本の紹介です。今回ご紹介するのはこちら。
短絡的な解決を期待する時代
せわしなく動いていると、じっくりと時間をかけて何かに向き合うということができなくなっていることに、ふと気づきます。
わからないことがあっても、さらに深く追究する気力がなかったり、時間がとれなかったりして、そのままになってしまうこと、ありませんか?
ネット検索である程度わかることもありますし、時間も節約できるようになっているはずです。少なくとも10年前に比べて、情報へのアクセスは格段に早くなっています。
信頼できる情報源が見つかりさえすれば、早く的確に知識を高めることができるでしょう。
簡単な検索に慣れてしまっていると、信頼できる情報源が見つからなかったり、ネット検索でも手がかりがなかったとき、途方に暮れるものです。
時間のかかる疑問は、そのまま放置されていくのです。
そして、わからないまま放置していた疑問にまたぶつかってしまい、あの時ちゃんと時間をとっていれば、と後悔することもあります。
じっくりと時間をかけて問題に向き合うことが、なかなかできない時代になっているのかもしれません。
またも翻訳本が出版
時間がある時に読もうとして、そのままになっている本がたくさんあります。洋書や専門書にその傾向があるのですが、手にしてみたものの読み進められず、積まれたままになっている本です。
洋書は未読のうちに翻訳が出版されたりします。
英語で挫折して読めなかった本は、その数年後に翻訳本でやっと理解できるようになります。
今回も、そんな本のひとつをご紹介します。
原著はこちら。

Medical Wisdom and Doctoring: The Art of 21st Century Practice
- 作者: Robert Taylor
- 出版社/メーカー: Springer
- 発売日: 2010/03/04
- メディア: ペーパーバック
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ぼくの師匠のひとり、テイラーさんの著書です。
テイラーさんは米国のへき地診療所に長年勤務され、その後にオレゴン健康科学大学の家庭医療学講座の教授となった、「家庭医療の父」とよばれる著名な医師です。
読んでみると、自分が今、まさにひっかかっていたことについて、書かれてあります。もう少し早く読んでおけばよかった。
冒頭部分では「良医」(wise physician)とはどのような要素があるのかについて書かれています。第1章から少し要約してご紹介します。
- 理想の医師は勤勉だ。
- 謙虚さは良医の特徴だ。
- 「患者に寄り添う」とは、患者からの質問に根気強く答えること、症状や疾患が患者にとってどんな意味があるかを考えること、入院患者の経過について家族に電話をかけることだ。
- 良医は、患者が必要とするときには常にそこにいるのだ。
- すべての良医が情熱(良い患者ケアを行いたいという情熱)をもっている
- 「良医」という言葉は、患者に対して最新の上質な治療を提供するだけでなく、自分の家族や医師仲間や自分自身への配慮も忘れない癒し手をさす
癒し手であれ
癒し手というコトバが何度も登場します。重要なキーワードのひとつになっているところに親近感がわきます。
さらに第2章には、「何よりもまず癒し手であれ」という一節があります。
ちょっとした手の切り傷の処置について、病院で傷を縫合してもらい追加接種した破傷風ワクチンでアレルギーをおこしてしまったエピソードが書かれています。
癒し手として行動したのは一体だれか、と問題提起されています?
病院で処置した医学生だったのか? それとも、けがから気をそらせるために話しかけてくれた3歳の少女だったのか? と。
患者に寄り添い、癒し手であり続けるためには、どのような努力が必要なのか。歴史的な英知と経験から、学んでいきたいと思います。
ということで、ぜひご一読を。

- 作者: Robert B. Taylor,石山貴章,三枝小夜子
- 出版社/メーカー: メディカルサイエンスインターナショナル
- 発売日: 2017/02/28
- メディア: 単行本
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