地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

日本人は589人に1人の予防効果

 コレステロールは下げなくていいですか? - 地域医療日誌 のつづきです。

 

日本人の研究では

 それでは、日本人の研究ではどうなっているでしょうか。代表的な研究で確認しておきましょう。

ランダム化比較試験 MEGA(Nakamura, 2006年) *1

研究の概要

 心血管疾患の既往がない高コレステロール血症(総コレステロール220~270mg/dL) の40~70歳の日本人に食事療法+プラバスタチン 10~20mg/日を投与すると、食事療法のみに比べて冠動脈疾患の発症(狭心症・冠動脈血行再建術を含む)は少ないかを検討した、治療(一次予防)に関するランダム化比較試験。

 

主な結果

 対象者は8214人、平均58歳、女性68%。平均追跡期間は5.3年。

 冠動脈疾患の発症はプラバスタチン群では66/3866人(1000人年あたり3.3人)、対照群では101/3966人(1000人年あたり5.0人)、相対危険 0.67(95%信頼区間 0.49, 0.91)とプラバスタチン群で少ない。 

 また、心血管死亡についても同様に、プラバスタチン群11/3866人(1000人年あたり0.5人)、対照群 18/3966人(1000人年あたり0.9人)、相対危険 0.63(95%信頼区間 0.30, 1.33)とプラバスタチン群で少ない。

 

 

相対危険が同じでも治療効果はちがう?

 日本人を対象としたプラバスタチンの研究においても、冠動脈疾患の発症が33%少ない、心血管死亡が37%少ない、という結果となっています。

 果たしてこれは同程度の効果、といってよいのでしょうか?

 前回紹介したWOSと今回のMEGA、2つの研究の心血管死亡の結果について表にして比べて確認してみましょう。

 

表 2つのランダム化比較試験の結果(比較のため心血管死亡のみ抜粋)

f:id:cometlog:20171123165735p:plain
 

 心血管死亡の相対危険でみると、WOSでは0.68(95%信頼区間 0.47, 0.97)と少なく統計学的有意差があり、日本のMEGAでは0.63(95%信頼区間 0.30, 1.33)と少ない傾向がみられますが統計学的有意差はありません。

 効果を相対危険(割り算の指標)で表すと、2つの研究は同程度といえるでしょう。

 

予防できるのは589人に1人

 ここで注目したいのは、相対危険(割り算の指標)ではなく心血管死亡の発症数(発症率)です。

 

 WOSではプラバスタチン群で1.6%の発症に対して、プラセボ群では2.3%。これに対して日本のMEGAではプラバスタチン群で0.28%の発症に対して、プラセボ群では0.45%となっています。

 この効果を絶対危険減少(引き算の指標)で表すと、WOSでは0.7%に対して日本のMEGAでは0.17%となり、日本のMEGAでは効果が小さいということになるでしょう。

 これを治療必要数(絶対危険減少の逆数)で表すと、WOSでは143人を5年治療すると1人の心血管死亡を予防できるのに対して、日本のMEGAでは589人を5年治療しないと1人の心血管死亡を予防できない、という計算になります。

 

 この効果はいかがでしょうか。

 心血管死亡が予防できるとはいえ、これを大きな効果がある、というのは言い過ぎでしょう。

 これが日本人の脂質異常症治療効果の実態です。

 

*1:Nakamura H, Arakawa K, Itakura H, et al.; MEGA Study Group.Primary prevention of cardiovascular disease with pravastatin in Japan (MEGA Study): a prospective randomized controled trial. Lancet. 2006 Sep 30;368(9542):1155-63. PubMed PMID: 17011942.

 Copyright © 2003, 2007-2021 地域医療ジャーナル