地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

まだ施設入居時にMRSA保菌検査しているの?

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MRSA保菌者の特別扱いは不要

 高齢者介護施設の入居時に行われる健康診断で、いまだにMRSA *1 についての検査を求められることがあります。

 施設入居時では当然、MRSAを発症していることはないことが前提ですから、検査は鼻腔内の保菌状態の確認ということになります。

 施設によっては、陽性の場合に入居を断られたり、除菌まで求められることもあるかもしれません。

 

 随分前にこのような古い慣習はなくなった、と理解しているのですが、いまだに散見されます。

 

 日本感染症学会のウェブサイト *2 にちょうどいいQ&Aがありました。念のため、確認しておきます。

Q:特別養護老人ホーム,老健施設,在宅医療支援施設,心身障害者施設等において,MRSA保菌者にどのように対応すればよいでしょうか.

 

A:ご質問の各種施設におけるMRSA保菌者の処遇に関して,多くの相談が寄せられていますが,以下のように考えられています.これらの施設においては,MRSA保菌者を対象とする特別な対応を行わなくても,MRSAの蔓延,重症MRSA感染症の発症は殆ど見られません.施設全体での抗菌薬投与例が少ないこと,侵襲的な処置や血管カテーテル留置が行われる頻度が低いためと考えられています.過剰な無駄な対応により,患者/利用者に悪影響が及ばないよう工夫が必要です.

 一般的な清潔維持の努力が行われていれば,それ以上の,MRSA保菌者のみを対象とした特別な対応は不要です.

 

(必要なこと)

  • 施設の適切な整理整頓,清掃
  • 医療介護職員の手洗い励行,手洗い設備の整備
  • 施設の適切な食中毒対策
  • 点滴静脈注射,創傷処置などを行う際には無菌操作を徹底
  • 患者/利用者の血液に触れる際の手袋着用,素手で血液に触れてしまった際の手洗いと手指消毒,針刺し事故防止(職員の感染防止のため)
  • 発熱患者の早期診断早期治療(重症例,遷延例では関連病院との連携が必要です)
  • インフルエンザ,疥癬など流行時の適切な対応
  • 結核患者の見落とし防止
(不必要なこと)
  • MRSA保菌者の特別扱い:MRSA保菌者の食器の特別扱い、MRSA保菌者のリネンの特別扱い、MRSA保菌者の個室隔離、MRSA保菌者の行動制限
  • 保菌者の特別扱いが不要であれば,MRSA保菌検査のルチン化も,症状のない保菌者の除菌も不要と言うことになります.
(行ってはならないこと)
  • MRSA保菌を理由とした施設利用の制限:施設入所制限、リハビリテーションの制限(HBV抗原陽性,HCV抗体陽性,梅毒血清反応陽性なども同様です
 以上に示したことの根拠は,『院内感染対策テキスト(改訂4版),日本感染症学会編集,厚生省医薬安全局安全対策課編集協力.へるす出版.pp176-183,2000.)に記載されています.また,このような福祉施設における各種感染症対策の基本については,平成6年発行の厚生省監修『特別養護老人ホーム等における感染症対策の手引き』(全国社会福祉協議会),平成11年発行の『老人保健施設における感染症対策の手引き』全国老人保健施設協議会編に記載されています. (H13.5.15)

 

 平成13年(2001年)の時点での記載のようですが、これは今でも大きな変更はないものと思います。

 

 MRSA保菌者の施設制限や特別扱いは、医学的に不必要であるばかりでなく、倫理的にも問題がありそうです。

 

最近の研究から

 さて、それでは最近の研究ではどうなっているのでしょうか?少し調べてみることにしました。

横断研究(Mody, 2008年) *3

研究の概要 

 尿道カテーテル、胃ろう、中心静脈カテーテルなどを留置した介護施設入居者(125人)に対して複数の部位からMRSA保菌検査を行うと、カテーテルを留置していない介護施設入居者(125人)に比べてMRSA保菌率が高いかを検討した横断研究。

主な結果

 同意が得られなかった人を除く213人が対象。62%が1部位以上からブドウ球菌が検出され、カテーテル留置群では76%、非留置群では47%であった(オッズ比 3.6、95%信頼区間 1.9, 6.7)。

