデンスはないそうです。

1990 年代頃より罹患率 の増加の報告が見受けられるようになり,その原因として咽頭炎に対する抗菌薬使用の制限が考慮されている.疫学的な特徴としては 10 代~20 代の健常者に多く,2: 1 でやや男性に多いとされている.具体的な罹患率の報告は少ないが,100 万人に0.6~2.3 人との報告がある

 

 頻度はきわめて低い病気です。

先行感染としては咽頭炎・扁桃炎が 7 割前後を占めるが,歯性感染や耳下腺炎,乳突洞炎,副鼻腔炎の報告もある.この時期の臨床症状は感染巣により異なるが,咽頭炎が最も多いことから咽頭痛を訴える頻度が多い
 先行感染巣から内頸静脈に波及する経路は正確には解明されていない.かつては経静脈的に波及すると考えられていたが,筋膜を介した直接波及やリンパ系を介する経路も存在すると考えられている.血栓性静脈炎形成後の感染波及先としてはが最も多く,ついで関節・肝臓・脾蔵・骨髄等があげられる.まれであるが眼内炎や脳膿瘍の報告もある.

 

 咽頭痛がつづく場合には念頭におきたい病気(鑑別疾患)ですね。もうひとつ症例報告を引用しておきます。

症例報告(伊藤, 2017) *3

今回われわれは扁桃周囲膿瘍で発症し,頸椎前部膿瘍・血栓性肺塞栓・膿胸・DIC をき たし,Lemierre 症候群と考えられた Fusobacterium necrophorum 敗血症の 1 例を経験した

 

 この症例も扁桃周囲膿瘍から波及したものです。

 考察に診断基準について書かれていましたので、引用しておきます。

Lemierre 症候群は確立された診断基準はなく,Sinave らの基準によると,
1)中咽頭の先行感染がある,
2)少なくとも 1 回の血液培養が陽性である,
3)内頸静脈の血栓性静脈炎がある,
4)1ヵ所以上の遠隔感染巣がある,
の 1)~4)のすべてを満たすものとされているが,それを満たしていない報告も見受けられる。定義は報告により異なるが,化膿性血栓静脈炎を内頸静脈に起こしたものを Lemierre 症候群としている報告や,肺病変を必須とする報告 などもある。

 

 先行感染から内頸静脈の血栓性静脈炎をおこし、フソバクテリウム・ネクロフォーラムが同定されたものたものをレミエール症候群と呼ぶのだろうと思いますが、診断基準もまだ確立されていないようです。

 まずはこの病気を忘れないように、注意したいと思います。

*1:Gulliford MC, Moore MV, Little P, Hay AD, Fox R, Prevost AT, Juszczyk D, Charlton J, Ashworth M. Safety of reduced antibiotic prescribing for self limiting respiratory tract infections in primary care: cohort study using electronic health records. BMJ. 2016 Jul 4;354:i3410. doi: 10.1136/bmj.i3410. PubMed PMID: 27378578; PubMed Central PMCID: PMC4933936.

*2:内藤 亮,重城喬行,黒田文伸,小園高明,櫻 井隆之,他:Lemierre 症候群の 1 例.日呼吸会誌 2011;49:449-453.

*3:伊藤佳史, 本田 徹, 森部桂史, 伊地知 圭, 村上信五. Lemierre 症候群と考えられた扁桃周囲膿瘍から膿胸を呈した1症例. 耳鼻咽喉科展望 2017;60(1):29-33.

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