地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

リスクのない65歳以上では検査すら不要

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高齢者の脂質異常は治療すべきか

 さて、これまで脂質異常症の治療について、つづけて記事を書いてきました。

 ここまでのところを少しまとめておきたいと思います。

  • 重要なのはコレステロール値ではなく、心血管疾患発症や心血管死亡のリスクがどのくらいなのかである。
  • リスクが高い人の治療効果は大きく、リスクが低い人の治療効果は小さい(メリットよりデメリットが上回る可能性もある)。

 まずは、こうした脂質異常症治療の原則は、ご理解いただけたものと思います。

 

 さて、それでは高齢者の脂質異常は治療すべきでしょうか?

 高齢者になれば心血管疾患発症リスクは高くなるわけですから、高齢になればなるほど治療効果は大きくなるのでしょうか?

 

信頼性の高い二次情報源から

 もしかして、「そんなこと言ったって、治療効果が小さい結果となった研究だけを意図的に選んで紹介しているだけでしょ?」という、的外れな批判の声が上がるかもしれません。

 

 そこで、信頼性の高い媒体(二次情報源)から抜粋引用しておきましょう。ぼくが選んだわけではありませんから、信憑性が高まるはずです。

 

 いまや全国の医療機関で導入されている、賢く決断。優れたケア。 | UpToDate

から。

レビュー(UpToDate, 2017年) *1

 高齢者の心血管疾患スクリーニングの項を日本語訳し、要約しました。

  • 高齢者は冠動脈疾患の発症が高率であり、生命予後が保証されている状況下では脂質低下療法は有益かもしれない。
  • 脂質検診をすべきではない年齢の定めはないが、過去に1度検査している人ならUpToDateでは65歳で健診をやめることをすすめる
  • 80歳以上の人を対象とした脂質低下療法のランダム化比較試験はない
  • 冠動脈疾患リスクが10年で10%を超える人には検査・治療を考慮する。しかし、80歳以上で治療を開始するかどうかは、併存疾患やポリファーマシーの問題など、個別の要因をよく考慮すべき。

 

 高齢者における脂質異常症治療が有効であるという研究はなく、もはや検査すらすべきではない、というもっともな論調となっています。

 心血管疾患のリスクが低い65歳以上の健康診断では、コレステロール検査をする意義すら疑問、というのが科学的な見解です。

 

エビデンスは世界共通言語 

 65歳からは検診不要? どこか見覚えのあるセンテンスだな、と思った方は、きっとかなりのEBM通です。

 こちらの本ではないですか? タイトルまで同じです。

65歳からは検診・薬をやめるに限る!  ―高血圧・糖尿病・がんはこわくない

65歳からは検診・薬をやめるに限る! ―高血圧・糖尿病・がんはこわくない

 

 

 そう、エビデンスからわかることは世界共通、なのです。あたりまえですが。

 関連記事はこちら。

www.bycomet.tokyo

 

 日本でなぜ議論にならないのか甚だ疑問ですが、これも時間の問題でしょう。

 なぜか、日本はいつも最新のエビデンスが広まって現場の診療が変わるまでに、先進国よりも長い時差があるんです。

 日本語の問題でしょうか?

 いえ、専門家のリテラシーのレベルが低いせいではないかと確信しています。

 

 もう少しつづきます。

*1:Mitchell TH. Geriatric health maintenance. In: UpToDate, Judith AM (Ed), UpToDate, Waltham, MA, 2017.

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