 86人(40%)にMRSA保菌が検出されたが、鼻腔培養で検出されたのはそのうち56人(65%)のみ。

 留置群では55人/105人(52%)、非留置群では31人/108人(29%)とカテーテル留置群でMRSA保菌者が多かった(オッズ比 2.7、95%信頼区間 1.5, 5.0)。

 

鼻腔培養では保菌者も見逃している

 この横断研究では、介護施設入居者でも4割がMRSAを保菌していたこと、鼻腔培養検査では保菌者の65%しか確認できていないこと、カテーテルを留置しているとMRSA保菌が2.7倍多くなること、などが示されています。

 

 この結果からも、そもそも介護施設入居者に一律で鼻腔培養検査を行う意義がほとんどないことが、この研究からも明らかです。

 

 もし介護施設内で何らかのMRSA対策をしようとするなら、まずどこに保菌しているのかを確かめなければならないはずです。MRSAは鼻にいるとは限らないからです。

 

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施設内での特別なMRSA対策には意味がないですか?

質問

 そもそも入居前の鼻腔細菌検査をしてもしなくても、介護施設内にはMRSA保菌者がたくさんいる、という実態はわかりました。また、MRSA保菌者に対する特別な対応も不要、ということもわかりました。

 それでは、介護施設内ではどんな対策が有用でしょうか?

 

 それでは、施設内でのMRSA対策には何か有用なものはあるのでしょうか?

 質の高い論文検索が可能なPMCQ *4 で検索してみました。検索用語は"methicillin-resistant S. aureus nursing home"です。

 検索結果はかなり少なく、よく絞りこまれたようでした。めぼしいものをいくつか、かい摘んでみたいと思います。

メタ分析(Hughes, 2013年) *5

研究の概要

 高齢者介護施設の入居者または職員にMRSA蔓延予防のための予防策を行うと、予防策なしに比べて、MRSA陽性率は低くなるか、について検討したランダム化比較試験のメタ分析。

主な結果

 該当する研究は1研究のみ(クラスターランダム化比較試験)でメタ分析はできなかった。この1研究では、12ヶ月の予防策ではMRSA陽性率は低くはならなかった。

 

 やはり、残念ながらこの疑問については、評価に耐えうる質の研究はほとんどないようです。

 せっかく1研究あるということなので、その論文を確認しておきます。

クラスターランダム化比較試験(Balswin, 2010年) *6

研究の概要

 65歳以上の高齢者介護施設の職員に、2時間の感染対策についての教育セッション(選任された職員にはさらに5時間の追加セッション)および3,6か月後の監査とフィードバックを行うと、感染対策なしに比べて入居者と職員のMRSA陽性率は低くなるか、を検討したクラスターランダム化比較試験。32施設が対象で、16施設ごとのランダム割り付けが行われている。

主な結果

 施設入居者793人、職員338人が対象。施設は平均41-42床の規模で、MRSA保菌率は入居者が17%、職員は感染対策群1.1%、対照群6%。

 1年後の入居者のMRSA陽性率は、感染対策群 44/234 (19%)、対照群 47/244 (19%)とほぼ同等であった。クラスター調整後の相対危険は 0.99 (95%信頼区間 0.69, 1.42)。

 新規の入居者を含めた1年後の時点での施設入居者についての検討では、感染対策群 83/404 (20%)、対照群 67/381 (17%)、クラスター調整後の相対危険は 0.81 (95%信頼区間 0.51, 1.30)とやや感染対策群で低い傾向がみられた。

 職員についても、1年後で感染対策群 9/122 (7.3%)、対照群 5/115 (4.3%)と、ほぼ同等という結果であった。

 

 施設では入居者の出入りがあり、単純な比較は難しいと思われますが、研究開始時からの入所者で検討すると、感染対策をしてもしなくても、MRSA陽性率はほぼ同等であった、という結果になっています。

 

 単純にこの教育セッションに意味がなかっただけなのか、それともMRSA対策全般に一般化して意味がないと言えるのか、この研究だけでは定かではありません。

 少なくとも、このような感染対策には意味がないだろう、ということが確認されています。

 

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MRSA除菌の効果は?

 高齢者の介護施設では、効果のあるMRSA対策は本当にないのでしょうか?

 前回記事のメタ分析は2013年のものでしたが、新しい論文もありそうです。さらに読み進めてみましょう。

 

 まずは、MRSA除菌の効果について。

クラスターランダム化比較試験(Bellini, 2015年) *7

研究の概要

 介護施設に長期入居する65歳以上の高齢者に対して、検査でMRSA保菌があれば除菌し職員には標準予防策を徹底すると、通常のケアに比べて12か月後のMRSA保菌率は少なくなるかを検討した、クラスターランダム化比較試験である。

 

主な結果

 105施設を介入群54施設、対照群51施設にランダム割り付けした。介入群の1施設が脱落。平均44-47床。入居者の平均年齢は83-84歳。入居者の87%が検査を受け、MRSA保菌率は平均8.9%(0~43%)。

 12か月後のMRSA保菌率は介入群5.8%、対照群6.6%といずれも低下していたが、両群に有意差はなかった。

 

クラスターランダム化比較試験(Schora, 2015年) *8

研究の概要

 介護施設、リハビリ施設、認知症施設の入居者にMRSA迅速検査を行い、陽性者に対して除菌すると、除菌なしに比べて、MRSA保菌率が低くなるかを検討したクラスターランダム化比較試験である。

 

主な結果

 12施設にて実施。開始時のMRSA保菌率は介入群16.83%、対照群16.48%。1年後には介入群11.61%、対照群17.85%と介入群で有意に保菌率が低かった。その後は全て介入群としたところ、2年後にはそれぞれ12.84%、8.62%と低下していた。

 

相反する結果に

 MRSA保菌者に対する除菌の効果は、この2つのクラスターランダム化比較試験では相反する結論となっています。

 対象者や方法に多少の違いがあります。方法での2研究の大きな相違点としては、

  • Belliniらは標準予防策の職員指導を徹底した。(Schoraらは手洗い指導のみ)
  • SchoraらはMRSA保菌検査は鼻腔のみ行い迅速検査を採用した。(Belliniらは鼠径部、潰瘍部から培養を採取)
  • Schoraらは鼻腔外用薬とクロルヘキシジン浴のみを行った。(Belliniらは部位ごとにプロトコールを決めた)

 このあたりでしょうか。

 どちらかと言えば、Belliniらの研究のほうがきめ細やかな予防策をとられている印象ですが、そのほうが効果がなかったという結果です。

 

 鼻腔検査のみでは偽陰性が多くなるはずですから、Schoraらの研究では単に鼻腔MRSA保菌に対する外用薬の治療効果を見ているだけなのかもしれません。

 つまり、施設内でのMRSA蔓延が本当に予防できているのか、はなはだ疑問と言わざるを得ません。

 

 

 どうもMRSAを除菌するだけでは効果があるのかどうか、はっきりしませんでしたが、このような方法はいかがでしょうか?

 

ハイリスク戦略

クラスターランダム化比較試験(Mody, 2015年) *9

研究の概要

 尿道カテーテルや経管栄養チューブが留置された耐性菌保菌リスクの高い施設入居者に対して、事前に介護職員に対する注意喚起や教育、定期的な保菌状態のサーベイランスを実施すると、標準的なケアに比べて耐性菌の保菌率は低くなるか、を検討したクラスターランダム化比較試験。

 

主な結果

 12施設を6施設ずつランダム化。同意が得られた介入群203人、対照群215人の入居者が対象。平均年齢(介入群, 対照群)は74.4, 72.5歳、平均留置期間は116.1, 104.2日、尿道カテーテルのみ59.1, 52.1%、経管栄養チューブのみ27.6, 32.6%、両者13.3, 15.3%とそれぞれ両群に有意差はなかった。耐性菌の保菌率は両群有意差なし。

 1年後まで追跡されたのは介入群154人、対照群162人。耐性菌の保菌率は介入群26.6%、対照群32.6%。クラスターの調整(開始時の保菌率、年齢、性別、人種などを含む)後の相対危険は 0.77(95%信頼区間 0.62, 0.94)と介入群で保菌率が低かった。

 

 この結果では、尿道カテーテルや経管栄養チューブを留置している施設入居者に限定した対策をとった場合には、MRSAを含む耐性菌の保菌率が低くなる、という結果でした。

 

 これまでの結果を踏まえると、施設入居者全員に対する対策ではなく、ハイリスク者にターゲットを絞った戦略の方が有効、ということになるのかもしれません。

 

細菌を排除すればそれでよいのか?

 さて、これまで施設における耐性菌の蔓延予防に関する研究を紹介してきましたが、検査した部位に細菌がいなくなってしまえば、それでよいのでしょうか?

 検査していない部位にも残っていることがあるでしょうし、そもそも、職員にも保菌者がいるわけです。

 このような研究の問題点は、細菌の撲滅にアウトカムが置かれてしまうことではないでしょうか。

 

 本来検証すべきことは、細菌がいなくなったかどうかという「代用のアウトカム」ではなく、細菌による弊害が本当に減ったのかどうかという「真のアウトカム」に主眼が置かれるべきでしょう。

 

 このような観点から、これらの研究結果では、施設における対策をすべきかどうかという結論は導くことができません。

 

 一向に真のアウトカムが検証されないことに、一抹の不安を覚えます。

 医療行為を行使することよって一体何をしようとしているのか、医療者や研究者は熟慮すべきでしょう。

 今後も注視していきたいと思います。

 

記事再編 2020-8-9

*1:Methicillin-resistant Staphylococcus aureus、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌

*2:日本感染症学会 - 施設内感染対策事業 - 施設内感染対策相談窓口
http://www.kansensho.or.jp/sisetunai/anser1.html

*3:Mody L, Kauffman CA, Donabedian S, Zervos M, Bradley SF. Epidemiology of Staphylococcus aureus colonization in nursing home residents. Clin Infect Dis. 2008 May 1;46(9):1368-73. doi: 10.1086/586751. PubMed PMID: 18419438; PubMed Central PMCID: PMC3319393.

*4:PubMed Clinical Queries

*5:Hughes C, Tunney M, Bradley MC. Infection control strategies for preventing the transmission of meticillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) in nursing homes for older people. Cochrane Database Syst Rev. 2013 Nov 19;11:CD006354. doi: 10.1002/14651858.CD006354.pub4. Review. PubMed PMID: 24254890.

*6:Baldwin NS, Gilpin DF, Tunney MM, Kearney MP, Crymble L, Cardwell C, Hughes CM. Cluster randomised controlled trial of an infection control education and training intervention programme focusing on meticillin-resistant Staphylococcus aureus in nursing homes for older people. J Hosp Infect. 2010 Sep;76(1):36-41. doi: 10.1016/j.jhin.2010.03.006. Epub 2010 May 7. PubMed PMID: 20451294.

*7:Bellini C, Petignat C, Masserey E, Büla C, Burnand B, Rousson V, Blanc DS, Zanetti G. Universal screening and decolonization for control of MRSA in nursing homes: a cluster randomized controlled study. Infect Control Hosp Epidemiol. 2015 Apr;36(4):401-8. doi: 10.1017/ice.2014.74. PubMed PMID: 25782894.

*8:Schora DM, Boehm S, Das S, Patel PA, O'Brien J, Hines C, Burdsall D, Beaumont J, Peterson K, Fausone M, Peterson LR. Impact of Detection, Education, Research and Decolonization without Isolation in Long-term care (DERAIL) on methicillin-resistant Staphylococcus aureus colonization and transmission at 3 long-term care facilities. Am J Infect Control. 2014 Oct;42(10 Suppl):S269-73. doi: 10.1016/j.ajic.2014.05.011. PubMed PMID: 25239721.

*9:Mody L, Krein SL, Saint S, Min LC, Montoya A, Lansing B, McNamara SE, Symons K, Fisch J, Koo E, Rye RA, Galecki A, Kabeto MU, Fitzgerald JT, Olmsted RN, Kauffman CA, Bradley SF. A targeted infection prevention intervention in nursing home residents with indwelling devices: a randomized clinical trial. JAMA Intern Med. 2015 May;175(5):714-23. doi: 10.1001/jamainternmed.2015.132. Erratum in: JAMA Intern Med. 2015 Jul;175(7):1247. PubMed PMID: 25775048; PubMed Central PMCID: PMC4420659.

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